地方の医師不足解消を目指す旭川医大の「高大病連携によるふるさと医療人育成の取り組み」が、今年度の文部科学省の「質の高い大学教育推進プログラム」(教育GP)に採択された。医師を志す高校生を対象にゼミを開いたり、拠点病院など地方の医療現場で学生の実習を行い、将来の地域医療を担う人材育成に3年間かけて取り組む。【千々部一好】
□■ゼミ形式で討議
地元・旭川東高校の医学部志望の3年生20人が旭川医大を訪れ、大学のゼミと同じ形式で医療をめぐるさまざまな問題についてグループ討議を行った。教授も立ち会い、生徒同士が意見を出し合う。
「わずかな可能性にかけた積極的な治療か、身体的・精神的苦痛を減らす緩和ケアか。生との向き合い方もいろいろです」。終末医療をテーマにしたグループでは、生徒が自ら調べたことを発表し、それを基に話し合った。俳優活動を優先して投薬など最低限の治療に徹した緒形拳さんと、舞台出演を断って抗がん剤など積極的治療にかけた峰岸徹さん。がんで相次いで亡くなった有名俳優2人の死を例に、活発な議論が展開された。
参加した木田涼太郎さん(18)は「今回参加して、なぜ医師になりたいか、自分の頭の中でも整理されてきた。学力だけでなく、医学部に進む大切なものを学べた」。佐藤帆奈美さん(17)は「子供の時は病弱で、町の医師のお世話になった。その恩返しのつもりで地域医療にかかわりたい」と話す。指導に当たった同大入学センターの坂本尚志教授は「自ら問題を見つけ、その解決策を考える力が医療人には重要です。それを高校生の時から育てたい」と意義を強調する。
□■出前授業や体験学習も
「地域医療問題の解決」を建学の目的とする同大は来春の入試で「地域枠」を拡充し、医学部の入学定員100人のうち半数を道内出身者に振り向ける。
ふるさと医療人育成は、大学が高校、病院と連携し、地域医療の担い手を育てるのが狙い。道教委が今春から医進類型指定校とした旭川東、北見北斗、釧路湖陵、帯広柏葉など9校を中心に、すでに出前授業を始めているほか、病院での体験学習も検討。高校生のうちから地域医療の現状を伝え、医療人としての職業観や使命感を身につけてもらおうという取り組みだ。
□■地域医療学を新設
さらに釧路市医師会病院、名寄市立病院、遠軽厚生病院などの地方拠点病院と連携。来年度のカリキュラム改革で地域医療学を新設し、病院での実習だけでなく、病院と連絡を取り合う地元の診療所や在宅医療・介護現場など地域医療全体を学べるように見直す。
ふるさと医療人育成のプロジェクトを担当する蒔田芳男教授は「地域に残ることを条件とした奨学金制度もある。しかし『地域で育った』『地域で生活した』という経験が大きいとの報告がある。地域医療の現場を早い段階から学び、将来、ここで働きたいというモチベーションを上げていきたい」と話している。=金曜日に掲載します
毎日新聞 2008年10月31日 地方版