来年3月に行われる第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本代表監督に巨人の原辰徳監督が決まった。日本は06年の第1回大会で王貞治監督の下、初代王者の栄冠に輝いており、連覇に向けてベストの準備を進めてほしい。
今季に限らず、最近の巨人は各球団から主力選手をかき集め巨大な戦力を誇るチームとなっている。その「寄せ集め集団」をまとめ上げて2年連続リーグ優勝に導いた原監督だから、大リーガーを含めた「オールスター軍団」を率いるには、うってつけという気もする。
北京五輪後、迷走した今回のWBC監督人事を振り返るとき、球界が「ポストON」の人材養成を怠ってきたつけが回ったという思いもぬぐえない。
プロ野球出身の監督が日本代表チームを指揮するのは04年のアテネ五輪からだ。アテネ五輪直前、長嶋茂雄監督が病に倒れ、06年の第1回WBCは王監督で頂点に立ちながら、直後に病魔に襲われた。「ON」という切り札を欠いて次善の選択が星野仙一監督だったが、北京五輪でつまずくと、とたんに深刻な人材難が表面化した。
日本のプロ野球では、現役時代に輝かしい実績を残した選手が当然のように監督に昇格するケースが多い。ファンもそれを期待し、興行的にもスター監督のメリットは大きいのだろう。
だがその結果、本来なら監督として不可欠なマネジメント能力が未熟なままチームを指揮し、失意のうちに「監督失格」の烙印(らくいん)を押されてチームを去ったケースが少なくない。時間をかけて将来の監督候補を育成していくという発想が日本の球団には乏しいように思えてならない。大リーグと比べるとその思いはいっそう強くなる。
現在、ワールドシリーズを戦っている両チームの監督は象徴的だ。岩村明憲選手がいるレイズのマドン監督は選手としてはメジャーの経験がないが、コーチとして頭角を現してきた。一方、フィリーズのマニエル監督もヤクルト、近鉄で活躍した後、米国に戻ってマイナーリーグから指導者としての実績を積み上げ、今日に至った。
現役引退から約30年もたつのに「ON」の看板に頼り切り、次代を託す後継の監督候補を育ててこなかった。それが今回の「人材難」の背景にある。
指導者を育成することは容易なことではない。難航した今回のWBC監督の選考を通じて考えさせられた。スポーツは「社会を映す鏡」とも言われる。人材難が野球界だけの話であってくれればいいのだが。
毎日新聞 2008年10月30日 東京朝刊