ニュース番組でコインを使った手品の「種明かし」をされたとして、マジシャン約100人が日本テレビとテレビ朝日に約430万円の損害賠償や謝罪放送を求めた訴訟で東京地裁は30日、請求を棄却した。原告代表のプロマジシャン・藤山新太郎さん(53)=日本奇術協会副会長=はショックを隠せなかったが、司法記者クラブで前代未聞の“マジックショー”を披露。控訴することを宣言し、ご満悦で裁判所を後にした。
判決などによると日テレ、テレ朝両局は2006年11月、マジックバーの経営者らが手品に使用するため硬貨に穴を開けたとして、貨幣損傷等取締法違反容疑で逮捕された事件をニュース番組で報道した。
番組ではコインにたばこを貫通させる手品を紹介。もともと中央部に穴があり、ふたが閉じる仕組みになっているギミックコインについて映像つきで解説し、手品の種を明かした。
これに原告側は「犯罪とは無関係な種明かしを繰り返し、財産的価値を奪った」と提訴。しかし30日、東京地裁の佐久間邦夫裁判長は「コイン手品の価値を低下させたとはいえない」と判断、原告側の請求は退けられた。
オールバックの髪形に水色のジャケットで出廷した原告代表でプロマジシャンの藤山さんは、原告席で悔しそうに裁判長に一礼して退廷。しかし芸歴42年の腕が黙っていなかった。
裁判所庁舎内にある司法記者クラブのレクチャールーム。会見で控訴することを発表した藤山さんは、おもむろに500円、100円、10円硬貨を取り出すと次々に消してみせた。さらに千円紙幣を折りたたみ10枚(1万円)に増やすネタも披露。
見事なパフォーマンスだったが報道陣から拍手は起きず、パソコンで速報を打つ記者のキータッチ音だけが響いた。リアクションの薄さに藤山さんは「これだけ効果が落ちるんです。あの(種明かし)報道がなければ、この不思議が3倍になったのに…」と訴えた。
傷心の藤山さんに司法記者たちから想定外の質問が飛んだ。「さっきのタネはどうなってるんですか?」藤山さんは苦笑すると、テレビカメラが止まっていることを確認して一部を披露。もっと見せてくれというリクエストは「何でもかんでも種明かしできません」と突っぱねた。
裁判所を出た藤山さんは「いつも何千人もの観客の前でやってますけど(舞台の)空気が違いましたね。でも、裁判所で手品ができたなんて史上初じゃないですか」と控訴審への発奮材料を手に入れたようだった。
◆マジシャンの貨幣損傷事件 06年11月、大阪市でマジックバーを営むマジシャンら4人が、マジック用のコインを作るために本物の硬貨に穴を開けるなどしたとして、貨幣損傷等取締法違反容疑で警視庁保安課に逮捕された。
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