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2008年10月30日

◎定額減税の代案 「給付金方式」はベターな選択

 景気対策を主眼とした減税は、減税分が確実に消費されなければ意味がない。定額減税 に代わる案として、与党が打ち出した現金やクーポン券などを直接配布する「給付金方式」は、戻し税分がそっくり消費に回る可能性を飛躍的に高める。課税最低限に満たない低所得層にも恩恵が及ぶメリットもあり、定額減税よりベターな選択といえよう。

 私たちはこれまで、一九九九年に実施した「地域振興券」の支給を例に取り、消費を直 接喚起する景気対策の必要性を訴えてきた。定額減税に代わる給付金方式は、地域振興券とほぼ同じ発想のもので、減税などより手続きが簡単なため、年度内の支給が可能である。個人住民税の控除が六月以降になる定額減税より、即効性という点でも優れている。

 このところの円高で輸入品の価格が大きく下がっている。ガソリンと灯油だけで家計負 担が二万円減るとの試算もある。給付時期を早めれば、円高メリットとの相乗効果も期待できるだろう。

 米国発の金融不安が世界経済に激震をもたらし、景気減速が避けられそうもない。これ まで日本の景気をけん引してきた外需の落ち込みで、輸出企業の業績悪化も懸念され、消費者心理や企業経営者の投資意欲は大きくしぼんでしまった。

 だが、欧米諸国や新興国に比べれば、日本企業には余力がある。金融機関のバランスシ ートの傷み具合もはるかに軽い。外需が期待できないなら、円高のメリットを生かし、内需拡大をテコに不況を乗り切っていくしかない。一番恵まれた立場にある日本が真っ先に景気回復を果たし、世界経済をけん引していく気概を持ちたい。

 二兆円規模の給付金については、景気刺激の効果を疑問視する声や「ばらまき」などの 批判もある。だが、景気はたぶんに国民の心理状態に左右される。一時的であっても懐が温まれば、財布のヒモは緩む。モノが売れ、お金が回り出せば、社会全体が潤い、個人消費が半数以上を占めるGDP(国内総生産)を押し上げる。給付金の支給はそんなきっかけをつくるよい機会になるだろう。

◎健康クラスター始動 行政の壁を取り払いたい

 文部科学省の「知的クラスター創成事業(第U期)」に採択された石川・富山地域の「 ほくりく健康創造クラスター」が本部会議の初会合を開いて始動した。両県の共同提案が功を奏し、五年間で研究費約三十七億円が交付される大型プロジェクトを手に入れたが、県同士の連携が問われるのはむしろこれからである。

 第T期事業では石川が「石川ハイテク・センシング・クラスター」、富山が「とやま医 薬バイオクラスター」に取り組み、企業誘致やビジネス創出などで一定の成果を挙げてきた。

 今度は両事業の共通点を生かして「健康創造」という幅広いテーマに挑むわけだが、採 択の審議では隣県連合という形が高い評価を受ける一方、「二県の共同提案であるためマネジメントにおいては相当の努力と意思疎通をしなければ、それぞれ独立した事業が行われる危険性がある」との指摘もあった。その課題を克服するにはまず行政が壁を取り払い、産学官の連携が県境を意識せず、横に広がるような環境整備が必要である。

 知的クラスター創成事業の第U期は全国六地域から「石川・富山」「東海」「京都」の 三地域が選ばれた。「健康創造」は一言でいえば、国際競争力のあるライフサイエンス研究拠点の形成が目的で、最先端の診断機器や診断システム、バイオ機器などを開発し、幅広い健康関連産業の創出も図る。六千億円規模の市場を目指す大きな目標が掲げられている。

 医薬、健康産業は有望な市場であり、両県が大学、企業、研究機関の集積を生かし、一 体となって産業基盤の拡大を図ることは大きな意義がある。だが、県独自のクラスター事業で産学官の連携が進んだとはいえ、二県にまたがり、どこまで多様なつながりが持てるかは未知数である。大学レベルの研究協力は問題ないとしても、その成果を地域に還元し、産業化につなげる段階では行政の役割は一層大きくなる。これだけ大きな産学官プロジェクトを両県が一緒に取り組む例は過去になく、その成否はさまざまな分野における広域連携の試金石にもなろう。


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