大林宣彦監督の「転校生」など多くの作品の舞台となって「映画の街」として知られながら映画館がなかった尾道市に、常設館「シネマ尾道」が開業した。七年ぶりの銀幕復活だ。
尾道市では一九六〇年から七〇年代にかけ、多い時期には九館あった映画館が、テレビやビデオの普及で廃業が相次いだ。二〇〇一年には最後の一館が閉館した。どこの地方都市でも事情は同じだ。
「再び映画が見られる街にしたい」と一人の女性が映画館復活へ立ち上がった。飲食店従業員だった河本清順さんだ。〇六年にNPO法人を立ち上げ、市民に募金を呼び掛け、行政や企業にも働き掛けた。
建物はJR尾道駅前にある旧尾道松竹を借りた。映写機や音響機器は閉館した玉野市の映画館から購入したが、一月に倉庫が火事に遭い焼失した。資金不足の中、半年遅れでの開館となった。
滑り出しは順調という。シニア層や中年女性が多い。ビデオ観賞が中心となっている若い人にも映画館の魅力を知ってもらおうと、弁士の解説とピアノ伴奏付きでサイレント映画の上映会などを予定している。
経営難や老朽化で閉館した古い映画館をよみがえらせようという試みは、関東や九州地方など全国に広がっている。沈滞気味の商店街の振興や中心市街地の活性化に生かしてほしい。