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【主張】追加経済対策 市場安定へ全力挙げよ
■消費税上げに法的裏付けを
麻生太郎首相は事業規模27兆円、国の財政支出が5兆円に上る追加経済対策を発表した。同時に3年後に消費税を引き上げると言明した。追加対策を財政的に裏付ける第2次補正予算案も今国会で成立させる方向だ。
焦点の衆院解散については当面見送るとした。米金融危機による日本への悪影響をいかに抑えるかを重視する首相の判断は妥当だ。党派を超えて危機を回避する枠組みが必要な時を迎えている。
選挙もにらんだ追加対策の内容や財源には、その効果や財政規律の面で疑問点が多い。国会は追加対策の中身を十分に吟味する必要がある。首相の消費税発言の意味は大きいが、引き上げにどう道筋をつけるのか。与野党が本格的論議を開始すべきである。
≪やむを得ない解散回避≫
首相は「100年に1度の米国発暴風雨」との経済認識を強調したが、追加経済対策をざっとながめてみると、玉石混交というより玉を見つけるのが難しい。住宅ローン減税の延長・拡充とモラルハザードが懸念されるほどの信用保証制度拡充は一定の効果を期待できるかもしれない。
しかし、対策の目玉といわれる2兆円規模の給付金と「1000円走り放題」を含む高速道路料金引き下げは極めてばらまき色が強い。とくに定額減税構想が姿を変えた給付金は問題だらけだ。
これは1世帯平均4万円弱の“お年玉”みたいなものだ。大半が貯蓄と飲み食いに回り、景気押し上げ効果はわずかだろう。もっと問題なのはその財源である。
いわゆる埋蔵金と呼ばれる財政投融資特別会計などの積立剰余金を使うという。「赤字国債の発行は避ける」(麻生首相)としているからだが、本当にそうか。
こうした剰余金は法的に国債償還に充てることになっている。それを別の使途に充てれば赤字国債発行と実質的に同じなのだ。懸念された国債整理基金の流用は踏みとどまったが、もはや財政規律は大きく崩れた。
与党内には、こうした手法を来年度からの基礎年金国庫負担割合2分の1引き上げの財源確保にも使う動きがある。想定していた消費税の引き上げを先送りしてしまったからだ。
年金に限らず社会保障制度は一時的な剰余金では持続しない。税収は今年度当初見込みを大幅に下回るのが確実で、来年度も期待できない。安定財源を確保せずにばらまきを続ければ、2011年度の基礎的財政収支黒字化目標どころか、財政は破綻(はたん)する。
麻生政権はせめて、社会保障財源を確保するための消費税を含む税制改革中期プログラム策定を早急に具体化し、実施を立法化で担保することだ。それが国民に安心を与え、中長期的には最大の景気対策になる。
あわせて重要なのは市場対策である。米金融危機以降、東証1部の時価総額は100兆円規模で吹き飛んだ。これだけでも逆資産効果は相当だが、株下落で金融機関が傷めば先進国で最も体力がある日本経済ももたなくなる。
市場動乱の根っこは米金融危機だから限界はあるし、取りまとめた市場対策も問題を含む。だが、緊急事態であり間髪を入れずに実施することだ。時価会計の緩和も直近の決算に適用したらいい。
もちろん、株価に影響を与える為替の安定も不可欠だから、麻生首相は来月15日の金融サミットで介入を含めた協調を強く促すべきだ。景気対策は金融資本市場次第で足りなくもなるし、逆に不要にもなるのである。
≪早急に党首会談を≫
補正予算案の提出は11月下旬とみられ、今国会成立には来月末で切れる会期の延長が必要だろう。民主党は給付金支給を「効果なきばらまき」と批判しており、その財源を剰余金に求めることには反対する構えだ。
この手続きには法改正が必要であり、民主党が反対する限り、衆院再議決を経なければ法案が成立しない状況になる。
首相は解散見送りにより政権運営の選択肢を自ら狭めてでも、政策実現を求めたのだ。追加対策の実施が遅れたのでは、その効果もますます薄れよう。
直ちに民主党の小沢一郎代表に会談を申し入れ、国政に求められる緊急課題の解決を話し合うべきだ。民主党も危機対応力が試されていることを自覚してほしい。