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社説:日米利下げ 中央銀行は危機から教訓学べ

 日銀が7年半ぶりの利下げに踏み切った。米国の金融緩和と歩調を合わせたものだ。来週には、欧州での追加利下げが予想されている。世界的な超低金利時代が始まろうとしている。

 米国の政策金利は昨年9月の年5・25%から、わずか1年余りで過去最低と並ぶ1%になった。米中央銀行の連邦準備制度理事会(FRB)は、追加利下げも視野に入れているようだ。

 それに比べ日本は、0・5%から0・3%への変更に過ぎない。この水準では、金利を下げたところで、景気を刺激する効果はほとんど期待できまい。今下げたら、この先動ける余地も一層狭まる。

 それでも、各国が相次ぎ金利を下げる中で、象徴的にせよ協調姿勢を示すことに重要な意味があった。外国為替市場の円相場や株式市場が乱高下する中、日銀だけが現状維持では、さらに市場の混乱を招く恐れがあったことも利下げにつながったのではないか。

 デフレの色が薄れ景気の改善が続いていた段階で、金利水準を正常化していたら、もう少し利下げの余地も残っていたことだろう。

 米国も1%まで利下げした結果、ゼロ金利も視野に入れざるを得なくなってきた。異例の危機には、異例の政策対応も時として必要だ。だが、金利は異例の低さが続くと、効果より中長期的な弊害の方が大きくなる場合もある。日米という世界1、2位の経済大国が、そろって超低金利政策を継続すれば、資金の流れなどに、新たなゆがみが生じたりはしないか。主要国の中央銀行は、低金利の副作用にも十分目配りする必要がある。

 金融危機を招いた要因には、化け物のように自己増殖していった新種の金融商品やウォール街の強欲、市場を放任した監督上の失敗などが挙げられている。しかし、そうしたマネーの暴走を許したそもそもの背景には、主要国が金融緩和を続け、金余りがどんどん進んだことがある。

 極端に低い金利で借りられる資金があふれ出せば、リスクへの警戒は薄れていくものだ。少しでも高い利回りを得ようと、マネーがリスクを追い求めるようになる。借り手も借金という行為への警戒心を失い、返済責任を重く受け止めないようになりがちだ。低金利による金余りは、貸し借りに伴うべき規律を奪った。

 中央銀行はこれまで、物の値段の安定に専念し、不動産や株式といった資産のバブルには、正面から向き合ってこなかった。資産価格を安定させる手段を持ち合わせていないとか、バブルの判定自体が困難だとの理由が挙げられてきた。

 だが、これほどの金融危機が起こった以上、中央銀行も教訓を学ばねばならない。金融政策をどのように改善すべきか、真剣に考える時期が来た。

毎日新聞 2008年11月1日 東京朝刊

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