東京株式市場の日経平均株価が週明けから一段と下落している。世界同時不況の懸念がさらに強まったことや、外国為替市場での急速な円高が背景にある。二十七日の終値は、七一六二円と、バブル経済崩壊後の最安値を大きく割り込んだ。二十八日は終値七六二一円と大幅に上昇したが、一時七〇〇〇円を割っており、底を打つ気配が見られない。実体経済への影響がより深刻になってきた。
麻生太郎首相は二十七日昼、市場安定化策の取りまとめを中川昭一財務相らに指示した。中身は、株式を持たずに売り注文を出す「空売り」の規制強化や金融機関への公的資金投入枠の拡大、銀行の株式保有制限の弾力的運用などを柱とする八つの項目だ。
先週大幅に下落した株価は週末には八〇〇〇円を割り込み、バブル崩壊後の最安値寸前になった。週明けの株式市場での一層の下落が避けられないとの見通しから、麻生首相と中川財務相は市場安定化策を示すことを二十六日に決めていた。
しかし、安定化策の取りまとめを指示したのは市場が開いてからだった。株式市場の安定に向け、政府の強い姿勢をアピールするには、市場が開く前に指示を出すなど、先手を打つべきだった。結局、株安に歯止めをかけることはできなかった。対策が後手に回っているといわざるを得ない。
東京外国為替市場の円も二十七日午前、一時一ドル=九一円台を付けた。この日昼に先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が緊急声明を発表し、円の過度な変動への懸念を示したが、こちらも市場の反応は鈍かった。口先だけでは市場から見放されてしまうということだ。
金融機関への公的資金を投入する金融機能強化法の改正案は二十八日、衆院本会議で審議入りした。貸し渋りを防ぎ、中小企業融資の円滑化を図るのを目的にしており、政府は二兆円としていた公的資金の政府保証枠を十兆円に増額することを検討している。これに対し、民主党は公的資金投入対象に農林中央金庫や新銀行東京が含まれ、経営責任も原則問わないといった点を問題視している。
改正案の修正に与野党が歩み寄ることができるのか、審議の行方は不透明だ。法案成立にめどが立たないような状況になれば、政治が景気対策に腰が引けていると、市場からはみなされるだろう。
次々と対策を打ち出しても、政治が本気でやるかどうかが問われている。市場の安定に向けた明確な意思表示が必要だ。
イージス艦に関する特別防衛秘密(特防秘)を漏らしたとして日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反の罪に問われていた海上自衛隊の三等海佐=休職中=に対し、横浜地裁は懲役二年六月、執行猶予四年(求刑懲役三年)の有罪判決を言い渡した。
この事件は、被告が海自プログラム業務隊(現・開発隊群)に所属していた二〇〇二年、隊のパソコンからイージス艦の中枢情報を含む資料をコピーした。その後、第一術科学校の元教官の三佐に送り特防秘を漏らしたとするものである。一九五四年施行の秘密保護法が適用された初の裁判で、司法判断が注目されていた。
最大の争点は、隊内での情報流出が秘密保護法が定める「漏えい」に当たるかどうかだった。判決は、被告をイージスシステムの特防秘を扱う権限のある「業務者」、元教官は扱う権限がない「他人」と認定し、資料の送付は権限のない者を知る状態にする「漏えい」に当たるとの検察側主張を支持した。その上で、被告の防衛秘密を扱う者としての保全意識の欠如を厳しく指摘した。同法の「漏えい」は国の安全を害する者に漏らすなどした場合で、今回のケースは当たらないとの弁護側の反論は退けられた。
重要な防衛情報が漏れれば、安全保障上、深刻な事態を招きかねない。情報管理の在り方が問われる。それは個々人の意識だけではない。判決も「外部流出のチェック体制は十分と言い難く、被告だけ厳しく罰するのは不当」と組織的な不備を指摘し、執行猶予とした。事件後も情報の流出が相次いだ。厳格な管理体制と使命感が求められる。情報流出防止を口実に、公にすべき情報まで隠すことが許されないのはもちろんだ。
(2008年10月29日掲載)