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妊婦の緊急搬送 県内も危機的状況

2008年10月28日

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埼玉医大総合医療センターのNICU。500グラム未満の低出生体重児から看護師は目が離せない

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新生児と産科の空床情報を検索できる県周産期医療情報システム。新生児の方に満床の「×」がズラリと並ぶ

◇東京依存の脱却急務

 脳出血をおこした東京都内の妊婦(36)が都立墨東病院など八つの病院に受け入れを断られ、その後死亡した問題は、県内の医療関係者らにも暗い影を落としている。空きベッドがないなどの理由で受け入れを断られ、都内の病院に搬送されるケースが少なくないからだ。県内でも2500グラム未満の低出生体重児は増え続け、全出生児の9・6%を占めるまでになっており、東京依存からの脱却が急務となっている。

◇受け入れ不可が6割 埼玉医大総合医療センター

 「墨東病院で起きたことは埼玉で日常茶飯事であってもおかしくない」。埼玉医大総合医療センター(川越市)の田村正徳・総合周産期母子医療センター長の顔は険しい。

 同センターも例外ではない。24時間体制で低出生体重児らを診る新生児集中治療管理室(NICU)24床は、満床状態がざらだ。07年の1年間では母体搬送依頼約500件中、6割の約300件は断らざるを得ない状況だったという。田村センター長は「受け入れたいが空床がなく、やむを得ず断っている。本来は県内で受けるべき患者の20〜30%が東京へ行く『おんぶに抱っこ』の状態だ」と頭を抱える。

 県医師会の調査では07年、妊娠6カ月以降の母体搬送は978件。9割は2回までの照会で受け入れ先が決まったが、15回目の照会でやっと見つかったケース(軽症)もあった。

 搬送された全妊婦のうち144件(14・7%)は県外に搬送された。県外搬送のうち都内は110件と76・4%を占める。03年度に都内の周産期母子医療センターのNICUなどに入院した乳児も9%が埼玉県で、千葉県の5%、神奈川県の2%を上回り、埼玉の「東京依存」が目立つ。

 神奈川県は約1千件の妊婦母体搬送のうち県外は80件で、前年から2割減ったという。千葉県は昨年末から県全域の15病院で母体搬送システムを導入した効果が表れ、昨年12月から今年5月までの6カ月間で県外搬送率は0・3%に激減したという。

 県は今年度、周産期医療への支援策として、ハイリスクな妊婦の搬送先を調整する「母体搬送コントロールセンター」設置予算として約1600万円を計上したが、助産師が搬送先を調整するなどの案に医師から反対が相次ぎ、設置のめどは立っていない。

 98年から稼働する県周産期医療情報システムでは、県内の主要病院のNICUなどの空床情報が表示されるが、「『×(ばつ)』ばかりで「ほとんど役に立っていない」と田村センター長。「せめて関東の総合周産期母子医療センター間で情報を共有できるようにして欲しい」と訴える。

◇NICU床数 必要の半数以下

 県によると、15〜49歳の女性10万人に対する産科医数は全国平均の38・7人を大きく下回る27・6人で全国ワースト2。小児科だけでも高度な技術を持つ勤務医が3年間で29人減った。04年の臨床研修制度の見直しで新卒研修医が研修先を自由に選べるようになり、各病院は医師の確保に苦労している。

 医療事故も加わり、全国的に医師の労働環境は悪化。埼玉医大総合医療センターでは医師1人あたりの当直が月7〜8回にのぼり、翌日の夕方まで36時間、ぶっ通しで働いているのが実態という。

 高度な周産期医療を行う「(総合・地域)周産期母子医療センター」は「総合」が同センターの1カ所、「地域」の5カ所も含め計6施設しかない。

 厚生労働省の研究班が年間出生数1千人あたり3床が必要としているNICU床数も、埼玉は年約6万人の出生に対し83床と、約100床足りない。田村センター長は「受け入れ拒否の約9割はNICU不足が理由」と話す。

 分娩施設も96年の158から115まで減り、春日部市立病院など、医師不足で産科を休止する施設が出てきている。

 今回都内で受け入れを断った8病院の一つ、日赤医療センター(東京・広尾)は埼玉医大総合医療センターにとっても「最後の砦(とりで)」だという。田村センター長は「医師の確保など病院には限界がある。行政のかけ声だけでは意味がない」と国や県に実効性のある政策と支援を求めている。

<キーワード> 総合周産期母子医療センター 

 重症妊娠中毒症などのハイリスクな妊娠や高度な新生児医療を一体的に提供する中核施設で全国に計74カ所ある。NICU9床以上、母体・胎児集中治療管理室(MFICU)6床以上などが認定の条件。地域周産期母子医療センターは比較的高度な周産期医療ができる施設で全国に237カ所。県内は川口市立医療センター、埼玉医大病院(毛呂山町)、西埼玉中央病院(所沢市)、さいたま市立病院、深谷赤十字病院(深谷市)の計5カ所。

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