自閉症スペクトラムの成人女性の患者さんが先日受診されたときのこと。
二次障害として抑うつがみられて何年も前から精神科に通っているのですが,最近はかなり調子がよくなっていて,今では父親の経営するお店を毎日コンスタントに手伝えるようになってきていて。
彼女曰く,「私の調子がよくなってきてうまく働けるようになると,父はさらに仕事を増やそうとするんです。今までずっとそうで,そのたびに具合が悪くなって…」と。
元々の仕事量さえやっとの思いでこなせているというのにそれ以上の負荷を掛けようとするなんて無茶だ,と思って以前は父親にけんか腰で訴えていって,でも父親にはそれが受け容れてもらえずに結局自分がイライラして調子を崩すことになっていたのだそう。
調子よく働けている今もまさに父親から仕事の負荷を増やされそうなところなのですが,話をお聞きしてみると,どうやら今はうまく調子を保って過ごすことができているようなのです。
どうしてかわせるようになったの? と尋ねたら,
「今までは『父にわかってもらおう,父にはわかるはずだ』と思ってたから説得しようとして疲れてしんどくなってた。今は『どうせわかってもらえないんだから』と割り切って,父とは口論せずに,仕事のほうは自分に無理のない範囲でやってます。そのほうが自宅での居心地もいいし」と。
…すばらしい諦め(笑)だな,と思いました。
自分と相手の考え方が違うことに気付きにくかったり,自分のこだわりのあるやりかたを押し通そうとしたりして,トラブルになりやすい自閉症スペクトラムのひとたち。
相手を説得したいけれどあえてそうしないで黙っておくほうが結果的に自分も楽に過ごせる,という気付きが得られて,それを実行することができているなんて!
おとなになってからでも対人関係スキルをちゃんと向上させることができて,そしてそのおかげで実際に二次障害を軽減することもできるんだなぁ,と教えていただくことのできた診察のひとこまでした。

↑ おかげさまでランクUPです。 あなたのクリックで応援よろしくお願いします♪
コメント
コメントはまだありません。コメントを書く