政府は30日、追加経済対策を決定した。全治3年の経済危機からの回復が最大の目的だ。また、麻生太郎首相は景気回復後、消費税増税の実施を明言した。そのプログラムを年内に提示することも明らかにした。この点では、従来になく踏み込んだことは間違いない。施策にはメリハリを付け、ばらまきではないとも自賛した。
本当にそうなのか。言葉とは裏腹に、「究極のばらまき」である。
家計への給付や住宅ローン減税、高速道路通行料金のさらなる引き下げなどで、事業規模は20兆円まで膨らませた。国の財政支出は約5兆円である。
政府・与党は8月末段階の緊急経済対策で定額減税を盛り込んだ。今回、所得制限を設けず、全世帯対象の総額2兆円規模の給付金に変更したのはなぜか。仕組みが簡素で、早期実施が可能だからというが、表向きの理由だろう。
与党の顔が見えにくい減税より、現金給付やクーポン券配布の方が、実績を印象付けやすい。総選挙や来年夏の東京都議選に向け「票をカネで買う」手法とみられてもやむを得ない。
中長期も見据えているというのであれば、抜本的な個人消費振興策として所得税を含む税の再配分機能を高める施策を検討する必要がある。その中で、消費税率の引き上げも位置付けることができる。
過去最大額の住宅ローン減税にも、住宅政策に熱心な政権の姿勢を示したいという思惑が見える。ただ、住宅ローン減税はその時々で制度が異なっている。結果的に不公平が生じている。今回の措置は、その不公平感、不平等感を増幅する。自己資金での住宅取得者も含め、不公平の生じない制度を検討すべきだ。
8月末の対策に盛り込まれ、既に実施されている高速道路料金の再引き下げ措置にも問題が残る。この間、原油価格が1バレル=60ドル台まで軟化しており、原油価格高騰対策は影響の甚大な業種への経営支援などを除けばピークは過ぎている。メリハリというのならば、再検討が必要だったはずだ。
政府・与党はこうした施策を赤字国債の増発に頼らず実施するという。しかし、主たる財源とされる財政投融資特別会計の準備金は、国債の償還や消却の原資だ。税収が当初見込みを大幅に下回ることが確実な現状では、その補てんの赤字国債増発は避けられない。
景気対策で財政が一時的に悪化することはある。ただ、その時には、国民が景気回復を確信できるような施策でなければならない。効果の不透明な対策は赤字膨張を招く。
今、日本にとって必要なことは、国民が安心できる社会保障制度の構築に加え、経済の土台である家計や中小企業が元気になることだ。政治色の濃い大衆迎合やばらまきでは経済社会は強くならない。
毎日新聞 2008年10月31日 東京朝刊