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企画特集

【東北の医療】

(中)産婦人科 消えた

2008年10月30日

 −第1部 加速する病院再編−

 ・最寄り駅2時間の例も

 福島県西部、山あいにある南会津町。この春、県立病院から産婦人科が消えた。
 同町に住む女性(39)は妊娠6カ月。8歳の長男のときは、県立南会津病院で出産した。切迫流産で急きょ入院したうえでの出産だった。

 8年ぶりの妊娠。今度は、車で1分の同病院では出産できない。車で1時間近くかかる会津若松市の病院での出産を予定する。妊婦検診の際は仕事を休んだ夫(37)に車で送り迎えしてもらっている。

 「順調にいけばいいけど、1人目のときみたいに何かあったらと思うと心配。病院まで車で1時間かかるわけですから」と女性は言う。

 ・豪雪地帯の不安

 さらに山間部になると、会津若松市まで2時間近くかかる。豪雪地帯で冬のお産はどうすればいいのかと住民の不安は尽きない。南会津病院の産婦人科の継続を求める県知事あての署名は1万人以上集まった。しかし、年130〜140件の分娩を1人で担ってきた産婦人科医の「自己都合」による退職は止められなかった。県病院局が公募したり県立医科大に依頼したりするなどしているが、新しい医師も見つからない。

 さらに福島県では、産婦人科医が1人だけの大野病院で年に帝王切開手術を受けた産婦が死亡、医師が逮捕される事態も発生(08年9月に無罪が確定)。そうしたリスクを避けるため、「分娩するためには産婦人科医を2人置かないといけない」(病院局)状況にある。

 厚生労働省によると、90年には産科がある病院は全国に約2400あった。その後減り続けて06年には3分の2の約1600に。東北地方でも減っており、厚労省研究班の調査では、たとえば岩手県では22病院が05年までに14病院に減っている。

 産科がなくなるのは、産科医が減ったからだ。国立病院機構仙台医療センターの和田裕一副院長は「高齢化で実働医師が減る一方、書類づくりなど仕事量は大きく増えた。患者の権利意識の高まりで訴訟やクレームも増え、産科を避ける傾向が強まってきた」と分析する。

 ・研修医すら敬遠 

 足りないのは産婦人科医だけではない。04年に始まった新しい臨床研修制度により研修先を自由に選べるようになった結果、研修医は都市部に集中。さらに研修医のアルバイトが原則禁止され、人手不足に陥った大学病院が関連病院に派遣していた医師を引き揚げた。その結果、地方の医師不足が深刻になっている。

 青森県五所川原市立西北中央病院に勤める金川佳弘さんによると、2次医療圏ごとの病床100床あたり病院勤務医師数を分析すると、04年から06年にかけて多くの都府県で、多い医療圏と少ない医療圏との格差が拡大。東北では宮城県以外で拡大した。

 「臨床研修制度は特定の病院に医師を集中して、地域偏在を助長した。このまま続けると二極化がますます進み、勝ち組病院と負け組病院との差が広がってしまう」と金川さんは心配する。

 国は大学医学部の入学定員を絞って医師が増えすぎないようコントロールしてきた。医師不足が表面化しても「診療科や地域ごとに偏在しているだけ」としてきた。ようやく今年、「医師が総数としても足りない」と認識を転換、増員へとかじを切った。

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