2008年11月01日 社説 


[控訴審判決]

軍の深い関与が明白に


 沖縄戦の際、慶良間諸島で起きた「集団自決(強制集団死)」をめぐる裁判の控訴審判決で、大阪高裁の小田耕治裁判長は原告の主張を退け、控訴を棄却した。

 今年三月の大阪地裁判決に続いて再び、元戦隊長側敗訴の判決が言い渡されたことになる。

 小田裁判長は「最も狭い意味での直接的な隊長命令に限れば、その有無を断定することはできない」と述べた。

 この指摘は、戦隊長による自決命令について「伝達経路が判然とせず、(あったと認定するには)ちゅうちょを禁じ得ない」とした一審判決に通ずるものだ。

 「なかった」とも言い切れないが、「あった」とも断定できない、という立場だ。

 控訴審判決はその一方で、座間味島、渡嘉敷島での「集団自決」に日本軍が深くかかわっていることは否定できない、とも指摘している。これも一審判決に沿ったものだ。

 一審、二審を通して隊長命令の有無や日本軍の関与についての裁判所の見方が定まった、と言える。

 二〇〇六年度の教科書検定で文部科学省は、検定意見を付し、「集団自決」に関する軍の強制記述を削除するよう求めた。〇五年度まで認めてきた記述がなぜ、〇六年度になって突然、許されなくなったのか。

 文科省側はこれまで「学説状況の変化」と「元戦隊長の裁判での陳述書」がその根拠だと説明してきた。だが、二度にわたる判決で、検定意見そのものに問題があることが明らかになったと言えよう。

 この裁判は、作家の大江健三郎さんが書いた『沖縄ノート』などの中で名誉を傷つけられたとして、当時の戦隊長らが、大江さんや出版元の岩波書店に対し、本の販売差し止め、慰謝料の支払いなどを求めているものである。

 控訴審判決で注目されるもう一つの点は、書籍発刊当時、その記述に真実性や真実相当性が認められるのであれば、その後、時がたって新しい資料が見つかり、その真実性が揺らいだ場合であっても、出版の継続が直ちに違法になると解することはできない、との判断を示したことだ。

 判決は、著者が常に新しい資料の出現に意を払い続けなければならないとしたら「そのような負担は言論を萎縮させることにつながる」と指摘している。控訴審判決で新たに登場した論点に対し、最高裁がどう判断するか。言論・表現の自由との関連が深いだけに、注目したい。

 日本軍による住民殺害と「集団自決」は、沖縄戦を特徴づける出来事である。しかも、この二つの出来事は相互につながっている。

 この問題から目をそらしては、沖縄戦の実相に触れることができない。昨年九月の県民大会で高校生代表は語っている。「分厚い教科書の中のたった一文、たった一言かもしれませんが、その中には失われた多くの尊い命があります」

 沖縄戦の史実に向き合うことは失われた尊い命に向き合うことなのだと、控訴審判決に接してあらためて思う。



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