韓国では、製鉄所で作られた鉄は国内で消費されますが、鉄を原材料として作られた最終製品は中国、インド、東南アジア、東欧など多くの新興国に輸出されています。大まかにいえば、韓国国内では鉄鋼の川上分野の需給がタイトなのに対し、川下分野では供給過剰気味といった状況があります。例えば、造船用に用いられる厚鋼板は供給がタイトであるのに対し、需要量の伸びは今後数年続くと思われます。造船業界の厚鋼板需要は、2007年の1,070万トンから2010年には1,790万トンまで増加すると思われますが、国内の厚鋼板の自給率はわずか63%に過ぎません。また、棒鋼・形鋼などの製品は、韓国建設業界の景気停滞などにより現在供給過剰となっているほか、冷延鋼鈑(熱延鋼板を原材料として再加工したもの)は過剰な供給能力が指摘されています。一方、厚鋼板や熱延鋼鈑の生産能力は慢性的に不足しており、ここには有望な投資機会があると言えます。
この関連で、韓国の二大鉄鋼会社であるポスコと現代製鉄をご紹介します。両社とも、厚鋼板と熱延鋼鈑の生産能力を高める方針を固めています。ポスコは世界有数の低い生産コストが特長であり、現代製鉄は現代グループの主力メンバーとして、グループ企業からの安定した需要が期待されることが強みです。
ポスコは韓国国内に一貫製鉄所を持ち、多様な鉄鋼製品を扱う唯一の企業です。2007年には3,100万トンの粗鋼を生産し、世界の粗鋼生産ランキングでは4位となっています。川下分野である韓国国内の冷延鋼板メーカーの多くは、引き続き同社が供給する質の高い熱延コイルを原材料として調達すると思われます。また同社は厚鋼板の生産能力を2007年の360万トンから2010年には700万トンに引き上げ、国内造船業者の需要増に対応する計画です。ポスコのもう一つの強みは、世界中の同業他社と比べ比較的に強いコスト競争力です。コスト競争力は原材料を混合する技術によるもので、例えば、割安な鉄鉱石とコークス炭を鉄製品の品質に障害のない範囲内で最適に混合する技術です。同社には、150万トンの「ファイネックス(FINEX)」技術(従来の溶鉱炉工法より生産原価が削減できる次世代製鉄新技術)の商品化を成功させるプロジェクトがあり、近い将来これが成功すると、従来の鉄鋼生産工程よりも、単位あたり原材料を15%削減し、排出物も90%削減することができます。
コスト競争力のもう一つの源泉は、鉄鋼原料輸送における効率性にあります。ポスコは原材料の75%を専用船ないし長期用船契約船を用いて調達しますが、その運賃は国際価格より1トン当り15~35米ドル安い水準で長期契約されています。また同社の2つの大規模製鉄所は、いずれも韓国の南部の沿海地区に立地しています。
同社の海外展開に関しては、中国においてステンレス鋼を生産するほか、川下分野の事業を大陸で展開しています。また、近年はインド政府と鉄道近代化事業に関する合意書(MOU)を締結し、インド東海岸のオリッサ州に2007年から2020年まで2段階にわたり120億ドル(約1兆2,500億円)を投資し、1,200万トンの生産能力を誇る製鉄所を建設するとともに、鉱山開発を行う権利を手に入れました。一方、ベトナム政府とも交渉し、ベトナム国内に製鉄所を建設することで合意しています。
現代製鉄は、これまで棒鋼・形鋼の生産に特化した世界最大規模の電炉メーカーであり、国内の棒鋼・形鋼価格の決定権を握ってきました。現在建設中の高炉は、2010年から2011年の間に稼動する予定であり、完成後はポスコに次ぐ総合製鉄所となります。生産能力は年間770万トンの棒鋼・形鋼と同300万トンの熱延鋼鈑(2008年見込み)ですが、2010年以降は高品質の熱延鋼板と厚鋼板を生産することで、今後高まる造船用と自動車用の需要増に対応する計画です。同社の強みは、現代グループに属し、現代重工業、現代建設などの潜在的な顧客層を持っていることです。自動車用鋼板の専門メーカーである現代ハイスコは、今後は現代製鉄からの熱延コイルの直接調達を増やし、現代自動車と起亜自動車向けの鋼板を生産する模様です。
今後、世界の鉄鋼需要は中国やインドなどの新興国による工業化が追風となり、増加すると思われます。2007年、中国とインドの一人当たり鉄鋼の消費量はそれぞれ307kg、43kgでしたが、韓国の1,135kgと比較すると需要増の潜在性は十分にあると考えられます。投資家が鉄鋼関連企業を物色する際、どの企業が高品質商品をいかに効率的なコストで生産し、グローバルで市場シェアを拡大していくのかを見極めることがポイントとなるでしょう。韓国の鉄鋼産業は、国内外で多様な鉄鋼製品の需要に応えてゆくことが期待されます。(作成日:2008年9月22日)
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