<BIG TALK>

第六航空団司令兼小松基地司令空将補 田母神 俊雄
APAグループ代表 元谷外志雄


独立自衛の時代。
グローバルな視点で「自衛隊のある日本」を考えたい。

新しい世紀の平和のためにも、近代史をもっと教えるべきだと思う。

元谷●お忙しいところ、時間をとって頂きありがとうございます。自衛隊に関しては私自身も相当な思い入れがありますので(笑)、さっそく対談を進めさせて頂きます。 まず身近な事柄からの質問です。小松基地としては、スクランブル体制も重要な任務の一つだと思いますが、実際、スクランブルの回数はどの程度ですか。
田母神●スクランブルの回数については、十年ぐらい前と比べると、かなり減っています。
元谷●東西冷戦の時代には、定期航路みたいにして、日本の領空ラインすれすれをずっと、ウラジオストックの方から…。
田母神●はい、そのようなことが以前はしょっちゅうありました。
でも今はロシアの航空活動そのものが若干低下しているということがありまして、我が日本の領空に接近することはかなり減ってきていますので、スクランブルそのものはかなり減っています。
元谷●ロシアに対しての緊張関係はここのところ低下しているということですね。先日、韓国の沖合で北朝鮮の潜水艇を韓国軍が攻撃するとか、そのようなこともありましたね。そのようなことについて、日本の自衛隊はかなり掌握されていたようですね。いろいろ機密的なこともあるのでしょうね。 テポドンのときも小出しに情報を出されていたようですか、本当はかなり掌握されていたと私は思っていますが…。
田母神●あまり詳しいことは言いませんが、日本の情報力も逐次向上しています。日本周辺や、日本海に面した大陸部分などの情報については、現在、どういう状態にあるかということまで、どこにどういう船、どういう飛行機がいて、どういう訓練をやっている、今日はどこからどこへ移動したなど、そういうことについては、ほぼ掌握しているのではないかと思います
元谷●こちらですと、能登の方にレーダー基地サイトがありますね。
田母神●はい。あれは航空活動を監視しています。
元谷●それから、いわゆるイージス艦というものが、今回の場合などは事前に人工衛星で発射の予測をつけて、監視していたような…。
田母神●あれは、ほぼ一か月前から、撃つのではないかと…。
元谷●発射体制が刻々と…。
田母神●はい。そのようなことで、我が方の、米軍も含めて、船、飛行機が一応の監視体制をとっていました。
元谷●第一報の新聞を読んだとき、ちょっとおかしいなと思いました。実際はもう少し掌握されていることだろうとは思いました。いろいろな政治的な思惑もあって、アメリカなどもいろいろな関係があって、人工衛星説というものを、まだ捨てきっていないといいますか…。もちろん、一種の偽装として、最終段ロケットの部分から何か発射して、人工衛星実験もどきのことはあったろうとは思いますが、もともと、ある意味においては、日本に対する威嚇ではないか、私はそうとらえるべきではないかと思います。経済的に息詰まった北朝鮮が軍事的に経済援助を引き出すために…。
田母神●日本の場合は、戦後の教育の問題もあると思いますが、第二次大戦に負けて、東京裁判以降、まず日本が悪い、もう一つは、国家、国が悪い、国民は常に善良だ、日本の国以外は、みんな、いい人ばかりで、いい国ばかりだという教え方をずっとしてきたのではないかと思います。私は、それが行き過ぎていると思っています。今、世界を見てみるとちょっと言葉が悪いのですが悪ガキみたいな国家がたくさんあるのではないでしょうか。これに対し私はアメリカや日本は大人の国であると考えています。現在のところ、大人の腕力(すなわち軍事力)が悪ガキの腕力より強いので国際社会の秩序が維持されていると思います。これが抑止ということなのですが、もし米国を中心とする先進諸国の軍事力がなければ国際社会は無法地帯になってしまいます。
元谷●そうですね。
田母神●実際、国というのは国民の生活を守るためのものです。日本がよその国に比べてそんなにひどかったかといいますと、私はそうではないと思います。
元谷●そうですね。
田母神●今の日米関係は、日本の安全と繁栄の基本だと思いますが、アメリカそのものも、第二次大戦までのアメリカは今のようなアメリカではなかったと思います。
元谷●そうですね。
田母神●アメリカ自体が十九世紀の後半から第二次大戦が終わるまで、執ように日本をいじめ続けたというところがあると思います。実際、いわゆる「排日移民法」という法律が米国議会で成立し、日系人が全ての財産を没収されたのは、わずか75年前、1924年のことなのです。これらの日系人は第一次世界大戦ではアメリカの兵士として戦争にも参加しているのです。そういう人種差別が公然と行われていたのは大昔のことではなく、20世紀に入ってからのことなのです。人種差別がタテマエ上許されなくなったのは、1948年の国連による世界人権宣言以降のことです。日本では、徳川時代や安土桃山時代の歴史はかなり詳しく教えますが、近代史はほとんど教えませんよね。そのあたり教育の問題が大きいと思っています。

マスコミの姿勢も変わりつつある、自衛隊に対する認識!

元谷●教育と、それにマスコミの問題も大きいと私は思っています。
井戸端会議のときはまだよかったのですが、ぱっと書いた記事や、ぱっと話したことが、いきなり全国に広がって、マスコミ世論となってしまいます。一人一人の意見や考え方が世論を作りだすのではなくて、マスコミが作り出す世論というものがすごく影響を与えてしまいます。この辺に少し恐いところがあります。
田母神●そうですね。偏った事実だけを報道するから、どうしてもそうなりますね。実際は情報操作しているのと同じことですね。やはり、均等に報道しなければいけません。
元谷●比較的最近では、一部マスコミを除いてはマスコミ論調も、自衛隊に対する認識が、変わりつつあると思います。かつては、自衛隊と言っただけでアレルギーを起こしたり、旧軍隊と混同したりしました。確かに旧軍も悪いところはあったかもしれません。しかし、どこの国の軍隊もすべてが正しかったわけではありません。やはり、過去にいろいろな問題を持っているわけです。イギリスが謝罪するとなれば、世界中を謝罪して歩かなくてはいけない、大変な歴史を持っている国ですからね。
田母神●歴史と言えば、私はここ小松に来て、やはり前田藩の加賀百万石というだけあって、尚武の気風といいますか、武を尊ぶといいますか、そういう気風が非常に残っているなと感じています。
元谷●陸上自衛隊の方でしたけれども石川・金沢の県民性・市民性は、ほかの基地と比べると非常に自衛隊に対する市民感情がいいのでという話をおっしゃっていました。
田母神●そうですね。そういう意味では、我々がここで勤務して、訓練などをやるうえには、非常に心安らかにやらせていただいています。
元谷●やはり皆で支えようといいますか、自分たちの国、生命、財産を守ってもらっているという根底認識が育っているといいますか、実態を理解しているといいますか。そのあたり、地域によって認識の差がありますね。
田母神●そうですね。自衛隊も戦後ずっと叩かれてきた歴史があるから、どうしても…。
元谷●私のペンネーム(藤誠志)のエッセイにも書きましたが、北朝鮮のミサイルが日本上空を通過したことは、ある意味で、非常にいい反面教師であり、北朝鮮にとっては日本を脅かしたつもりだったのが、反対に平和ボケの日本の眠りを覚まさすことになったのではないでしょうか。ペリーが浦賀に来て、日本が急速に変わりましたよね。ああいうことがなければ、もう少し鎖国状態が続いて、いきなり列強の侵略を受けて、中国のように植民地化されたかもしれませんね。そういう意味では、テポドンのミサイルが日本を通過したことは、日本にとって一つの脅威が反面教師として自衛隊の必要性を…。かつて'92年5月号のアップルタウンに偵察衛星の必要性を書いたときは偵察衛星なんて必要ないのではないかとの意見が強かったのに、最近は世論調査やマスコミでも、偵察衛星くらい持たないといけないのではないかとなってきていますからね。
田母神●はい、すでに予算化されて、動き出しましたからね。
元谷●ただ、偵察衛星を持っても、それだけでは、有効なものにはなりませんよね。今、TMD構想などいろいろありますが、これも今の科学技術だけでは、有効な迎撃率という点では、まだ不十分ですよね。アメリカですら、まだ完成していません。
田母神●実際、ミサイルでミサイルを完全に撃ち落とすようになるには、まだ五年、十年と時間がかかると思います。
元谷●ある意味で、TMDの研究も必要ですが、それで完全にカバーしようとすると膨大な経費がかかってしまいます。日米安保条約はもちろん大事なものとして守っていかなければいけませんが、やはり今後は平等互恵の安保条約に改定していかなければいけないでしょう。一方的に、今までの東西冷戦の中にあって自衛隊の求められた役割というのは、アメリカの防波堤として…。
田母神●陸上自衛隊はもともと警察の予備隊ですが、海上自衛隊はアメリカの海上作戦をやる前提の中で、対潜水艦戦をやるために立ち上がっているわけです。航空自衛隊は、当初、アメリカに占領されていた極東の、日本にある米軍基地を守る防空部隊としてできあがりました。ですから、世界の空軍は圧倒的に攻撃が主体です。しかし、日本の場合は防空ですから、守ることが主体となっています。

小松基地の役割が、今後ますます重要になる。

田母神●やはり、このあたりのことを考えますと、国家が悪い、日本の国が悪いという戦後の教育が行き過ぎていると思います。
元谷●そうですね。自衛隊が本当の意味で、きちんとした役割を演じていけるように支えていくのは、やはり、国民全体の世論です。世論がきちんとした考えで、今の現実、世界観、歴史観を持って、正しく支えていかなければいけません。
田母神●私は隊員にもよく言うのですが、自分たちのやっていることが正しいことである、正義である、という気持ちがやはり使命感だと思います。それが、おまえたちがいるから戦争になるという風潮ですと、隊員が使命感を持つのはなかなか難しいと思います。そうではなく、アメリカを中心とする今の旧西側の軍事力が世界の絶対権力となって、悪いことをすればたたくぞというにらみをきかせているから、国際社会が安定しているのだと…。
元谷●ベトナム戦争はアメリカがベトナムに負けたのではありません。北ベトナムが南ベトナムに正規軍を派遣しながらも、民族解放戦線の偽装をして南進してきたことに対して、世界のマスコミがうがったとらえ方で報道し、それが世界の反戦運動になり、アメリカ国内の世論に足をひっぱられて…。
田母神●ベトナムというのは、いわゆるゲリラ戦なのです。アメリカは、ベトナムで初めてゲリラ戦を体験したのだと思います。そのときに、隣にいたおばさんが突然アメリカ兵に襲いかかるということがあって、ゲリラ戦とはこんなものなのだということが初めてわかったのだと思います。結局、戦う相手が誰かわからないわけですから…。
元谷●そのことが過大に報道されて、本来なら北ベトナムが南ベトナムを侵略したわけですが、そういうとらえ方ではなく、いかにもアメリカが不正義な戦争をしているということで、戦う兵士自身が使命感が持てなくて、結局、自己崩壊のようなかたちで負けてしまったわけですからね。戦うときにはやはり使命感、日本の国家、国民のために私はこういうことをやっているという錦の御旗をきちんと掲げてやらなければいけないと思います。企業経営においてもそうですが、お金もうけのためにやるのだと言っても、ついてきません。
田母神●人間と動物の一番の境目はそこだと思います。
元谷●そうです。ですから、私はいつも社員に日本の住まい文化に貢献するために頑張らなければいけないと言っています。ものごとには大義名分と言われる「錦の御旗」が必要です。
政治というのは、生命、財産を守ることがもとであって、そのためには力の背景がないと守れません。それが軍事力なのです。その軍事力を厳封して、制約の中で、ママっ子のように育ってきたことが、戦後の日本をこういうていたらくの国にしてしまったのかなと…。今からは、周辺有事といいますと、日本海を取り巻く環境です。小松基地が担う役割はますます重要になってきますので、そういう意味からも、怠りなく、万全の体制で頑張っていただきたいと思います。私はエールを送る一人です。
田母神●ありがとうございます。

仕事上でも、私生活でも、目標を持ち、夢を持って欲しい。

元谷●私も自衛隊に対しては熱い思いがありますので、少しばかり饒舌になったかも知れませんが、お許しください(笑)。最後にいつも、若い人に一言ということでメッセージをお願いしているのですが…。
田母神●いつも若い人に言っていることは、やはり、目標を持ちなさいということです。私は、人間というのは目標に向かって努力するように作られていると思います。ですから、「今年の目標は何だ」と言ったときに、まず自分の仕事の目標、それから私生活での目標。若い人であれば、例えば三百万円貯金するとか、今年は結婚しようとか、マンションを買おうとか、そういう私生活の目標。仕事で言えば、ここまでできるようになろうとか、Fー15の操縦も初級、中級、上級とあるのですが、上級になろうとか、ミサイルの命中率で日本一になろうとか。とにかく仕事と私生活での目標を必ず立てなさい、それに向って努力しなさい、と言っています。
元谷●目標を定めて、一日一日充実した日々を一生涯続けられる人生を送りたいですね。毎日全力でトライすることですね。
田母神●やはり、心が前向きだと、顔つきが違ってきますからね。
元谷●そうですね。確かに顔を見ると大体わかります。ある程度の年になったら、自分の顔に責任を持てという言葉がありますね。
田母神●まさにおっしゃるとおりだと思います。
元谷●特に軍人はそういうものが大事だと思います。
田母神●幸い、自衛隊などでは、練成訓練の目標とか、いろいろな業務、例えば戦技競技会で飛行隊が優勝するとか、仕事上の目標は比較的設定しやすい体制になっています。一方、個人の生活目標も非常に大事なことです。仕事と私生活を合わせて頑張れと、いつも言っています。
元谷●やはり自分の人生ですし、人生は一度しかありませんから、大事にしたいですね。
田母神●カーネギーが『人を動かす』という本を書いていますが、非常にいい本だと思いました。その姉妹編で『道は開ける』という本がありますが、今、代表がおっしゃられたようなことが書いてあります。
元谷●そうですか、同じ事を言っているというのは嬉しいですね。今日はお忙しい中、いろいろありがとうございました。