伊藤ハムが千葉県柏市にある東京工場でのウインナーやピザなどの生産を一時停止した。製造の際に使用する地下水から国の基準値を超す塩化シアンなどが検出されたのを受け、供給体制の点検を行うのが目的だ。
停止期間は「安全・安心が確保されるまで」としている。来月初めにも専門家を長とする調査委員会を設け、地下水のろ過装置を交換し、浄水の水質を毎日検査するなどの対応をとるという。地下水に混入した原因の究明も必要だ。消費者の信頼を得られる十分な措置を講じなければなるまい。
伊藤ハムはハム・ソーセージ製造で国内二位の企業だが、問題が起きてからの対応はあまりにお粗末だった。工場の水質検査で塩化シアンなどが検出されたのは九月二十四日だった。ところが、本社に報告が上がったのは今月二十二日で、約一カ月もかかっている。
報告が遅れた原因について、伊藤ハムは約四十年間にわたり地下水を利用してきたため、塩化シアンが検出されても現場が検査の異常と判断し、情報が止まっていたと釈明している。
しかし、塩化シアンは、消毒剤や金属めっきに使用される毒物である。汚染した水をそのまま使い続けるとは、食品企業としての安全意識が欠けていたと言わざるを得ない。ウインナーやピザは子どもの大好きな食べ物だ。「危機管理体制が整っていなかった」という反省の言葉がむなしく聞こえる。
伊藤ハムは、今回の塩化シアンの検出はごく微量で、食べたとしても人体に影響はなく、健康被害などの報告はないと説明しているが、消費者にとっては不安が残る。製品を回収するのは当然だ。
自社と他社ブランドを合わせ二十六品目、約三百三十万袋という膨大な量で、年末商戦での小売業界への打撃も懸念される。シアン検出の時点で生産を停止し回収していれば、これほどの損害は生じなかったはずだ。甘い判断で傷口を広げた。
東京工場製ウインナーなどに異臭やおかしな味があると苦情が相次いだ問題では、一部の製品からトルエンが検出され、柏市保健所が工場に立ち入り調査を行っている。原因解明を急ぐ必要がある。
食品不祥事は後を絶たない。過去には対応を誤り廃業に追い込まれた企業もあった。今年になっても中国製冷凍ギョーザ中毒事件や汚染米の不正転売事件などが相次いでいる。伊藤ハムは、安全な製品を消費者に提供する責任の大きさをあらためて肝に銘じなければならない。
原油価格の下落が著しい。世界的な金融危機による景気の減速から需要が落ち込んだためで、石油輸出国機構(OPEC)は本格的な減産を打ち出すなど歯止めに懸命だ。
今年七月には、ニューヨークの原油先物市場で史上最高値の一バレル=一四七・二七ドルをつけた原油価格も六〇ドル台前半まで下げた。高騰をもたらした投機マネーの市場離れや、原油需要を下支えすると思われていた中国など新興国の景気減速が鮮明になったことなどが要因として挙げられよう。
危機感を強めたOPECは臨時総会を開き、十一月から目標生産量を日量百五十万バレル引き下げることを決めた。百万バレル以上の減産は約二年ぶりだ。「効果が出なければ、さらなる減産も」としているが、加盟国間の温度差もあり先行きは不透明だ。
金融危機が深刻化して混迷が深まる中で、原油価格の大幅な下落は歓迎すべき明るい材料である。とりわけ、日本のような石油消費国にとっては待ちかねていた朗報だ。
原油価格の高騰は、ガソリン価格や電気料金の値上げ、さらには運輸、漁業などさまざまな経済活動に深刻な打撃を与えた。物価の上昇をもたらして家計を圧迫してきた。それだけに、大幅下落のもたらす反転効果に期待が膨らむ。経済産業省はガソリンや灯油の値下がりで、今年八月の最高値が続いた場合に比べて一世帯当たりの家計負担が年間二万円程度軽減されるとの試算を示している。
暗い面が目立つ経済状況にあって、痛みを手当てしつつ、こうしたプラス材料を生かすことが肝要だ。例えば輸出産業には厳しい円高も輸入では恩恵がある。メリットを最大限引き出し、経済の活性化や家計の安定につなぐ努力が欠かせない。
(2008年10月30日掲載)