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【社説】

追加経済対策 国民に安心を与えるか

2008年10月31日

 政府が追加経済対策を決めた。麻生太郎首相は記者会見で「国民生活の安全保障」と強調したが、景気を支える効果は限定的ではないか。新たな歳出拡大が財政再建を遅らせる懸念もある。

 今回の追加対策は二兆円規模の定額給付金が目玉になった。公明党が要求していた定額減税が給付金に変わった形だ。減税方式では所得税や住民税を納めていない課税最低限未満の世帯は対象にならないが、給付金方式であれば全世帯が対象になる。

 相対的に低所得者層に恩恵が手厚くなるので、公平感を保つ意味合いはわかる。ただ、地域振興券を思わせる金券配布となると、実務を担う自治体には負担だろう。誤配や偽造の懸念もある。

 どれほど消費を拡大するかは不明だ。朗報と受け止める向きもあろうが、麻生首相は三年後の消費税引き上げも明言したので、家計は一層、生活防衛意識を高め、余分な消費を控えて貯蓄に励む可能性もある。

 高速道路の料金引き下げも休日に重点を置いた結果、一般家計の行楽などに恩恵があっても、肝心の経済活動に対する刺激効果にはやや疑問符が付く。

 中小零細企業対策には、信用保証の拡充による資金繰り支援を打ち出した。最近の株価急落で金融機関は貸し出しに慎重な姿勢を強めている。一部では、貸し渋りも始まった。年末にかけて、経営環境はますます厳しくなる。安全網が重要なのは間違いない。

 財源には、赤字国債に頼らず特別会計の剰余金いわゆる「埋蔵金」を一部活用する方向だ。その分、当面の借金拡大は避けられたが、国の資産負債差額でみれば、負債超過額(純債務)は増える。

 財政再建が重要課題なのに、毎年のように特別会計に多額の剰余金が発生していること自体がおかしい。財務省は無駄な剰余金が発生しないように、特別会計に厳しくメスを入れるべきだ。

 麻生首相は「百年に一度の暴風雨。米国発の金融災害だ」と現状を表現し、当面の衆院解散を先送りした。対策は国民への政権のメッセージといえる。

 一方、今回の対策を盛り込んだ第二次補正予算案をいまの臨時国会に提出するかどうか、明言を避けた。「スピード」が重要と強調するのであれば、野党との駆け引きに走らずに、堂々と政権として臨時国会に提出し、成立努力を明言すべきである。「暴風雨」下の国民に傘を待つ時間はない。

 

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