麻生太郎首相は「十一月十八日公示―同三十日投開票」が有力視されていた衆院解散・総選挙の日程を当面見送る方針を表明した。
世界的な金融危機と景気後退を受け、経済対策を最優先するというのが見送りの理由だ。政局より政策重視を大義名分にしたが、誤算続きで解散を決断できないとみるべきだろう。
麻生首相の最大の弱点は、安倍、福田内閣と三代も続けて国民の信を問わないまま政権を率いていることである。野党はもちろん、有権者の間でも不信感は根強い。
本人もそこは強く意識しているようで、九月下旬の首相就任直後の“ご祝儀人気”が冷めないうちに、今国会冒頭での解散をもくろんでいたとされる。だが、世論調査の支持率が芳しくなかった上、自民党独自の選挙情勢調査でも「苦戦は必至」との予測が出たため、解散に二の足を踏んだという。
その後も経済対策を盛り込んだ補正予算成立後や、今回の追加経済対策決定を機に勝負に打って出る意向といわれたが、支持率低迷や株価下落などによって解散の時期を逸したようだ。
今後は景気や支持率の動向に加え、野党との駆け引きの中で解散のタイミングを探るのだろう。まさに「展望なき解散見送り」といえる。求心力低下も懸念され、政権失速のリスクを抱え込んだ持久戦になろう。
最も肩透かしを食った感があるのは民主党だ。早期解散を迫り、最近は十一月総選挙に照準を合わせ準備を進めてきた。国会では審議促進に協力してきただけに反発は大きい。
これまでの国会対応を転換し、必要なことは徹底的に審議すると対決姿勢を強める。そもそも徹底審議は当然のことであり、早期解散を期待して審議促進に前向きだった姿勢には違和感を覚えた。解散見送りを政権担当能力を示す好機を得たととらえ、正面から政策論争を展開すべきである。意図的な審議拒否などの戦術を取れば、国民の期待を裏切るだけだろう。
議論の材料には事欠かない。追加経済対策をはじめ、金融危機への対応や後期高齢者医療制度の是非など課題は山積している。与野党の攻防は次期衆院選での有力な判断材料になろう。双方とも腰を据え、緊張感のある審議で政策を競い合う必要がある。
解散の時期は不透明だが、いたずらに先送りするのは政権の正統性の問題にかかわる。外国に対しても重みが違おう。株価や為替の混乱が落ち着いた段階で、早急に民意を問うべきだ。
政府、与党の追加経済対策がまとまった。米国発の金融危機が深刻化し、世界的に景気後退懸念が強まる中、家計や中小企業の支援、地方活性化を狙った盛りだくさんの内容となった。
目玉の一つが総額二兆円の給付金だ。定額減税として検討されてきたが、税法改正などの手続きが必要なことや非課税の低所得層などに効果が及ばないことなどから、現金かクーポン券を支給する給付金に切り替えられた。全世帯が対象となり、消費効果が期待されるという。
しかし、同じようなクーポン方式で一九九九年に実施された「地域振興券」は、旧経済企画庁の調査では新たな消費に振り向けられたのは振興券使用額の約32%にとどまった。今回も景気浮揚にどれだけ効果があるか、疑問を抱かざるを得ない。
地方活性化策では、道路特定財源の一般財源化に伴い、一兆円を地方に振り向けるほか、地方圏の高速道路料金の引き下げを行うことにした。中でも高速道の料金については、休日(土日祝日)は原則千円を上限とし、平日は三割程度引き下げるという踏み込んだ計画で、瀬戸大橋も対象になる。これまで割高な料金で利用が伸びなかっただけに、消費や経済活動両面への刺激が見込まれる。
このほか、住宅ローン減税の拡大・延長や中小企業の資金繰りの支援、証券優遇税制の延長などが盛り込まれた。野党からは選挙目当ての“ばらまき”という批判も出ており、民主党は独自の景気対策をまとめた。国会で論議を深めるべきだ。
外需頼みだった日本経済は世界的な金融危機で打撃を受けており、内需主導への転換が必要だ。国内消費や中小企業を支え、持続可能な社会を目指すために、経済をどう再構築するかが、問われている。
(2008年10月31日掲載)