中村時蔵が祖父の三代目時蔵の「五十回忌追善狂言」として、11月の歌舞伎座夜の部で「嫗山姥(こもちやまんば)(八重桐廓噺(やえぎりくるわばなし))」の八重桐を演じる。
三代目は大正、昭和期に活躍した女形で、1959年に64歳で没した。時蔵は「4歳のとき、祖父が亡くなりましたので、生の舞台は知りません。でも、映像で見ると、古風な趣の特徴ある女形だと思います」。
「嫗山姥」は三代目、四代目が襲名の際につとめた時蔵家にゆかりの深い演目だ。
八重桐は元遊女。招き入れられた館で煙草(たばこ)売りに姿を変えた夫の坂田時行と再会する。敵を探す時行は、八重桐から「あなたの妹があだ討ちした」と聞き、自分を恥じて自害する。夫の力が乗り移った八重桐は、超人的な力を発揮し、館の姫をさらおうとする悪人たちを退ける。
「後半では、夫の魂が合体して勇猛果敢に大立ち回りをする。耐えることが多い女形には珍しく、発散できる役。祖父が工夫して以来、『家の芸』になっています」
前半の見せ場は、八重桐が廓での騒動を一人語りする「しゃべり」と呼ばれる場面。「太夫さん(竹本)の語りと私の動きで見せる。誰がけんかし、誰が話しているのかが伝わらないと面白くならないので、気をつけます」
時行は中村梅玉。他に中村歌昇、中村錦之助、片岡孝太郎ら。
時蔵は昼の部「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」ではヒロインの小万を演じる。女形の道を歩む長男の梅枝は「嫗山姥」の沢瀉(おもだか)姫と「三五大切」の菊野。立ち役志向の次男の萬太郎(まんたろう)は夜の部「船弁慶」の四天王に出演する。
11月1日から25日まで。問い合わせは03・5565・6000へ。【小玉祥子】
毎日新聞 2008年10月30日 東京夕刊