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企画特集

【東北の医療】

(下)東北大も人不足

2008年10月30日

 −第1部 加速する病院再編−

 ・派遣要請 応じきれず

 宮城県南部にある白石市など1市2町でつくる公立刈田総合病院が揺れている。

 07年4月に38人(研修医3人を含む)いた医師が、院長の経営方針への反発から次々と去り、東北大学の医師引き揚げもあって今年7月には24人(研修医ゼロ)になった。

 「前と同じ数の患者は受け入れられない」(遠藤篤志事務部長)と、軽症での受診を控えるよう求める異例のチラシを地域に配布。06年に1日平均650人だった外来患者を500人程度まで減らし、何とかしのいでいる。

 ・「300床程度では」

 病院管理者の白石市長は県知事に医師確保への協力を要請。県の働きかけで8月から自衛隊病院の医師が当直医として派遣されることになった。新院長に東北大から高林俊文氏を招き、同大から医師を派遣してもらおうと奔走を始めた。ただ、高林院長は「感触は厳しい。常勤を非常勤にすると言われた診療科もある」と語る。
 刈田総合病院は300床あまり。年に新築されたが、同じ年、約20キロ離れた大河原町にも同規模の公立みやぎ県南中核病院ができた。この二つを統合して500床程度の大きな1病院に、という考えが東北大にはある。

 「マグネットホスピタル」構想。地域医療システムを研究する伊藤恒敏教授らが提唱する。「300床程度では、若い医師が新しい技術を学ぶのが難しい。500床あれば人材も集まり、医師も力を磨ける」と伊藤教授は言う。刈田病院の派遣要請について「300床では中途半端なのに県南中核と競うように大学に医師をよこせという。でもあまりに状態が悪すぎる」と突き放す。

 実は、東北大学病院自体、要員確保が楽ではなくなっている。

 東北大は宮城県を中心に東北6県や北海道、茨城県、東京都などに関連病院が約130あり、毎年医学部の卒業生を送り出している。その関連病院を通じ、さらに各所に医師を派遣している。その派遣システムの中で、現在、東北大本体から20人近い「出超」状態になっている。

 ・足元の仕事増大

 企業への産業医派遣や開業に転じる者の増加が背景にある。04年に始まった臨床研修制度で、研修医という働き手も減った。東北大地域医療支援機関の本郷道夫委員長は「大学病院の仕事量も増えており、人手不足が限界にきている」と言う。

 その結果、自治体などからの医師派遣要請にも応えきれなくなっている。05年度には関連病院から医師派遣要請が約540件あったが、応じたのは150だけ。07年度も約300件の要請に応じたのは145件にとどまる。

 派遣先の「選別」も始まった。本郷委員長は「出す側としては新しい技術を発揮できる環境に医師を派遣したい。小さな病院に1人ずつ出せば超過勤務にもなりかねず、大病院に集約して派遣する形になってきた」と解説する。派遣先の大半は400床以上の病院への派遣になっている。

 全国自治体病院協議会の常務理事、青森県八戸市立市民病院の三浦一章院長は「地方の病院が医者を取り戻すには、指導する熱意あるドクターを集め、設備を整え、病院としての機能を高めるしかない」と病院側の意識改革の必要性を強調する。そして、「病院や大学任せではなく、国などが医師の配置システムを考える必要があるのではないか」と話す。(山田史比古)

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