これで政治の混迷が回避できるだろうか。麻生太郎首相は衆院選の実施を当面見送る方針を固め、公明党もこれを了承した。政府・与党は追加経済対策を盛り込んだ2次補正予算案提出の今国会への前倒しを検討、11月30日までの臨時国会の会期延長論も浮上している。
世界金融危機に対応するためにも首相は速やかに衆院解散を行い、国民の信を得た本格政権が経済対策のかじを取るべきだ。それだけに見送りの判断は大いに疑問である。
今国会で2次補正予算案の審議が行われた場合、与野党攻防の激化が予想される。首相はいたずらに解散を先延ばししてはならない。同時に民主党など各党は論戦を通じ、争点の明確化に努めるべきである。
首相は30日の記者会見で「政局よりも政策」と改めて強調した。景気対策優先を掲げることで与党にも強かった早期解散論をはねつけた自負がうかがえた。
ただ、実際はどうか。「これでもか」とばかりの選挙を意識した追加経済対策を見る限り、政治空白の回避が真の見送りの理由だったのか、疑問がつきまとう。内閣支持率が下落する中、与党の選挙情勢を危ぶんだのが実態ではないか。衆院選が先送りされ、金融危機対策は選挙対策に急速にその姿を変えつつある。
審判を先送りした以上、首相は今国会で何をするかをより明確にする必要もある。さもないと、政策重視との理屈とは矛盾する。2次補正予算案を今国会に出し与野党で審議を尽くすことが、最低限の責任だ。
一方で、民主党も衆院解散を優先するあまり政策論争が後手に回ったことを反省しなければならない。
特に、新テロ対策特措法改正案を衆院の実質審議2日で通過させた対応は不可解だ。引き延ばし戦術はいただけないが、参院はアフガニスタンの現地情勢も含め議論を尽くさねばならない。金融機関に予防的な資本注入を行う金融機能強化法改正案については、与党との修正協議で建設的な結論を導くことが望ましい。
そのうえで、政権公約に連なる経済対策を国民に示すことが肝心だ。選挙を控え与党と民主党の争点はいまだに明確でない。衆院選が与野党の際限なきばらまき合戦に堕す懸念は強い。残る会期の論戦を通じ与党との「違い」を有権者に説明できるかが試されよう。
与野党には衆院選が来春以降にずれこむとの見方もある。ただ、2次補正予算案の動向も絡み、首相は会期末から年明けの通常国会にかけて綱渡りの政権運営を迫られる。
だからこそ、解散引き延ばしには限度がある。麻生政権は選挙の審判を経ずにできた3度目の政権であり、首相が会見で語ったような中長期的な政策遂行には国民の信を得ることが不可欠だ。このことを改めて強調したい。
毎日新聞 2008年10月31日 東京朝刊