業績下方修正が相次ぐ大手電機で、パナソニックの独り勝ちが顕著になってきた。08年7―9月期の営業利益は、大坪文雄社長が最大のライバルとする韓国サムスン電子を抜いた。パナソニックは電機業界のリーダーにとどまらず、日本経済のけん引役を強く自覚する立場になったといえる。
「松下」という名前が外れた最初の決算発表。大坪社長は29日の会見で「下期の環境は厳しい。しかし北米市場のクリスマス商戦は前年実績を上回る」と自信を示した。円高以外にもサムスンがウォン安を武器に薄型テレビで攻勢をかけるリスクもある。それを織り込んでも、業績目標の達成に手応えを感じている。
08年4―9月の営業利益に与える為替のマイナス幅は190億円。ソニーに比べ円高の影響が少ないのは、海外販売比率の低さの裏返し。ただ薄型テレビなどデジタル家電の海外増販は着実に成果が出始めている。ソニーが北米で大手の家電量販などオーソドックスな販路にこだわる一方、パナソニックは地域店とのパイプを太くし収益を維持している。
「世界のエレクトロニクス市場でトヨタ自動車のような存在になれるかだ」。日興シティグループ証券の江沢厚太アナリストは、90年代後半からの急速なグローバル展開とハイブリッド車(HV)で存在感と高めたトヨタになぞらえる。トヨタはHVの環境イメージだけでなく、海外で値ごろな車種を供給することでシェアを拡大してきた。パナソニックも「来年度から新興国で中間所得層向けの商品を出す」(大坪社長)戦略だ。
大坪社長が推進する生産改善活動「イタコナ」もトヨタ流「コストの見える化」に通じる。業績好調の理由は、地道な原価低減活動が底辺にある。4−9月は価格低下による減益額2100億円をほぼ合理化努力で補った。
グローバルでの成長は大前提だが、一方で日本の製造業を代表する企業として期待されるものも大きくなりつつある。自動車は産業としてのすそ野が広く、最近の減産が日本経済に与える影響は深刻だ。
パナソニックはトヨタに比べ設備投資の絶対額は3分の1程度だが増加基調。部材や装置メーカーがその戦略を注視する中、大坪社長は「不採算事業は抜本的に整理するが、薄型パネルや電池の投資計画は予定通り」と言い切った。
内需の喚起という意味では、自動車よりもはるかに期待が高い。国内の自動車販売は長期低落傾向だが、薄型テレビや高機能白物家電などの消費は必ずしも落ち込んでいない。パナソニックの売上高研究開発費比率はここ最近は6%以上を維持しているが、トヨタ「プリウス」のように、競争環境を一変させる製品を生み出す使命がある。