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柔道金メダルの石井慧選手が実践――「女々しい自分」を克服した4つの技【前編】

10月31日7時44分配信 ITmedia Biz.ID


柔道金メダルの石井慧選手が実践――「女々しい自分」を克服した4つの技【前編】

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 2006年の5月くらいから2年半にわたって、私は北京オリンピックの柔道100キロ超級で優勝した石井慧(いしい・さとし)選手のメンタルコーチングを続け、対面および電話でのセッションを行ってきました。

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 特に北京オリンピック開催中は、私も現地に10日ほど滞在し、ほぼ毎日のように対面セッションを行いました。今回は、その約30セッションの中の1セッションを誌上で再現します。どんなケースにも使えるので、ぜひ試してみてください。

●「女々しく、飼い犬みたいな自分」をなくしたい――石井選手の切望

 2008年1月のことです。石井選手から「自分らしい柔道ができる時はいいのだが、たまに自分らしくなくなってしまって、練習がうまくいかない」という相談を受けました。詳しく聞いていくと、「女々しい自分」や「飼い犬みたいな自分」が出てくると、うまくいかないということが分かりました。

 石井選手の言う「女々しい自分」とは、相手を研究しすぎたり、「あのトレーニングをしなくちゃ、この練習をしなくちゃ」と考えすぎたりして、がんじがらめになってしまう状態ことです。「飼い犬みたいな自分」とは人間関係や人の目を気にしすぎて、伸び伸びできない状態のこと。柔道は個人競技とはいえ、集団で動いているので、周囲に自分を合わせなくちゃと考えると伸び伸びできない。

 そういう女々しい自分や飼い犬みたいな自分が出てくるとうまくいかないので、これらをなくしてほしいと依頼されました。

●ステップ1:「伸び伸びやろう」「筋トレしなきゃ」――対立する自分に気づく

 セッションでは次のようなことをしました。まず、紙に1枚ずつ「自分らしい自分」「女々しい自分」「飼い犬みたいな自分」と書き、その紙を道場に三角形に置きます。そして、真ん中に自分がいると想定して、その自分に向かって、それぞれの紙の方向から声をかけてもらいます。

 自分らしい自分は、「もっと自由に伸び伸びやろうよ」「ほかのことは気にせず、お前がやりたいようにやればいい」というような内容の発言をしました。

 次に、女々しい自分のところに場所を変えて、同じように声をかけてもらうと、「そうはいっても、相手は強いんだから、しっかり研究して負けないようにしないと」「だけど、あの筋トレをやらなきゃ」「これもやらなきゃ、あれもやらなきゃ」というように、やらなくてはいけないなことが、どんどん出されました。

 そして今度は飼い犬みたいな自分のところに行って、同様にします。「だけど、そもそも自分がオリンピックの代表に選ばれなかったら、世界一になれないし」「そうはいっても、集団で動いているんだから、周りの人に合わせなくてはいけないし」「でも、やっぱり、どんな練習でも言われた通りやらないと」というような発言が出ました。

 さらにもう一度、自分らしい自分に行き、「だけど、そんなの気にせず伸び伸びやろうよ」。そしてまた女々しい自分のところに行って……というように、本人が納得するまで、それぞれの立場に入って、それぞれの言い分を主張し合いました。

 この状態は3者が分裂し、対立している状態です。

●ステップ2:気持ちを完全に出し切る

 3者の立場の想いを十分言い終えたら大きく伸びをします。そして三角形の位置から出て、3者が見渡せる場所に来てもらいました。

 「あそこに1人の人間が、3つの全く異なる意見を聞いていますが、端から見ていて、どう見えますか?」と聞くと、石井選手は「結構笑えますね」と言いました。「あんな状況で、練習がちゃんとできて、強くなって、勝てると思いますか?」。そうと聞くと「いや、それは無理ですね」と本人は答えました。

 まず大事なのは、私たちの中には矛盾している自分がいることに自分自身で気づくことです。皆さんも思い当たることがないですか? 新しいプロジェクトを立ち上げるような時に、「よし、やろう!」とがんばろうとする自分と、「でも、こんなの無理だよ」とダメ出しする自分、「やっても大して変わらないよ」と妙に冷めた自分というように、自分がどうしたいのか分からないということがありませんか。それと同じで、ステップ1では、石井選手自身の中で3人の自分が葛藤していることをハッキリさせました。

 矛盾する3者に気づいたら、次のステップ2に移ります。

 ステップ2では、3つの立場を分けて、徹底的に再体験してもらいます。普段は3者が頭の中でごっちゃごちゃになっているから、最初は何が何だか分からなくっているのです。そこで、ハッキリと分けて、3者の気持ちを完全に出し切りました。「よし、やろう!」「でも、こんなの無理だよ」などの発言を4、5回繰り返しました。ここで大事なのは、自分が納得するまで言って出し切ることです。

●ステップ3:「結構笑えますね」――滑稽さに気づく

 出し切ったら、さらに次のステップ3に移ります。

 ステップ3では、腹の底からその滑稽さに気づいてほしいのです。「やっぱり女々しい自分の言う通りだよな」と思ってしまうようでは、まだ気づいていません。「確かにこれは変だな」と気づくまで、このステップ2を続けます。

●ステップ4:「女々しい自分」は「したたかな自分」――対立する自分も味方に

 ステップ3で滑稽さに気づいたら、初めてステップ4に進みます。ここでは三角形の外から見て、この3者があえて自分の味方だとしたら、どんなことを言っているかを聞きます。

 石井選手の場合、女々しい自分が味方だったとしたら「とにかく勝ちにこだわって、相手のよさを出させるな」「1本を取るよりも、しっかりポイントを取って絶対負けないようにしろ」「そのための研究を惜しむな」という内容の発言をしました。そこで、「女々しい自分」を一言でどんなふうに言い換えられるかと聞くと、「したたかな自分」だと答えました。

 次に、飼い犬みたいな自分が味方だとしたら何と言うかを聞くと、「何が起こっても何があっても、どんな練習でも耐え抜け」「どんな状況でも我慢しろ」「がんばり抜け、貫き通せ」といった発言でした。

 そして、「飼い犬みたいな自分」をどんな自分に言い換えられるかを聞くと、「辛抱強い自分」と言いました。

 同じように、自分らしい自分についても、もう一度外から見ます。自分の味方だとしたら、という問いかけに、「日本の柔道でもなく、ヨーロッパの柔道でもなく、自分の柔道をやれ」という発言が出て、「自分らしい自分」を言いかえると、「なりふり構わない自分」という言葉になりました。

 以上のように、3者が自分の味方だとしたら言う言葉に言い換えて、それぞれのタイトルも付け直しました。そして紙も、「したたかな自分」「辛抱強い自分」「なりふり構わない自分」と書き直します。

 次回は続きを見ていきます。

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最終更新:10月31日7時44分

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