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社説:大麻汚染 不正、腐敗の風潮が助長する

 慶大生が2人、キャンパス内で大麻を売買したとして逮捕された。吸引した学生は他にもいる模様だ。昨年秋の関東学院大、中央大、関西大、法政大……と、各地で大学生による大麻乱用事件が相次ぐ。高校生が逮捕されるケースも目立つ。多くは遊び半分の軽率な犯行だとしても、勉学に励むべき若者を巻き込む薬物汚染の広がりに、驚きと不気味さを禁じ得ない。

 大麻をめぐっては大相撲の幕内力士が逮捕されたり、解雇される騒ぎが起きて社会問題化したばかりだが、事件は増加の一途をたどっており、検挙者は最近10年で倍増した。警察庁によると、今年上半期は1686件、1202人が摘発され、過去最多を記録した。

 大麻は自然界のもので危険性は低いからと安易に手を出す人が後を絶たないが、世界保健機関(WHO)の報告などでは、やる気がなくなったり、抑うつ状態に陥ったりする大麻依存症候群が確認されており、統合失調症を誘発するとも指摘されている。

 オランダ、ベルギーなどでは個人使用や少量の所持、売買で訴追されないことを根拠に、国内でも合法化を求める声もあるが、オランダなどでも薬物使用が公認されているわけではない。より悪性が強い薬物の乱用を防ぎ、注射針の使い回しによるエイズ感染を防止するための次善の策として黙認されている。覚せい剤、コカインなどへ薬物依存が進む人も少なくなく、密売で暴力団などが資金を調達している現実もある。規制緩和などは、およそ現実的ではない。

 乱用防止の観点に立つと、大麻取締法には効力不足のうらみもある。一つは、大麻の使用自体が処罰されない点だ。尿検査で使用を突き止めても、アサが各地に自生し、産業用に加工されて普及していることなどを背景に、乱用によって吸引されたかどうかまで判別できないせいだが、結果として取り締まりは歯がゆいものになる。

 香辛料や鳥のエサに使われていることを理由に、種子の売買が規制の対象外にされていることの問題もある。インターネットで種子が観賞用や標本用の名目で堂々と販売され、栽培法を紹介する本なども出回っているせいで、大麻が入手しやすくなったからだ。不法栽培の摘発件数は、10年前の約5倍に増えている。汚染に歯止めが掛からないならば、大麻取締法を見直し、不法な栽培をそそのかす種子の売買行為などを規制する必要も生まれよう。

 麻薬がまん延するのは汚職や腐敗がはびこる社会だ、と歴史は教えている。大学生らが違法を承知で大麻に手を染める現状は、政治家や公務員、経営者らの相次ぐ不祥事と無縁でない。社会全体のモラルと規範意識の高揚なしに、大麻汚染の一掃は望めない。

毎日新聞 2008年11月1日 東京朝刊

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