国土交通省はまだダムを造り続けたいようだ。一切造るなとは言わないが、河川整備に初めからダム建設と決め付けるのはどうか。効果や流域の実情をまじめに検討し、事業の是非を決めよ。
国交省が計画する豊川の設楽(したら)ダム(愛知県設楽町)の基本計画が公示された。町ではダム是非の住民投票を直接請求する手続きが進んでいるが、国側は関係なく補償基準の提示を始めた。
ダム事業で同省は強い姿勢を保つ。川辺川ダム(熊本県相良村)は知事、最大の受益地や予定地の首長らが反対した。蒲島郁夫知事は金子一義国交相と会談、ダム以外の治水策検討の場設置で合意したが、国は「ダムの白紙撤回ではない」と強調している。
八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)は「止まらない公共事業」の象徴として、総選挙の争点とする動きもあるが、来年度、本体工事着工が予定されている。
淀川水系四ダム(滋賀県、三重県、京都府)に至っては、国交省近畿地方整備局が自らの諮問機関の流域委員会の意見を無視、ダム建設・再開発を盛った河川整備計画の策定を強引に進めている。
治水のためダムは上流の出水を貯留し、中下流で水を河道内に納め洪水を防ぐ。だが近年の局地的集中豪雨多発で貯水能力以上の水が流れ込めば、すでに増水した川に放流し、逆に危険を増大させるとの疑問が高まっている。
景気低迷で水需要が落ち込み、ダムの利水の役割は低下した。貯水量配分を変えたダムもあるが、「建設のためのつじつまあわせ」との批判も否定できない。
ダムの貯水は水質を悪化させ、土砂もせき止め、河口付近の海岸を浸食させてしまう。
河川整備計画にダムを含むかどうかは、治水効果、水需要や環境を公正、科学的に十分検討した最新の結果と、流域住民の合意を突き合わせて決めるべきだ。
住民、流域委員会、地元自治体などを無視、河川管理者の一方的な意向と高圧的な手法で強行してはならない。業界をうるおすなど論外だが、便乗した「地域振興」にも異論が多い。相当の住民が疑問を持つ場合、事業者は徹底した説明が必要である。
八ッ場や川辺川の水没予定地では移住済みの人々が、設楽でも移住を見込まれる住民がいる。無定見に事業を進め、これらの住民を翻弄(ほんろう)する結果にならないよう議論を尽くし、慎重を期すべきだ。
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