2008年10月23日
広東省で相次ぐ倒産、デモ
米金融危機が中国直撃
米国発の金融危機や人件費上昇、原材料高騰など景気後退を受け、中国沿海部では従来の低賃金による労働集約型輸出産業を
牽引してきた外資系企業の倒産、夜逃げが相次いでいる。最低賃金の上昇や労働法改正による人件費高騰で「世界の工場」の魅力が薄れ、賃金未払いのまま取り残された従業員の抗議デモが頻発。不動産不況も深刻化し、改革開放から三十年を迎えた中国経済の足元は揺らぎ始めている。
(香港・深川耕治)
賃金未払い、労働者の怒りピーク
経営者の夜逃げ、自殺も増加
十五日、米国を主要輸出先とする香港上場の中国進出大手玩具メーカー「合俊集団」が広東省東莞市内の二工場を突然閉鎖した。工場責任者は従業員約七千人分の給料を二カ間未払いのまま逃げた。事情を知った従業員約千人は十七日朝、「政府は管理責任上、未払い賃金を支払え」との横断幕を掲げ広東省東莞市の樟木頭鎮政府庁舎前を取り囲んだ。警官百人がバリケードを築いて対峙して一時緊迫。鎮政府は暴動への発展を恐れ、立て替え払いを約束し、デモ隊は解散した。
同社は主に米国の玩具メーカー、マテルやディズニーブランドの製品を製造・輸出。相手先ブランドによる生産(OEM)では玩具分野で世界最大企業で、取引の約七割を米国向け輸出に頼っていた。「人件費や原材料費の高騰、金融危機による米国玩具市場の冷え込みが工場閉鎖の要因」(同社人事部)としている。
広東省や浙江省では米国向け輸出に依存する玩具やアパレル、家具などの中小企業が多く、業績悪化で倒産するケースが続出している。世界の七割を占める中国の玩具生産は広東省で七割を生産。特に広東省東莞市は「世界の玩具城」と呼ばれるほど玩具メーカーが集中し、米国発の金融危機に伴う受注減で打撃は深刻だ。
東莞市玩具協会によると、東莞市内の玩具製造企業三千八百社のうち過去二年間で閉鎖した企業は約一千八百社。外資系企業数は二〇〇六年から撤退が目立ち、〇七年以降、激減している。国家発展改革委員会によると、今年上半期だけでも輸出産業を中心に中国の中小企業約六万七千社が倒産し、二千万人以上が失業。中国メディアは、資金繰りに困窮した中小企業経営者の自殺も頻繁に報じ始めている。
山東省では韓国系企業が約一万六千社進出しているが、〇七年の同省税務調査統計によると、韓国系企業の42%が赤字で各国別では損失額が最高だった。昨年後半以降、正式な破産手続きを行わないまま撤退する韓国企業の夜逃げ事件が急増し、韓国人経営者を中国人が逆に拉致・恐喝する事件まで多発している。広東省に進出している香港、台湾系企業の夜逃げや撤退も深刻化。〇七年、香港系と台湾系の輸出向け靴生産企業約一千社が閉鎖され、うち五割は内陸地域に移転、約25%はベトナムなど東南アジアに移転を余儀なくされている。
香港でも世界的な金融危機のあおりを受け、老舗の大手家電チェーン店・泰林電器が十七日、一億香港ドル(十五億円)の負債を抱えて破産申請。先月末、大手衣料チェーン店・Uライトが破産したのに続き、不況の波が押し寄せている。十八日、香港に上場している家電メーカー・百霊達国際の深●工場が閉鎖し、翌十九日、従業員千人が給与支払いを求めて市内で抗議デモを行い、社会不安が続く。
香港工業総会の陳鎮仁主席は「珠江デルタに進出している香港企業約七万社のうち、金融危機の直撃で来年の春節(旧正月)までに四分の一の企業が閉鎖に追い込まれるだろう」と見通している。
中国沿海部では〇五年以降、最低労働賃金が急上昇。今年一月に施行された新労働契約法によって企業が安易に契約労働者を解雇できなくなった。地方からの出稼ぎ労働者の待遇面も大幅に改善しなければ就業者が集まらなくなった。労働者不足と人件費高騰は労働集約型の外資系企業にとっては大打撃だ。政府が都市と農村の格差是正を進め、農民の免税や優遇措置によって内陸部から都市部へ若者が無理にでも出稼ぎに行かねば生活できない環境ではなくなったことが大きい。
中国沿岸部の低賃金集約型の魅力は薄れ、日本の中国進出ブームもほぼ終焉。上海株式指数は昨年十月から六割以上下落し、不動産下落もまだ底が見えない。「五輪特需」も期待外れに終わり、インド、ベトナムへのビジネス展開に期待する動きが増している。
米国発金融危機に伴う米国向け輸出鈍化や工業製品の増加鈍化で中国の今年七−九月期の国内総生産(GDP)実質成長率は前年同期比9・0%に落ち込んだ。成長率が10%を割り込むのは速報値としては約三年ぶり。経済成長の減速が中国政府の統計上も鮮明となってきている。
●=土へんにに川