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となりの医療さん(2)/高崎憲治さん2008年10月29日
06年8月、私の三男晋輔の妻である実香が、出産中の事故で死亡しました。悲しみの癒えぬ中、なぜこうなったのかと自問し、同様の被害に遭った方や医療関係者に会ってきました。いつか実香の残した子どもに、「お母さんのおかげでこんなに医療は良くなったのだよ」と伝えたいという思いからです。 その後、県の医療は多岐にわたりシステムなどが改善されようとしています。けれど、医療現場にもっと学ぶゆとりや情報を与なければ、悲劇は繰り返されます。 01年に県内の産院で脳内出血のため、母子ともに亡くなられた事件のご遺族によると、訴訟中(医療者側の謝罪などで今年和解成立)に私たちの事故のことを知り、「医療者が公表しないからまた不幸な事件が起きた」と猛烈に抗議したと言います。 被害に遭った家族にとって再発防止がせめてもの慰めであり、医療には人の死に学ぶ側面があるはずなのに、不都合な事実は隠されがちです。余りに酷似したたくさんの例は、多くの産科従事者には伝わっていないのが現状で、知っていれば未然に防げた事故も少なくないと思います。 「こんな悲しい思いは自分たちで最後にしたい」。そんな思いから、昨年から奈良女子大を出発点に、お産を経験するであろう方や医学生さんらに講演を始めました。講演中、少数の心無い医療関係者の誤った情報に驚かされるとともに、怒りの声やよい医療者になる決意もたくさん寄せられます。 昨年9月、出生時に母を亡くし、自らも重度脳障害を負い懸命に生きる高松市在住のお子さんに会った時、連綿と続く悲しみのバトンは、被害者の間だけで渡ってはいけないと感じました。 長崎大医学部で夜明けまで話し合った医学生の一人からは、「来春離島の産科医になります」と、この夏お便りをいただきました。講演後のたくさんのメールやお手紙に、多くは教わり、励まされ、悲しみのバトンは希望のバトンに変わりつつあると実感しています。(次回は奈良女子大教授の栗岡幹英さん) ◇メモ・・・06年8月に大淀病院で分娩中に意識不明になり、19病院に転送を断られた末に亡くなった高崎実香さん(当時32)の義父。息子で、実香さんの夫、晋輔さん(26)とともに、各地で講演会を催したり医療事故遺族らとの交流会を持ったりしている。普段は建設会社の代表。
マイタウン奈良
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