社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説:周産期センター 産科医不足解消は緊急課題だ

 24時間態勢でリスクの高い妊婦と新生児のトラブルに対応する「総合周産期母子医療センター」で、産科医不足の現実が明らかになった。東京都内の妊婦が八つの病院に受け入れを断られ脳出血で死亡した問題を受け、厚生労働省が全国75カ所の同センターに緊急調査を行って分かった。

 常勤産科医が6人以下だったのは都立墨東病院をはじめ15施設あった。厚労省は当直体制を回すには10人の常勤医が必要とみており、今回と同じことが多くの周産期センターで起きてもおかしくない実態が浮き彫りになった。

 緊急調査から産科医不足の厳しい現実がみえてくる。同センターは妊婦や新生児の救急医療に対応するために設置されたはずだ。しかし実際には「最後のとりで」となっていなかった。これでは、安心して子どもを産むことができない。

 周産期センターは、国が96年から全国で整備を始めたものだ。だが、調査の結果をみると、制度を作って補助金を出すだけで、施設の運営や医師不足の実態について点検をしてこなかったのではないかと指摘せざるを得ない。国だけではなく、都道府県にも責任はある。地域医療に対する責任をもっているのだから、周産期センターの診療体制を確保し、地域の医療機関とも十分な連携を取り、産科救急患者を確実に受け入れる態勢を整備すべきだ。

 産科救急が危機的な状況に陥っている大きな理由は産科医不足だ。医師の全体数は毎年約4000人増えているが、産婦人科・産科医は98年から06年までに1割減少している。過酷な勤務や医療事故による訴訟リスクなどが背景にあり、結婚や子育てなどで一時的に離職する女性医師も多い。

 厚労省は医学部定員を増やす方針を決めているが、短期間で医師養成はできない。そこで緊急的な対応策を作って、早急に医師不足を解消する必要がある。具体的な案を挙げてみたい。

 まずは女性産科医に復職してもらうための労働条件や環境の整備だ。短時間勤務の導入や病院内に保育所を作ることも必要だ。地域の医師会などとの連携を強化し緊急時には臨機応変に医師派遣を行う仕組み作りを急いでほしい。土日曜、祝日の当直は2人以上が望ましいとされており、これは緊急に手当てすべきだ。

 患者の家族やかかりつけ医と周産期センターなど救急病院との情報、連絡体制の再構築も必要だ。大阪府が昨年秋に設置した搬送先の調整に当たるコーディネーターもひとつの手段だ。患者の情報を的確に病院に伝え、受け入れ拒否を起こさないための有効な手だてとなろう。

 「妻が死をもって浮き彫りにした問題を、力を合わせて改善してほしい」。墨東病院で死亡した妊婦の夫が記者会見でこう訴えた。重く受け止めたい。

毎日新聞 2008年10月30日 0時02分

社説 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報