まっぷたつに割れたCD-ROM--高速化競争の陰で

2005年1月22日


CD-ROMドライブにディスクを入れたところ、ドライブの中でまっぷたつに割れてしまいました。幸いにもけがはありませんでしたが、事故の背景には高速化競争を突き進むメーカー各社が、安全性を軽視してきたことがあるのではないでしょうか。

「52倍速」って何の52倍なの?

CD-ROMのディスクは、見た目は音楽CDとそっくりです。音楽CDは、ディスクいっぱいに収録すれば、74分とか80分まで入ります。

CD-ROMでいう「52倍速」みたいな言葉は、ディスクを音楽CDと比べて何倍の速さで読み書きできるかを意味しています。

なので単純に考えれば、ディスクいっぱいに収録されたデータは、52倍速のドライブを使えば「80分 割る 52 = 1分32秒」で読み書きできることになります。(実際には、最初から最後まで52倍の速度が出るわけではないので、もっと時間がかかります。)

ディスクの回転数は、音楽CDのプレーヤーでは、1分間あたり200〜530回転ですが、52倍速になると、1分間あたり少なくとも10400回は回転することになります。

遠心力は速さの2乗に比例

物理の教科書や自動車学校の教科書を読むと、遠心力は回転速度の2乗に比例することが分かります。

F = mrω

52倍速のドライブでディスクが受ける遠心力は、計算上は、標準的なCDプレーヤーでディスクが受ける力の、2700倍にもなることが分かります。

え、本当なの?と思われるかもしれませんが、「52 かける 52 = 2704」 というのは疑いのない真実です。

振動でパソコンがブルブル震える

最近のCD-ROMドライブやDVDドライブでは、ディスクを入れるとパソコンがブルブル震える機種も少なくありません。

ディスクは、保管状況や品質のばらつきにより、わずかに重心がずれていたり、そったり、曲がったりしていることもあります。

そんなディスクを、強引に猛烈に回すと、無理な力がかかり、ブルブルと震えだしてしまうのです。

穴の傷が拡大して破断する

CD-ROMなどのディスクは、中心に穴が開いています。この穴をドライブの軸につないで回します。

ディスクの穴と、その近くの部分は、ドライブから運動エネルギーを受け取る大切な場所です。

ところが、ノート型PCのドライブなどでは、ドライブの軸に爪がついていて、ディスクの穴に「パチン」と引っかけて使う機種もあります。

そういう機種では、乱暴に扱うと、ディスクの穴の縁が傷つくこともあります。

いったん付いた傷は、無理に高速回転をくり返すことで発生する、ディスクの振動の影響を受けて、どんどん広がっていきます。

亀裂が記録面にまで達すると、あるとき突然ディスク全体が「バキッ!」と音を立てて、まっぷたつに割れるのです。

まとめると、ディスクはこのようにして割れます。

  1. ディスクの穴の近くに傷が付く。
  2. 無理に高速回転をくり返すことで、ディスクの振動が傷を広げていく。
  3. 次第に亀裂がディスクの外側に広がり、記録面に達する頃に、ディスク全体が大きな音を立てて割れる。

ディスクの強度はどうなっているの?

CDのディスクは、最初は音楽用のCDプレーヤーで使うために作られました。ディスクの強度は、おそらくは通常のCDプレーヤーで使う場合を考えて設計したかと思われます。

最近では、「48倍速対応」などと書かれたCD-Rディスクがよく売られています。このような製品は、48倍速で回転させても壊れないだけの強度を持っていると思われます。

ところで、問題となるのは、読み出すときの回転速度です。

1倍速しかなかった頃の音楽CDも、4倍速対応のCD-Rも、48倍速用のCD-Rも、読み出す時はたいてい、ドライブの最高速度で回転します。

このため、強度が足りない古い世代のディスクや、傷が付き始めたディスクは、割れてしまうような気がします。

信じられないことに、多くのドライブでは、読み込む速度をユーザが指示できないようになっています。52倍速のドライブでは、たとえ強度が心配なディスクがあっても、遅く読むように指示する仕組みはありません。(CD-Rに書き込むためのソフトウエアには、ディスクをコピーするときに、ディスクを読み込む速度をユーザが自由に指定できるものもあります。)

速いドライブは、遅いドライブと上位互換ではないのです。

ディスクドライブに求めること

CD-Rディスクに書き込むデータには、いろいろな種類があります。

こんなわけで、情報を記録する円板には、情報を配ったり渡したりする役割と、情報を消えないように長く残すという役割があるようです。

そんな円板を読み書きする機械に求められることは、どんなことでしょう。

  1. 間違いなく読み書きしてほしい

    記録した情報が、正しく読み出せないようでは、記録をする意味がありません。読み書きを間違えないことは、用途が何であれ、とにかく大切です。他の人が記録したディスクも間違いなく読める互換性があれば、ディスクは情報を運ぶ役目を果たします。長期間保管されたディスクを正しく読めれば、ディスクは情報を保管する役目を果たします。

  2. ディスクを壊さないでほしい

    大切な情報を記録したディスクを破壊するようなドライブは、ないほうがましでしょう。

    ディスクを情報を運ぶ目的で使っているのであれば、ディスクが壊れたら、もう一度送ってもらうこともできるかもしれません。

    しかし、1枚しかない古い記録を収めたディスクが壊れたら、もう取り返しがつきません。情報を長く残す用途に用いるドライブではとくに、ディスクを傷めるような動作をしないことが大切です。

  3. 速く読み書きしてほしい

    限られた人生を生きる人間としては、機械が情報を読み書きするのに必要な時間は、できる限り短いほうがうれしいです。

    情報を運ぶ目的でディスクを使うときは特に、インターネットなどで直接相手と通信して送るやりかたと比べ、時間がかかりすぎないほうがうれしいでしょう。

現在のディスクドライブは速度一辺倒ですので、情報を運ぶ用途には向いていますが、大切な情報を長く残すには、問題があります。現在のドライブは、強引なまでに高速回転を強いるので、ディスクにかかるストレスが大きすぎ、ディスクが長持ちしないからです。

大切なデータをどう守るか

単に速ければ売れるだろうとの発想で、ディスクの寿命を著しく縮めるようなドライブばかりが流通し、デバイスドライバでも、回転速度を制限する機能を持つ物がほとんどない、という現状をみていると、コンピュータ産業の気配りのなさが情けなく思えてきます。

コンピュータは機械に過ぎませんが、人間が設計して作っているわけですから、もっと心を込めて作れば、大切な情報を長く残すためにできることが、もっと多く実現できると思うのですが。

例えば、読み込みの速度をユーザが手動で切り替えられるようにするだけでも、大きな意味があります。「ディスクを大切に扱う」「急いで読み書きする」など、分かりやすい言葉で動作モードを切り替えられるようにすると、なおよいでしょう。

ユーザとして、大切なデータからどうでもいいデータまでを、上手に管理していくにはどうすればいいかを、少し考えてみました。

パソコン本体は、せいぜい数年しか使わないものですが、人間が生きる上で考えたことや、集めた思い出などは、一生捨てられない大切な情報です。そんな情報を記録したディスクには、パソコン本体よりも高い価値があるといっても間違いではないでしょう。

ちなみに



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製作・著作:杉原俊雄(すぎはら としお)
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