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企画特集

【東北の医療】

(上)医師が足りない

2008年10月30日

 −第1部 加速する病院再編−

 ・遠距離通院 募る不安

 身近な病院がなくなる。医者が足りない。地域の医療がきしんでいる。そして、人手不足が深刻になりつつある介護保険。問題が相次ぐ年金。受けたくても受けられない生活保護。暮らしを支えるセーフティーネットが、崩れつつある。東北地方の現状を、公立病院のいまから報告する。

 ・無床の診療所

 宮城県北部、明治の建築物が残ることで知られる旧登米町(05年4月から合併により登米市)。北上川沿いにたたずむ小さな街で、この春、大きな変化があった。

 1874年以来の歴史をもつ床の市立登米病院が、無床の診療所に変わった。98人いた入院患者は退院を迫られ、市内のほかの病院などに再入院することになった。

 96歳の女性は、糖尿病や骨折などで自宅から徒歩5分の登米病院に入院していた。3月半ばに退院し、同居する息子夫婦らの介護を受けていた。しかし、5月に脳梗塞に。登米病院に入院できないため、車で20分ほどの登米市立佐沼病院に入院。3カ月後、同じく自宅から車で約20分かかる同市立豊里病院に転院し、今も入院中だ。

 毎日代わる代わる見舞う息子夫婦は、「行ったり来たりだけでもけっこう大変。うちは車が使えるからいいが、豊里へはバスもない。市として医療行政をどう考えているのか分からない」と憤る。

 登米市は9町の合併でできた。合併前は公立病院が五つあった。合併後、市は佐沼病院と豊里病院を残し、登米病院は今年春から無床診療所に、残る米谷病院と米山病院も11年から無床診療所にする方針だ。中核となる300床の佐沼病院も、11年には200床以下まで病床を削減する方向で検討している。

 最大の原因は医師不足だ。登米病院では3人の医師で入院も外来も診ていた。東北大学に応援医師を派遣してもらっていたが、それがなくなった。「もう病院のままでは医師がもたない状況だった。ほかの病院も同じこと」と市医療管理課の千葉博行課長は説明する。この春から市病院事業管理者になった大石洋司さんは、医師不足の現状では「身近に300床の高機能の病院が欲しいという住民の願いは幻を見ている」と話す。

 しかし、病院を失う住民の不安は募る。実際に病院がなくなった登米市の85歳の女性は「独り暮らしだし、入院が近くでできないのは不安です」。「いざというとき誰の顔も知らない病院に行くのはストレスになる」と80歳の女性。救急車で遠くの病院に運ばれ、結果として亡くなった住民もいて、「もし近くに病院が残っていたら、あの人は亡くならなかっただろうに」とのうわさも飛び交う。あと2年あまりで無床診療所になる予定の米谷地区では、反対の署名活動が始まった。

 ・平均下回る6県

 都道府県別の人口10万人あたり医師数が、青森県の約171人を始めとして全国平均の約206人をすべて下回っている東北6県。各地で公立病院の再編が進む。

 さらに、07年末に総務省が「公立病院改革ガイドライン」を発表。自治体は今年度中に改革プランを策定し、3年後には経常黒字を達成することを求められている。「3年後の黒字など、できるわけがない」と話す公立病院の関係者は多い。再編がさらに加速するのは必至だ。

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