わが子を幼くして奪われた心の傷は、いつまでも癒えない。福岡県飯塚市で女児2人を連れ去り、殺害した久間三千年(くまみちとし)死刑囚(70)に28日、刑が執行された。1992年の事件発生から16年余り。遺族は「刑が執行されても、娘はもう戻ってこない」とあらためて無念さをにじませた。一方、刑確定後も否認を貫いてきた久間死刑囚の弁護人は、再審請求準備を進めてきただけに「突然の話でショック」と困惑した。
「なぜ娘が被害に遭わなければならなかったのか。娘はどんな気持ちだったのか。なぜ…。知りたいことが今でもたくさんあったのに」。被害者の1人、梅野裕莉ちゃん=当時(7つ)=の母親(43)は、刑執行の知らせを受けて「分からないまま、これで終わったのか」と言葉を詰まらせた。
一審から、2006年9月に刑が確定した最高裁まで法廷に通い続けた母親。その間、久間死刑囚は無実を訴えてきた。娘の霊前に刑執行を報告したが、「裕莉が喜んでいるのか悲しんでいるのか、よく分からない。(久間死刑囚が)どうなろうと、被害者の傷はずっと消えません。裕莉が今、戻ってくれたら気持ちも変わるでしょうが…」。心の整理はつかないままだ。
もう1人の被害者、中川藍ちゃん=当時(7つ)=の父・雅彦さん(50)は、教頭として勤務している飯塚市内の小学校で刑執行を知った。「裁判は長かったけれど、確定から執行までは早かった。子どもが犠牲になるような問題が二度と起きないよう、教育者としてあのような大人(久間死刑囚)を出さないように努めています」と気丈に語った雅彦さん。娘の霊前には「決着がついたよ」と報告するつもりだという。
2人が当時通っていた市立潤野(うるの)小では事件発生直後から、住民や教員らが登下校時の巡回や見守りを続けてきた。溝口幸義校長(58)は「再び事件が起こらないように、今後も地域と協力して活動を続けたい」と語った。
=2008/10/29付 西日本新聞朝刊=