横浜地裁に入る横浜事件第4次再審請求の弁護団。左から請求人の小野新一さん、斎藤信子さん=31日午前、横浜市中区、福留庸友撮影
記者会見で涙ぐむ請求人の斎藤信子さん(左)と小野新一さん=31日午前、横浜市中区、福留庸友撮影
戦時下最大の言論弾圧事件とされる「横浜事件」で、治安維持法違反の罪に問われ有罪が確定した雑誌「改造」の元編集部員の遺族が申し立てた第4次再審請求に対し、横浜地裁(大島隆明裁判長)は31日、再審開始を認める決定を出した。事件が捜査当局による「でっち上げ」だった疑いを強く指摘した。
他の遺族が起こした3次請求では「特高警察の拷問などで自白の信用性に疑問が生じる」との理由で再審開始が認められた。今回の決定では同様の理由を述べたうえで、共産党再建のための謀議とされた富山県泊町(現・朝日町)の会合(泊会議)について「編集者の慰労会に過ぎない」と言及した。
ただ、3次請求の再審では、治安維持法の廃止と大赦を理由に有罪か無罪かの判断をせず裁判を打ち切る「免訴」が今年3月に最高裁で確定。上級審の判断は下級審にも影響するため、4次請求での再審が開かれても、免訴となる公算が大きい。
編集部員は故小野康人さん。小野さんの次男、新一さん(62)と長女、斎藤信子さん(59)が02年3月に再審請求をしていた。
小野さんは42年に雑誌「改造」に発表された政治学者の論文の校正を担当。この論文が「共産主義の啓蒙(けいもう)だ」として43年5月、神奈川県警特高課に逮捕され、敗戦直後の45年9月に有罪判決を受けた。59年に死去した。
再審を認める根拠となったのは、小野さんらを取り調べた警察官3人が拷問をしたと認定した戦後の有罪判決など。決定では、裁判所側が小野さんの元の裁判記録を燃やしたとされる点についても「不都合な事実を隠蔽(いんぺい)しようとした可能性が高い」などと指摘した。
弁護団の佐藤博史弁護士は「泊会議が共産党の再建準備会とは考えられないことなどをはっきり明示してくれた。当時の裁判所にも責任があると認めた決定でもある。事実上の無罪判決と受け止められ、意義は大きい」と高く評価した。
横浜地検は「主張が認められず残念だ」とコメントを出した。(長野佑介)