本棚に読み残した本が何冊もある。全集などは買ったまま積み上げている。時々、本の「積み木崩し」を楽しむ。
もともと読みたいと思って買ったものだ。手に取っていると、今度こそ読もうという意欲がわいてくる。今回は寺田寅彦全集に挑戦した。物理学者で随筆家、俳人としても知られる。文豪夏目漱石の門下だった。
寅彦全集には「夏目漱石先生の追憶」と題する一編が収まっていた。寅彦は漱石と出会ったことで俳句を始めた。教えられたのは技巧だけでなく、自然の美しさを自分自身の目で発見することや、人間の心の中の真なるものと偽なるものとを見分け、真なるものを愛し、偽なるものを憎むべきことなどだ。
寅彦は、いろいろな不幸のために心が重くなったときに、先生に会って話をしていると心の重荷がいつの間にか軽くなっていた。先生の存在そのものが心の糧であったとも書いている。深いつながりの師弟関係がうらやましくさえある。
印象深い話や味わい深い文章に出合えることは読者として幸せだ。平素は、変化の激しい時代に取り残されるのではとの脅迫観念から次々と出版される雑誌や資料集などを読み散らかす状況になっている。
十一月九日までは読書週間である。期間中ぐらいは味読や耽(たん)読の時間を持ちたいと思う。