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プロポスレ@Wiki 文4

「ふぅ、よっこらせっと……」
手に持ち、背中にも背負った荷物を降ろす。重量からの開放感は清清しい。
袋に詰め込んであるそれらは全て食料だ。
一応ある程度の自給自足はできているが、御数はともかく主食はその限りではない。
なので定期的に人里へと買出しに行かなければならないわけだ。
「慧音さんには感謝しなきゃな。今日は南瓜まで貰ったし」
あの半獣さんは人里に住んでいない俺のような人間に対しても親身になって接してくれる。
彼女の口添えがあるからこそ、財布の中身が南極並みの俺でも食料が安く買えるというものだ。
貰った南瓜は後で煮付けにでもして頂くとして、次会うときは日頃の御礼でも持っていくべきか。
「今度、新鮮な魚でも釣っていくかな」
そんなことを考えながら裏の倉庫に食料を運び込み、ようやく一仕事終えた気分で玄関に戻る。

「ただいまー、って誰に言ってるんだ俺は。……ん?」
居間に入ると何故か客がいた。
窓を破って進入したらしいそいつは、机に突っ伏して微動だにしなかった。
「文か」
どうしたんだ、と呼びかけてみるも返事は無い。
奇妙に思い近づいてみると、
「……すぅ…」
「……寝てるのか」
文は机の上に新聞の原稿のようなものを広げたまま寝ていた。
書いている途中で寝てしまったのだろう。この日溜りの中では無理も無い。が、
「自分の家ですればいいのにな」
わざわざ進入してまで他人の家でする必要性が感じられない。というか不法侵入はいかんだろ。

仕方なく窓を直しに向かおうとしたところで、とあるものに目が留まった。
文が置きっぱなしにしている、和風に装飾されたそれを手にとってみる。
文花帖。記事になりそうなネタを集めた天狗の手帖、だったような気がする。
手癖の悪い人物(普通の魔法使い等)が多い昨今、こんな大切な物をこうも簡単に放置しておくとは……
「…………」
思い直して椅子に座り、無防備な文の寝顔を眺める。

天狗は排他的な妖怪だ。天狗内での仲間意識こそ強いが、それ以外の種族との関係となるとそうでもない
彼女も新聞記者という仕事柄、人脈(というのは不適当であるが)は豊富にあるのだろうが、
それは広く浅い関係だ。仲間内のような狭く深い関係ではない。
更には他の種族(河童以外か)からしても天狗は余り好かれてはいない。盗撮、捏造、といった行動がその原因だ。
出来るだけ関わり合いにならないほうが良いというのが共通見解だろう。つまりは倦厭される。
当然例外はあるだろうが、排他的であるが故に、取材や宴会の席でなければ他の種族と関わることは少ない。

考えを目の前に戻す。
そんな種族の少女が現在進行形で寝ている。思いっきり他種族の家で。
信頼、しているというのだろうか。人間である俺を。

「……何考えてんだか」
自分は信頼されている、と断言できるなど自惚れもいいとこだ。
我ながら無駄に難しく考えたものだが、単にまだ帰ってこないと思っていただけ、というのが正解だろう。
「さっきまで考えてたことは無しだな」
手に持った文花帖を元の場所に戻す。中の内容がどんなものにせよ、これは文の努力の結晶だ。
今見なくても購読しているのだからいつかは新聞で読めるだろう。それまで待てばいい。

再び文を眺めつつ、これからどうするかを考える。
取り合えず窓を直すという手もあるが、ここで少し悪戯心が芽生えた。

思い立ったが吉日、ということで即実行に移す。
文の頭に手を当てて、その烏羽色の髪を丁寧に撫でてみた。
手先にサラサラとした感触が伝わってくる。許可があれば暫く撫で続けていたいくらいだ。
「……うーん…」
「む、悪い、起こしちまったか」 
「…………え……?」
文は寝惚け眼で暫く俺を眺めた後、
「えぇぇぇええええ!?」
椅子を蹴り飛ばすほどの勢いで壁際まで飛び下がった。木製の椅子が壊れた窓枠ごと外に吹き飛んでいく。
……こいつは俺の家の物を壊すのが趣味なのだろうか。だとしたら即刻やめてもらいたい。
「ぇぁ、な……!? なんでいるんですか!?」
「ここは俺の家だからいるのは当然だろう」
「いやまぁ、そうですけど!」
珍しく慌てているのか、所々でどもりながら口を開く。
慌てる文の姿は貴重だ。しっかりと目に焼き付けておこう。
「え、えーと……見ちゃいました?」
「主語がないから判らんが……新聞の原稿なら読んでないぞ?」
「それじゃなくてですね!」
「じゃあ文花帖か。安心しろ、覗いてなんかいないから」
「それでもなくて……」
「他になにかあったか?」
文はここで何故か口篭る。だが俺には心当りが無かった。

少しして、普段ならありえないような小声で呟いた。
「その……寝顔…」
「寝顔? ああそれか。当人が目の前で寝てれば見るなというほうが無理だろう」
「うわぁ……!」
妙な感嘆の声を上げると急に顔を俯かせる。よく見ると顔が赤く……あれ?
赤面する文なんて見るのは初めてだ。貴重を通り越して驚きである。
「○○さんに見られてしまうなんて……この射命丸文、一生の不覚です……」
「俺は変態か。つーか寝顔なんて見られて減るもんでもないだろ」
「私は恥ずかしいんです!」
むきになる文を見ていると、急にからかいたくなる衝動が湧き上がってきた。ここは本能に従おう。
「そう言うな。可愛かったぞ、寝顔」
「ふぇっ……!?」
「あとは髪かな。サラサラしてて気持ちよかった」
「…………!!?」
不意打ちを連続でくらったからか、最早声にもならない声を上げる文。何処ぞの館と張り合える程に真っ赤っ赤だ。
「そうだな他には……OK、判った。もう言わないから天狗烈風弾はやめろ!」
突然扇子を振り上げたられたので、からかいを中断して必死の叫びを上げる。
むぅーっ、と怒りながらも文は扇子を下ろしてくれた。危ねぇ……

一先ず窓を直すのは後回しにしてお茶を入れることにしたが、湯を沸かしているときから感じられる文の視線が痛い。
居心地の悪さを解消するためにもお茶を差し出す。
「まあ取り合えずこれでも飲んで落ち着け」
「落ち着けませんよっ。あんなにからかわれたのにそう簡単に許せますか!」
「そいつに関してはすまないと思うが、お前のほうこそ家主がいないのに無断進入して原稿を書く、っていったいどういう了見だ」
「いいじゃないですか! 何と無くそんな気分だったんですよ!」
「その何と無くで窓を割られる俺の気持ちにもなれ……」
というか進入したくなる気持ちってなんだ。そんなものはあの白黒魔法使いだけで十分だ。
「それにしても可愛いと言われて怒るなんてな。なんて言われれば嬉しいんだ?」
「からかいで、しかも寝顔に言われても嬉しくないですっ。もっと普通の場で言ってくださいよ」
頬を膨らませてそっぽを向く文に対して、やれやれと溜息をつきながら答える。

「お前は普段から可愛いから、ああいう状況じゃないと言う機会が無いんだよ」
「え……?」
「二度は言わん」

暫くポカーンとしていた文だったが、唐突に我に返ると一気に捲くし立てた。
「そ、そんなこと言って、購読料を安くしようたってそうはいきませんよ!?」
「そんなこと考えてもいないが……」
「おおっと、そういえばこれから取材の用件が入ってたんでした! それでは私はこの辺でっ!!」
そう言って机の上の私物を瞬息の手付で片付けると、こちらが何か言う暇も無い内に帰り支度を済ませる。
最早枠すら残っていない窓の跡に足をかけたところでこちらを振り返り、
「どうせ嘘でしょうからねっ、信じませんよ!」
そのまま晴天の空へと飛び上がった。一瞬の内に米粒のような影となり、見えなくなる。
後に残るのは暫しの沈黙。
「……本当に落ち着きのない奴だな」
椅子に座ったまま、文が飛び出していった空を見上げる。
寝顔に関してはからかいであったけれど、普段から可愛いと思ってるのは事実なんだがな。
……俺の言葉って嘘っぽく聞こえるのかね。どっかの素兎よりかはマシだと思ってたんだがなぁ。
「まあいいさ」
彼女が俺のことをどう思っていようが、自分の気持ちに変化が出るわけではない。
俺は文と一緒にいて楽しいんだ。今はそれでいいじゃないか。
そこまで考えて納得し、文が飲み掛けのまま放置したお茶を静かに飲み干した。


避難所>>81

───────────────────────────────────────────────────────────


「ほら、豚角煮行くぞ――あーん」
「あ、あー……むぐ。……なんか、複雑です」
「雛鳥になった気分か?まあ仕方ないさ。
 ――卵から離れちゃ駄目なんだろ?」
「もうちょっとしたら自分で出て来られる時期に入るんですけどねー。
 ――元気に育ちなさいねー(こんこん)」

(ゆっさゆっさ)

「あ!動いた!」
「おお、本当だ!――って文面だと人間とあんま変わらないな」
「確かにこれじゃ記事栄えしませんねー……」
「って、まさか新聞で連載する気か!?」
「当たり前です――私の可愛い子供の成長記ですからっ」


やっべえ和み過ぎ。ちょっと文のたまご倶楽部予約してくる。


7スレ目>>166

───────────────────────────────────────────────────────────

    「文~! 今日の俺の特ダネ写真、どうだった?」
    「全然駄目ですね。もっと被写体に近づいて、もっときわどいとこまで撮って、
     弾幕浴びせられつつ、颯爽と去る。
     これが文屋と言うものです。
     まだ解らないんですか?」
    「・・・orz」

227 :名前が無い程度の能力:2007/04/21(土) 20:52:01 ID:E3/OOF7w0
    >>226から幻視

    「まったく仕方がないですね。お手本を見せてあげますよ。よく見ていてください」
    「ああ、ありがとう……ってどうして俺に近づいてくるんだ?」
    「だからさっきも言ったじゃないですか。もっと被写体に近づいて、もっときわどいとこまで撮る……と」
    「い、いやそうは言っても近すぎるだろ!顔!顔近いってー!」
    「これでこそ特ダネが撮れるというものですよ……そうだ、明日の一面はこうしましょうか」
    「な、なんだい……?」
    「『文屋に熱愛発覚!真昼の路上でキスシーン!?』に……」
    「ええ!?いや、あの、んん!」
    「んっ……ほら、大人しくしてくださいよ……ピントがずれるじゃないですか」
    「ご、ごめ……うぁぁ」
    「うふふ……○○さんかわいいですよ……ちゅ……」
    「んむ……」
    「……ぷぁ……これぐらいでいいですかね」
    「はぁはぁ……」
    「では、最後は弾幕浴びせられつつ、颯爽と去る、ですね」
    「へ?」
    「風神一扇!」
    「うぎゃー」
    「……それでは、明日の新聞を楽しみにしていてくださいねー」
    「…………この場合、弾幕を浴びせられるのはあっちじゃないのか……ガクッ」

    次の日の新聞の一面は『真昼の惨劇!幸せそうな変死体の謎!』になったとかならないとか

7スレ目>>226-227

───────────────────────────────────────────────────────────

<射命丸 文 参戦決定!>

「……文、これが今度の号外か」
「ええ、そうですよ」
「文って美人だったんd――OK落ち着こうビール瓶は止めてくれ」
「ぐすっ、

 ――誰の為に女磨いたと思ってるんです(よよよよよ)」

「……いや、悪かった。すまん」
「……ほんとに悪いと、思ってます?」
「二言は無いよ。出来る事なら何でもする。
 そうだ、紅魔館から良いワインが入ったんだ。飲むか?」

(トクトクトク……)

「そう、ですねぇ……」
「む、擦り寄ってくるなよ、零れるって」
「あは、これは失礼を――(すっく)」

「お子胤を、下さいませ」

(どぼどぼどぼどぼどぼ)

「――おーけいおーけい文落ち着けまずは素数を数えろ待て」
「どれくらい待ちますか?」
「……まず、服がワイン染めになる前に、これを片しておきたい」
「あら、これはいけない――お手伝いしましょう」
「ふー、……っておい待て何処に屈んでる其処はいい着替える自分で拭――」


「きゃーっち」
「ァッ―――!?」

(久々に省略されました。続きを読むためにはドアノッカーと蒼いランタンを用意してToten sie!)

7スレ目>>651

───────────────────────────────────────────────────────────

「○○さん、今日も取材に来ました。
昨日は好きな献立を聞きましたね。今日は…」

幻想卿に来てからもう一ヶ月経つが、よくもまぁそんなに聞くことがあるものだ。
というか最近はどうやっても記事に出来ないことばかり聞いてくる。
一体誰が俺の体を洗う順序やアレルギーの有無を知りたいというのか。
いいかげん疑問に思って問いただしてみると

「それは秘密です。
とはいえ○○さんは賢い方ですので、私の気持ちにも気づいて頂けると思いますが。」

顔を赤らめて、少し怒った様子でこう答えた。
まさか、好意を持たれているということだろうか。
確かめる意味で文の顔に顔を近づけてみる。
文は目を閉じた。どうやら間違い無い様だ。満更でもないのでそのままキスをした。



翌日、里へ降りると色々な人に声を掛けられた。
八百屋のおばさん、道具屋の看板娘、職場の同僚たち。
皆、言うことは同じだ。「何かいいことあったの?」
どうやら俺は浮かれているらしい。一目で判るほどに。
自覚しつつも文のことをぼかしながら談笑した。有頂天とはこういうことか。
どこかでカメラのシャッター音が聞こえたが、まるで気にならなかった。



仕事を終えて帰宅すると、文が待っていた。

「おかえりなさい」

にっこりと笑って迎えてくれる。

「ご飯、出来てますよ」

その言葉に空腹を刺激され、何の疑いもなく戸を開けた。








そこで思考が停止した。








立ち込める異臭。一面の血の海。引き裂かれて雑巾の様になった衣類。
背中から圧倒的な腕力で抱きしめられ、耳元で文が囁いて来る。

「ああ、これは私の食事の跡です。○○さんのは別の所に用意してますから、ご心配なく。」

足の力が抜け、震える俺を強引に支えながら目の前に三枚の写真を広げられる。

「ちなみに、これが私の夕食のメニューです。こんなに食べたのは本当に久しぶりです。○○さんの所為ですよ?」

もはや恐怖の限界だった。訳が判らない。とにかく命乞いをしなければ

「何か勘違いをしていませんか?○○さんに危害を加えるつもりはありませんよ?○○さんには。
けど…人間は気まぐれですからね。妖怪の女に愛を誓っておきながら、人間の女に手を出すかもしれない。
勿論、○○さんが裏切ってなんかいないことは分かってますよ?可能性の話です。
けれど可能性がある限り、お互い安心できませんよね。
ですから私が○○さんを飼う、というのは如何でしょうか。
大丈夫、○○さんの事なら全て分かってますから。靴下のサイズから頭の痒くなる場所まで全部記憶してます。
○○さんはもう自分で考える必要なんて無いんですよ?唯一私の事だけ考えてればいいんです。
私が居て良かったですね。私も○○さんと会えて本当に幸せ!アハハハハハハハハハハハ!!!!」

うpろだ327

───────────────────────────────────────────────────────────

「○○さん、今日も取材に来ました。
昨日は好きな献立を聞きましたね。今日は…」

私がこの人間に、取材を口実に会いに来る様になってからもう一ヶ月になる。
名前は○○。身長、年齢、趣味嗜好、果ては家族構成や病歴まで聞いてしまった。
正直言ってもうこれ以上は何を聞けばいいのか解らない。
一番聞きたい事はあるにはあるが、もし自分の望む答えで無かった場合、ここに来る理由が無くなってしまう。
いや、本当は薄々分かっている。○○さんは私に興味なんて無いのかもしれない。
なにしろいつも私が一方的に質問して○○さんはそれに答えるだけ、という関係だった。
あちらから質問されたのは数えるほど。
「此処は何処?」

「君は誰?」
の二つのみ。
今日は無難に仕事の調子でも聞こうか…と思っていると、なんと○○さんの方から質問してきた!

「君はいつも記事になりそうも無いことばかり聞いているけど、
そんなことで新聞を作れるのか?」

作れる訳無いじゃないですか。
と、危うく本音を言いそうになるほど驚いた。
思えば会話が途切れそうになる度、私の方からなんだかんだと喋っていた。
所謂、ずっと私のターン!○○さんが質問なんて出来る筈が無い。
思い出すと顔が熱くなる。
でも、少しだけ勇気が湧いてきた。
質問してきた、ということは私に対して無関心ではない、ということだ。
思い切って、なおかつ逃げ道も確保しながら慎重に答えを返した。

「それは秘密です。
とはいえ○○さんは賢い方ですので、私の気持ちにも気づいて頂けると思いますが。」

これならどう転んでも○○さんへの「取材」を継続できる…筈。

目が合った。見つめられてる。顔が近づいてきた!
なんという急展開、予想していたステップを3段くらい飛ばしてきた。
どうすることも出来ず、ただ目を閉じた。

まだ来ない

まだ来ない

まd



キス…された…

目を明けるともう○○さんの顔は遠くに行ってしまっていた。
心配そうに見ている。

「その、すまない、イヤだったか?」

その一言で正気に返った。

「イヤじゃないです!」

ある意味まだ惚けたままなのかもしれない。叫ぶ、という行為をしたのは本当に珍しい。
しまった。○○さんが引いている。
急に彼の前に居るのが恥ずかしくなり、

「その、今日はもう帰りますっ、ま、また明日っ」

そう言って逃げる様に帰ろうとすると、

「待ってるから」

と後ろから声を掛けられた。

「はい、必ず!」

顔も見れずに返事を返し、そのまま自己(幻想郷)新記録のペースで家路についた。





まるで夢の様な一日だった。
キス=○○さんの気持ち=愛!!!
いくら一ヶ月間進展無しだったとはいえ、たった一日でこれほど急接近してしまっていいものだろうか。
いや、きっとせっせと与えた愛情が一気に実ったのだ。よくあること…たぶん
それより、明日はどうしよう。
今日あんな帰り方をしたのはやはり不味かったのではないか。
せっかくいい仲になれたのに、こんなことで気まずくなるのは絶対に避けたい。
なんとしてでも名誉挽回しなければ。
さて、どうしようか。とりあえず全ての生き物(一部亡き者)に大事なのは食事だと思う。
幸い○○さんの嗜好は全て記憶済み、○○さんが仕事に出た後に台所を借りて作ることにしましょう。
うーん、これだけじゃ足りないような。
そうだ、○○さんは普通の人間だから、妖怪に襲われたらひとたまりもない!
なんてこと…こんなことにいまさら気づくなんて…!!
急いでお守りしに行かないと!!!




………朝…ですね…
徹夜で見張ってましたが結局誰も来ませんでした。
まぁ、私に恐れを為して近寄れなかったのでしょう。
おっと、○○さんが出勤ですね。妖怪に襲われない様にこっそり後を尾けないと。



人間のメス、一人撮影
コメント
私の○○さんに声を掛けながら肩を撫で回した



人間のオスとメス、合わせて三人撮影
コメント
私の○○さんと一緒にご飯を食べた



人間のメス、一人撮影
コメント
私の○○さんと好色そうな顔で会話し、あまつさえ釣銭を渡す際に手を握った!!!



私、勘違いしてました。真に危険なのは妖怪なんかじゃなかった!
本当に邪魔なのは友好なフリをして近づく人間そのもの!!
許さない許さない、絶対に許さない!!!
○○さんの目を覚まさせなきゃ……

うpろだ330

───────────────────────────────────────────────────────────


 きっかけ何て単純でした。
 ある時異邦人(しかも男らしい)が訪れた、と言う風の噂を聞きつけたのです。
 基本的に外界からやって来た人間と言うのは未知の見聞を持っている事が多い。
 そして同時にそう言った話は良いネタになる事も多い。
 動機としては十分でしょう?
 だから私は彼に会いに行きました。
 ええ、噂を聞きつけたその翌日に朝日が昇るのと同時にね。

 第一印象は何においても重要です。
 本当ならば玄関を破壊するような勢いで乗り込んでも良いのですが、流石に初対面の人間相手にそれは出来ません。
 ですから私は形式的に彼の家のドアをノックする事にしたのです。
 程なくして中から一人の青年が現れました。
 成程、異邦人と言うのは嘘ではないらしく如何にも見慣れない服装をしていました。
「えっと・・・ どちら様ですか?」
 人間にとってはまだ早い時間だからでしょうか、彼の目はまだ夢の中にいるかのようでした。
「私は射命丸 文と言います。 貴方様が“外の世界”から来たと聞きまして、そのお話を窺いたく思いやって参りました。 お時間が良ければ取材をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
 自分でも上出来な程の自然な営業スマイルを浮かべたはずでした、
「文さん、だね。 うん、こちらこそ今日はよろしくね」
 しかし彼はそれを上回る笑顔で返してきたのです。
 ・・・今思えば、この時点で私は彼の事を好きになっていたのかも知れません。

 人一人が持っている見聞なんて大した量にはなりません。
 何より、個人情報に至る話をさせようとすると誰もが嫌がります。
 それは彼とて例外ではありませんでした。
 然るに彼から得られるネタにもまた限界があったのです。
 しかしどうしてでしょうか、既に新しいネタ(幻想郷での事は除外)が出てくる事はないのに気が付けば私は足繁く彼の元に通っていました。
「やあ、今日も来たんだね」
 私がやって来る度に、彼は笑顔で私を迎えてくれました。
 最初こそは何とも思ってはいなかったのです。
 でも気が付けば彼のこの笑顔を見る事が日課になっていました。
 一度だけ彼がいつもの様に待っていてくれなかった日があったのですが、その時初めて彼の事を本気で心配している自分がいる事に気が付きました。
 ですから私も嘘偽りなく本心からの笑顔で答えます。
「ええ、おはようございます○○さん」

 彼は私の新聞を購読してくれる人であり、また同時に評価を下してくれる人でもありました。
 そもそも私は自分の新聞ついての批評を求める事などあまり無いのですが、不思議と彼の批評は素直に受け取ることが出来ました。
 彼には文才や、物を見る目がある訳では無かったのですが、外の世界にも新聞があると言う事を聞いていたので参考にはなると思ったのです。
「ではこの記事はもう少し真実味を持たせるべきですか」
「そうだね。 面白みを持たせるのも良いけど、ここはもう少し真面目な文体で・・・」
 彼の家では始終こんな感じの会話を繰り広げていました。
 時折、ここは自宅なのか他人の家なのかが分からなくなったりもしました。
 だからでしょうか。
 本来私は人様の家で寝るという愚行を犯さないのですが、その日ばかりは連日の徹夜なども相俟って眠ってしまったのです。
 よりにもよって彼の家で。
「・・・・・・・・・う~ん」
 無論、私はせいぜい取るにしたって仮眠を取るだけのつもりでした、しかし彼の家に置かれた時計を見て目を剥きました。
「嘘、もうこんなに経ってる!?」
 何せ時計の針は私が最後に確認した時間から、およそ3時間も経過していたからです。
「おや、お目覚めみたいだね」
 声の方に視線を向けると、椅子に座った○○さんが本を読んでいました。
「コーヒー飲むかい?」
 本をパタンと閉じて、彼は問いかけてきました。
「い、頂きます・・・」
 と口では言いましたが、内心私は猛烈に焦っていました。
(ど、どうしよう! もしかすると文花帖見られたかも・・・)
 暫くして芳しい香りと共に彼が戻ってきました。
 カチャリ、と小さな音を立ててカップとソーサーが机に置かれました。
「どうぞ」
「ど、どうもありがとうございます」
 彼の向かい側に当る椅子に腰掛けて、淹れ立てのコーヒーに口をつけました。
 程よい苦味が舌の上を走って、眠っていた頭が冴え渡り始めます。
「あ、あの・・・」
「何かな?」
「も、もしかして見ました? その・・・ 私の文花帖」
 すると彼は一瞬ポカンとした表情をした後で、
「ううん、見ていないよ」
 首を横に振って答えました。
「よ、よかったぁ・・・」
 その一言で、私はようやく人心地がつきました。
 あれは私の苦労と努力の結晶であり、同時に『文文。新聞』の重要なネタ帳なのです。
 しかしここ最近はそれ以外にも別の意味も持ち始めていたのです。
「あれを見られたら、○○さんの事を殺していたかも知れません」
「うわ・・・ それは見なくて良かった」
 私の冗談に、彼は本気で顔を引き攣らせていました。
 まぁ、殺さないにしてもそれ相応の罰は受けてもらうのは間違いありませんね。
 何せあの手帳の中の一角にはこっそりと、毎日の彼について記したコーナーが出来ていたのですから。

 それでも偶然と言うものは起こるものなのですね。
 ある日、遂に何の因果か彼が私の文花帖を見てしまったのです。
 ただ彼が望んで見た訳ではないようでした。
 気紛れに現れたスキマ妖怪が私の文花帖を奪い取り、彼にその内容を見せたのです。
 頭に血が上った私は天狗烈風弾を放ちましたが、残っていたのはただ文花帖の一角を見つめたまま硬直している彼だけでした。
「文・・・ これは」
「っ!!!」
 その後に続くこと言葉が怖くて、耳を塞ぎたくなりました。
 何せ、この頃の文花帖はすでに“彼について”の事でかなり埋まっていたのですから。
「嬉しいよ」
 しかし彼の言葉は私が予想していたものとは大きく異なりました。
「こんなに俺の事、思っていてくれたんだね」
「え・・・」
 私は自分の気持ちを自覚した上で例のコーナーを書いていました。
 そしてそれを見た彼の反応がこれ。
 額面通りに受け取ると、もしかしてこれは・・・
「俺も、文の事が好きだよ」
「え!?」
 穏やかで、どこまでも優しい微笑みと共に彼の言葉が耳に入りました。
「う、嘘じゃないです・・・よね?」
 すっかり気が動転した私は、自分でも情けないぐらいに上擦った声で言いました。
 すると彼はそっと、優しく私の事を抱き締めてくれたのです。
「私は天狗なんですよ? 人間じゃないですよ?」
「そんな事はどうでも良いんだ」
 穏やかな彼の声がすぐ近くで聞こえる、それだけで私は心の底から安心してしまいました。
 私もおずおずと彼の背に手を回しました。
「俺はただ文を、射命丸 文と言う少女を愛しているんだ」
 ああ、何て幸せなんだろう。
「私も○○さんの事、愛しています」
 噛み締めるように言葉を紡ぐと、それだけで胸の内がじんわりと暖かくなってきます。
 そして私たちは見つめ合って、そっと触れ合うだけの淡いキスをしたのです。

 こうして私たちは晴れて幻想郷全体の公認で“恋人”となったのです。
 幸せでした、とても。
 こんな幸せが永遠に続けば良いのに。
 そう願い続けていました。

―そんな気紛れな一時を永遠だと信じたりして―
―そんな不確かなものを運命だと信じたりして―

 ああ、どうしてこんな事になってしまったのか。
 なぜ私はこんな事をしてしまったのか。
 もう私はあの頃には帰れない。
 そう、全てはあの日の些細な誤解から始まったのです。

 私は今まで様々なデバガメをやって来ました。
 それは私の新聞に載せるネタを得る為には必要な事だったからです。
 特に男女関係のデバガメは良いネタになります。
 ですから私も積極的にその手のネタを漁る事もありました。
 そんなある日の夜の事でした。
 久しぶりに内容のあるスクープを入手した私はご機嫌で空を飛んでいました。
 目的地は彼の家。
 そこで資料をまとめさせて貰い、ついでに軽く添削をしてもらおうと思っていたのです。
 その矢先、私は見てしまったのです。
 彼がドアの前で見知らぬ女性と抱き合っている姿を。
「―――――」
 なぜ? どうして?
 その言葉だけが空っぽになってしまった私の脳裏を巡り続けていました。
 そして同時に感じるドス黒い感情。
(誰だろう、あの女性は)
(何で“私の”彼に抱きついているのだろう)
(彼の胸は“私だけのもの”なのに)
(許せない)
 幾つもの私が、彼に抱かれている女性を睨んでいました。
 そして“私達”は声を揃えて私にこう囁いたのです。
(殺してしまえ)
 そうだ、殺してしまえば良いんだ。
 そうすれば彼は私だけを見てくれる。
 ・・・でもただ殺すのでは意味が無い。
 あの女は一応、彼と親しくなれる程の存在ではある。
 ならば喰ってしまおう。
 喰ってしまえば、あの女は私の一部になる。
 そうすれば私はまた彼に愛してもらえる上に、あの女は私を通して彼に見てもらえるのだから。
 ああ、何て私は優しいのだろう。
 本当ならば細切れどころでは許さないのに、わざわざあの女の為に喰ってやるのだから。
「ふふふ・・・」
 唇が吊り上がっていくのがはっきりと分かる。
 心のどこかで誰かが「止めろ」と言ったような気がするが、人の男に手を出した女を制裁して何が悪いと言うのだろうか。
「殺してあげますよ」
 小さな呟きは、風に流されて夜の闇の中に消えていきました。

 彼の元を離れた女の後を追う。
 音も立てずに、背後から忍び寄る。
 そうして辿り着いた女の家。
 彼女がドアを開いて中に入ろうとしたその時、私は扇を振るった。
ズシャア!!
 何か醜い鳴き声を上げて、女は地に倒れ伏せた。
 徐々に、鮮やかな血液が地面に広がっていく。
 久しぶりに見る人の血液に、私は言いようの無い興奮を感じた。
 ふと、女がまた鳴いた。
 どうやらまだ息があるらしい。
 丁度良い、自己紹介してしまおう。
「生きてますか?」
 長い髪の毛を掴んで、無理矢理身体を持ち上げる。
 背中から風を受けたのでまだその顔は鑑賞に堪えうるものではある。
 女は私の事を見て、ギョッと目を見開いた。
 失礼な。
 人の男に手を出しておいて。
「私は射命丸 文と言います。 貴女が先程までお会いしていた○○さんの恋人です」
 にっこりと、極上の営業スマイルを浮かべてやる。
「突然ですが」
 そして扇で軽く凪ぐ。
「死んで下さい」
ドシュ ザシュ グシャ
 至近距離で風の刃を受けて、女の身体に深い裂傷が刻まれていく。
 髪がちぎれて、身体が地に落ちても。
 何度も、何度も、何度も風の刃で切り刻む。
「あはは!!」
 愉しい。
 一体どれ位この素晴らしい感覚を忘れていただろう。
ブシャ ズシュ グシュ バシュ
 この肉を裂く感覚、獲物を調理すると言う感覚。
「ふふふ・・・!!!」
 良い塩梅に肉が切れてきたので、その内に一つを口にする。
「美味しい」
 この歯触り、この食感、この味わい。
 ああ、堪らない!!
「あむ・・・はぐ・・・・・・んく・・・はぁあむ・・・・・・」
 気が付けば夢中で“女だったもの”を喰らっていた。
 彼女がどうだとか、私がどうだとか。
 そんな建前はもはやどうでも良かった。
 喰って、喰って、喰い続けて。
 気が付けば私は骨と皮と、後は精々髪の毛ぐらいを残して女の全てを平らげていた。
 そしてふいに気が付いた。
「あ・・・・・・」
 自分の服が、私の白いブラウスが真っ赤に染まっている事に。
「あ、ああ・・・・・・」
 ワタシハナニヲシタ?
「い・・・や・・・・・・」
 ヒトヲコロシテシマッタ。
「・・・い・・・やぁ・・・・・・」
 赤色に染まった手、月光を浴びてテラテラと輝く人骨。
 むせ返る様な死臭、口に残った人肉の味。
「いやああああああぁぁぁあああああああああーーーーーーー!!!!!!!」
 その瞬間、現実が崩れていく音がした。

「どうしたんだろう」
 いつもならばとっくに帰って来ているであろうはずの時間なのに、文が未だに帰って来ない。
「折角、これが届いたのに・・・」
 そう言って手に収まるほどの小さな香水を見る。
 これは前々から密かに里で注文しておいたもので彼女がしきりに欲していたものだ。
 今日は俺が文と付き合い始めてから一年が経過した日。
 つまりは一種の記念日であるのだ。
「しかし驚いたなぁ」
 律儀にも香水屋の女主人が届けに来てくれたのだが、なぜだか彼女は急に俺に抱きついてきたからだ。
 元々あの人はお茶目な人で、今回の件も理由を聞いてみれば「これが彼女だったら」と言う想像をさせたくてやったのだそうだ。
「でもまぁ・・・ 悪くはないかな」
 あれがもしも文だったら。
 そう考えると頬が熱くなってくる。
「それにしても遅いなぁ・・・」
 唐突に、ドアが凄まじい勢いでノックされた。
「あ、帰って来たかな?」
 そう呟きながら玄関へと向かう。
 しかし扉の向こうに立っていたのは文ではなく、女主人の知人だった。

 途方も無く私は彷徨っていた。
 空を飛ぶわけでもなく、ただまるで亡者か何かにでもなったかのようにノロノロと歩きながら。
 真っ赤だったブラウスは酸素を浴びてすっかり黒くなってしまった。
 それはまるで自分の罪を象徴するかのようだった。
「○○さん・・・」
 愛しい人の名を呼ぶ。
 でもどんなにその名を呼ぼうとも、もう彼の前には出て行けない。
 人を殺めた事が初めてな訳ではない。
 だから私は殺人を犯した事について動揺しているんじゃない。
 彼に、怖れられるのが恐いのだ。
「○○さん・・・」
 今ならばはっきりと分かる。
 あの現場を見た時、私に甘く囁いてきたのは“妖怪である私”であり、凶行を止めようとした小さな声は“少女である私”だったのだと。
結局私は“妖怪”でしかなかったのだ。
「う・・・うぅぅううう・・・」
 どんなに口で立派な事を言っても、私は自分を律する事が出来ていなかったのだ。
 それが悔しくて、悲しくて、気が付けば私はまた涙を流していた。
「くっ、ぅうう・・・ぐすっ・・・・・・」
 一頻り涙を流した後、私は冷め切った思考のまま呟いた。
「もう、○○さんの所には戻れない・・・ 私には、彼の隣にいる資格なんて無い」
 でも何もしないで消えるつもりも毛頭無い。
 このまま黙って消えれば、きっと彼にだって迷惑が掛かる。
 せめて、自分が犯した罪は償わなくては。
 私は手の甲で滲んだ視界を拭い去って、翼を広げた。
 目指す場所は博霊神社。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!!」
 走る走る、ひたすら走る。
 目的地へ向かって一直線。
「はぁ・・・っは・・・はぁ・・・はぁ・・・!!」
 かつて経験の無い程に酷使された身体が悲鳴を上げるが、根性でそれらを捩じ伏せてなお走る。
「はぁ・・・はぁ・・・どうして・・・ どうしてなんだ、文っ!!」
 ついさっき聞いた話。
 その内容は文が人を殺したというものだった。
 被害者は香水屋の女主人。
 現場は彼女の家の玄関先で、そこには彼女の肉片一つ残っていなかったと言う。
 彼女の家は比較的里からも離れた所にあったので、事が起こっても気が付いた人間は少なかったのだろう。
 しかしなぜ文は彼女を殺したのだろうか。
 まさか、妖怪の本能に従って・・・
「違うっ! ・・・彼女はそんな事しない!!」
 浮かんできた考えを否定する。
 しかしそれ以外に動機が思いつかない。
 そもそも商品を持ってきてくれただけの女主人を殺す理由なんて、
「な・・・・・・ まさか!!」
 あの時俺は冗談とは言えども彼女に抱きつかれた。
 もしも、もしもあの現場を文が見てしまっていたら?
「っ!! ・・・・・・ちくしょう!」
 誤解されるに決まっているじゃないか。
 俺はますます走るスピードを上げた。
 喉から変な音が漏れてくるが、そんな事はどうでも良い。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・くっそぉ!!」
 聞くところによると、博霊の巫女が動き始めているらしい。
 彼女は妖怪退治の専門家だ。
 人里で悪さをする妖怪がいれば、退治しに行くに決まっている。
 しかも不幸な事に彼女は相当の腕利きらしい。
 このままでは遅かれ早かれ文が退治されてしまう。
 人を殺めた以上、最悪殺されてしまう可能性だってあるかも知れない。
「・・・間に合ってくれ!!」
 走る走る、ひたすら走る。
 目的地に向かって一直線に、俺は走り続ける。
 目指す場所は博霊神社。

 翼を軽く羽ばたかせて、私は境内に降り立ちました。
 いつの間にそんなに時間が過ぎたのか、気が付けば東の空はもう薄っすらと白み始めています。
「そっちから来てくれるなんて、探す手間が省けて助かるわ」
 境内の更に奥の方から、見慣れた服装の少女が歩いてきました。
「おはようございます、霊夢さん」
 小さく微笑んで、私は言いました。
「はぁ・・・ 全く、どうして人殺しなんてしたのかしら?」
 呆れた様な様子で霊夢さんが聞いてきます。
「そうですね・・・ ちょっと魔が差しちゃったみたいです」
 うん、表現的にはこれが一番しっくりきますね。
 別段空腹だから殺った訳ではないし。
「そう・・・」
 特に言及する事も無く、霊夢さんは納得してくれました。
 もしかしたら同じ女だから言いたい事が何となく伝わったのでしょうか。
「言っておくけど“彼女”は無罪よ?」
「ええ、分かっています」
 冷静になってみれば、彼女が無実である事は明白でした。
 思えばアレだってただの冗談だったのかも知れません。
 それに、彼は浮気なんてする様な人ではない。
「でも貴女は有罪なのよ」
 彼女の目には一切の感情がありませんでした。
 思えば、彼女が本当の意味で感情を露にした事って見た事がありませんでした。
 その瞬間を撮る事が出来ればきっと凄いスクープになったでしょうね。
「よって「待って下さい」 ・・・何かしら?」
 少々強引に割り込む。
 でもこればっかりはちゃんと自分の口で言わないといけませんね。
「私は人を殺めました。 だから・・・・・・」
 私は出来るだけ、穏やかに告げました。
「私を殺して下さい」
 シン、と境内が静まり返った。
 その厳かな雰囲気に木々すらもが音を立てるのを止めてしまったかのようでした。
「・・・本気なのね?」
 いつもはぼんやりとしているその双眸が、鋭く細められています。
「ええ、本気ですよ」
 でもなぜだかこちらは全く寂寥とした気分にはなれませんでした。
 一種の悟りの境地みたいなものに辿り着いてしまったのでしょうか。
 やけにクリアになった思考でそんな事を考えていると、
「・・・分かったわ」
 凛とした霊夢さんの声が耳に入りました。
 気が付けば彼女は既にスペルカードを構えていて準備万端のようです。
「『神霊』・・・」
 その宣言と共に同時に凄まじい量の霊気が集まってきているのが分かります。
 なるほど、これならば楽に逝けそうですね。
「覚悟は良いかしら?」
「彼に一つ伝言をお願いします」
 どうせなら笑顔で言おう。
「愛しています」
 きっと私は今まで生きてきた中で一番良い笑顔をしているでしょうね。
 出来ることならば、この笑顔も彼女に再現してもらいたいものです。
「・・・『夢想封印』」
 溢れんばかりの弾幕が視界を覆って、
「・・・・・・最期に会いたかったな」
 私の身体を貫きました。

 長い神社の階段を休み無しで駆け抜ける。
 身体の限界なんてとっくに来ていた。
 酷使しすぎた筋肉はもはや俺の命令が正しく伝わっていないのか滅茶苦茶な動き方をしているし、呼吸器に至っては能力の限界を超えたためかその意味を成していない。
 まるで無酸素状態でギリギリまで運動していたかのような疲労、苦痛が俺を苦しめていた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!」
 だが止まる訳にはいかない。
 ここで俺が立ち止まってしまえば、もう文に会う事が出来なくなる。
 何とか、博霊の巫女に事情を説明して“処断”だけは避けなければ。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!」
 生きている以上、いつかは別れの時だって来る。
 でもこんなのあんまりじゃないか。
 些細な誤解から彼女は人を殺めた。
 ならばその誤解を招いた俺だって立派な共犯だろう。
「はぁ・・・ぐ・・・はぁ・・・はぁ!!!」
 彼女一人に重荷を背負わせる事などさせはしない。
 償うのなら俺も揃って償おうじゃないか。
 なぜなら俺は・・・
「文の恋人、だもんな・・・」
 愛する人が罪を犯したのなら、その罪に自分が加担していたのなら。
 その罪は俺の罪でもある。
 不平等に、彼女だけを苦しませるなんて事は絶対にさせない。
「・・・! 見えた」
 階段の終わり。
 それはつまり目的地への到着を意味する。
 運が良ければまだ巫女は拠点であるここにいるかも知れない。
 もしもまだここにいるのであれば、俺は彼女の事を説き伏せるつもりだ。
 もっとも話を聞いてくれないのであれば、力ずくでも止めるつもりだが。
「間に合えよっ!!!」
 そして辿り着いた終焉。
 眼前に広がった神社の境内は真っ白な輝きで埋め尽くされていて、
「な!? 文!!!!」
 光の洪水の真ん中に、ずっと探し続けた少女の姿があった。
 待ち望んだ再会、否或いは最悪の形での再会。
 時は無常に流れていく。
眩い力の奔流は、俺を見て小さく微笑んだ文を飲み込んだ。
「あやーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 身体を貫く無数の弾幕。
 身体中を駆け抜ける激痛。
 そして、最期に見た最愛の人の泣き顔。
 意識が暗転して、感覚が麻痺して途切れた。
「・・・や ・・・きろよ、あやぁ!!」
 暗闇に響く声。
 ああ、この声は彼の声だ。
 怖くないんでしょうか、私は人殺しなんですよ?
 それに、全く・・・ 何でそんな涙声なんですか。
「・・・きて・・・れよ・・・・・・ 文!!!」
 しょうがない人だ。
「何ですか・・・○○さん。 耳元で・・・叫ばないで、下さいよ・・・・・・」
 薄っすらと開けた視界には、涙で顔をぐしゃぐしゃにした彼がいた。
「文・・・ どうして、なんだ・・・・・・」
 鼻声で絞り出す様な彼の声。
「えへへ・・・ 魔が・・・差しちゃいま、した」
 いつもの様に笑ったつもりでした。
「嘘だ・・・ お前は嘘を吐いているよ、文。 俺はお前がそんな単純な動機で人を殺すような奴じゃないのは知っているんだぞ」
 ああ、やっぱりお見通しなんですね。
 困ったな。
普段はあんなに鈍いのに、いざこういう場面だと勘が良いんだから。
「・・・嫉妬、ですよ」
 思い当たる節があったのか、彼は一層悲しそうな顔をした。
「あは・・・ 頭では分かってたんですよ? ○○さんは浮気なんて、しない人だって・・・・・」
 そっと、血塗れてしまった手を彼の頬に当てる。
「だって○○さんは、とても良い人ですから、ね・・・」
 ゆっくりと輪郭をなぞる様にして撫でる。
 彼もそっと自分の手を私の手に重ねてくれた。
「だから・・・ 今回の件は完全に私の責任です」
「違うっ!! あんな誤解を招くような事をした俺も同罪だ!」
 強い口調で否定されました。
 本当に、優しい人ですね。
「いえ、本当に悪いのは・・・自分の中にあった“獣性”を抑えられなかった私・・・なんですよ・・・・・・」
 ちょっとした揺らぎ。
 それによって生じた私の中の“獣性”。
 そいつはあの時感じた“嫉妬”を燃料にしてこの身体を突き動かし、遂には私に“妖怪としてのあるべき姿”をとらせていた。
 この本能を捩じ伏せられなかった私が、最も罪深いのだ。
「・・・ごめんなさい、私が“妖怪”でごめんなさい・・・・・・」
 せめて、もう少し私が“人間的”であったのなら、こんな事にはならなかったのだろう。
 でも・・・
「でも、本当に楽しかった・・・ 貴方と過ごした日々は、本当に幸せでした」
 胸にあるこの気持ちにはきっと偽りは無い。
 ふぅ、言いたい事を言えたからでしょうか、段々と眠くなってきました。
「文!? おい、文!!!」
 うるさいですよ、そう言おうとしても唇が動かない事に気付く。
「文・・・死ななでくれよ!! 俺にはお前が必要なんだっ!!!」
 嬉しいですね、最期までこんな事を言ってくれるなんて。
 私にはそんな事言ってもらえる資格なんて無いのに。
「罪ならば俺も背負うから・・・ だから・・・頼むよぉ・・・・・・!!!」
 止めてくださいよ、○○さん・・・
 そんなに言われたら、逝くのが辛いじゃないですかぁ・・・
「置いて逝かないでくれよぉ・・・・・・ なぁ、あやぁ・・・・・・」
 逝きたくないですよぉ・・・
 私だって、本当は逝きたくないんですよぉ・・・
 もっと・・・ もっと貴方と一緒に居たいんですよぉ・・・・・・
 でも、現実は残酷なんです。
 ほら、もう身体が冷たくなってきました。
 終焉が近づいてきているんですね。
 ・・・神様もう少しだけ時間を下さい。
 最期に、この言葉ぐらいは言わないと。
 遺言は直接言うのに限りますからね。
「○○さん」
 ああ、神様も最期にこの愚かな天狗に情けを下さるんですね。
 本当に、感謝、です。
「愛しています・・・」
 最愛の人よ、幸せな思い出をありがとう。


うpろだ331

───────────────────────────────────────────────────────────
(↑の救済編)


 私の人生は外からやって来た一人の人間の男性によって鮮やかに煌き、その果ての些細な誤解から崩壊へと転がっていきました。
 “嫉妬”は“狂気”を生み、それが私の中に眠っていた“獣性”を呼び覚ましたのです。
 醜い感情に囚われた私は、償いようの無い罪を犯しました。
 だから私は彼に迷惑を掛けたくない一心で、己の罪を清算するべく“妖怪退治屋”の手によって死のうと思いました。
 でも死の直前に溢れんばかりの彼の想いが、死んでしまったはずの“生への執着”を呼び覚まし、涙で濡れたその顔が悟ったはずの“死への恐怖”を呼び覚ましたのです。
 死にたくない もっと彼と一緒に居たい
 罪に塗れたこの身体には、もはや彼と共に在る資格なんて無いのかもしれません。
 それでも、私はまだ死にたくありませんでした。
 悲しい程に現実は無常に流れていくものです。
 叶わない願い。
 分かっていても、私は願わずにはいられませんでした。
 だって、私は彼の事を本当に愛していたのですから。

「ならば生きなさい。 罪ならば一緒に背負ってくれる人がいるでしょう?」

「・・・・・・う」
 意識が暗闇の底から浮上する。
 ゆっくりと、まだぼやけているけど徐々に視界が明瞭になってくる。
「え・・・? あ、ぐ・・・!!」
 起き上がろうとした途端、身体中に激痛が走って私は呻き声を上げた。
 何とか片手をついて上体を起こす。
「あれ・・・?」
 周囲を一通り見渡して気が付いた。
 此処は彼の家だ。
 何よりも・・・
「私・・・ 生きてる?」
 あの時、確かに霊夢さんの攻撃を直撃して私は死んだはずだ。
 まさか彼女が手加減をしたとでも言うのだろうか。
 いや、アレだけの霊力では加減しようにも出来ないだろう。
 ならば、なぜ?
「あ・・・や・・・・・・?」
 急に扉の開く音がしたのでそちらの方を見やると、そこには彼が立っていた。
「えっと・・・ おはようございます、○○さん」
 状況がよく飲み込めないので、とりあえず挨拶しておく事にした。
「あやっ!!」
「うわぷっ!」
 気が付けば私は抱き締められていた。
「あ、あぅ・・・ あ、あの○○さん?」
 近くに感じる彼の匂いと温もりが、何だかとても懐かしい。
「文・・・ 良かった・・・良かった・・・・・・」
 まるで私がここにいる事を確かめるかの様に、痛いぐらいに抱き寄せられる。
「○○さん・・・」
「何で・・・あんな事したんだよ・・・・・・」
 咎める様な彼の言葉。
 その言葉に、私は自分が犯した罪を思い出した。
「私は・・・人を殺してしまったんです・・・・・・ 悪い妖怪は、退治されるものですよ・・・」
「馬鹿!! それでも文には後悔する気持ちがあったじゃないか!!」
「!!」
 初めて聞く彼の怒声。
 でもその表情は怒りよりも悲しみの方が色濃かった。
「死なんかじゃ何も償えない! それはただの逃避でしかないんだ!!」
 そうだ、私は逃げていたのかもしれない。
 自分で犯してしまった罪から。
何よりも現実から。
「何よりも、お前は置いて逝かれる俺の気持ちを考えていなかった!!」
「っ!」
 脳裏に過ぎる最期の瞬間。
 その最期の風景に写っていた彼は泣いていた。
 私が、泣かせてしまったのだ。
「罪ならば俺も一緒に背負う! だから、頼むからもうあんな事はしないでくれ・・・!!」
 目の前の彼が泣いている。
 ボロボロと大粒の涙を流している。
 その表情が最期の瞬間に見た表情とダブった。
「ごめん・・・なさい」
 彼の想いがじんわりと心に染み渡っていく。
 そして私は自分がとんでもない事をやらかしたのだ、と言う事に気が付いた。
 危うく、私は身勝手な贖罪で全てを失うところだったのだ。
「ごめんなさいぃ・・・・・・・・・」
 気が付けば私もまた涙を流していた。
 生きているという喜びと酷い事をしてしまったという悲しみを、暖かい透明な雫に中に乗せて。

 彼曰く、私はあの後永遠亭に運び込まれ集中治療を受けたのだそうです。
 それでも処置には限界があって完全に立ち直す事は出来なかったらしく、後は私の体力次第となったらしい。
 幸い私は妖怪ですから体力は申し分が無く、割と順調に回復していったとの事でした。
 ただ身体は殆ど完治に向かっているにも関わらず意識が戻る気配が全く無く、昏睡状態がおよそ4日間続いたのだそうです。
「随分と泣かれてしまいましたよ」
「ふぅん」
 隣に座った霊夢さんは、特に興味も無さそうに答えました。
「ま、そりゃあ当然だろうな」
 同じように縁側に腰掛けた魔理沙さんがお団子を口にしながら言いました。
 一頻りお団子を咀嚼してから彼女は続けました。
「妖怪はどうだか知らないが、普通は大切な奴が自殺まがいな事をすりゃ悲しむぜ?」
 自殺。
 その言葉が胸に刺ささります。
「そうですね・・・」
 私だって、彼がそんな事をすれば悲しいです。
 いや、私は彼にそんな事など絶対させないでしょうけど。
 思えば本当に自分勝手な事をしたものですね。
 つくづく自分が嫌になります。
「ま、これに懲りたら二度と死のうとするなよ? あいつお前が目を覚ますまで、ほぼ徹夜で看病していたらしいからな」
「え・・・?」
 それは初耳でした。
 でも良く考えれば、涙に濡れた彼の顔はどこかやつれていたような気がします。
「○○さん・・・」
「ったく愛されてるなー!! 私もアイツみたいな彼氏が欲しいもんだぜ!」
「魔理沙の愛情表現は歪んでるから、当分は無理そうね」
「失敬な、私はだって恋する乙女だぜ?」
 外野が何やら騒いでいますが、私の耳にはそんなやりとりは一切入ってきませんでした。
 きっと今も自宅でのんびりと過ごしているであろう彼の事が、愛おしく思えてしょうがなかったのです。
 軽い音を響かせて、私は漆黒の翼を広げました。
「私そろそろ行きますね?」
「翼、平気なの?」
 霊夢さんの言う通り、私の翼は完全には治癒していません。
 “飛ぶ”と言う行為自体に支障は無いのですが、幻想郷最速と言われていたあの頃の様なスピードは出せないのです。
「ああ、ご心配なく。 もう随分良くなったので」
 完治の見込みは立っていません。
 最悪、この翼は一生不完全なままになる可能性も十分に考えられるのです。
 彼女が珍しく他人の心配なんてしているのは、そう言った理由もあるからでしょうね。
「それに」
 私はあまり気にしてなんていないのです。
 何せ・・・
「今の私には、翼の代わりになってくる人がいますから」

 看病の疲れが祟ったのか、俺はここ数日体調が優れなかった。
 まぁ、今はしっかりと休養を取ったので殆ど全快していて問題はないのだが。
「ふぅ・・・」
 淹れ立てのコーヒーに口をつけながら、色々と思い返す。
 自分が妖怪に恋をした事。
 自分の不注意から誤解を招き、恋人に罪を負わせてしまった事。
 恋人が罪を償う為に進んで殺されに行った事。
 そして、死に掛けていた恋人がようやく目を覚ました事。
「俺がしっかりしていれば、或いは・・・」
 俺がもっとしっかりとしていれば彼女は誤解などしなかっただろう。
 罪を犯す事も無く、死の淵に立つ事も無かっただろう。
「俺がしっかりしなくちゃな」
 二度とこんな悲劇は繰り返さない。
 俺は強く心に誓った。
「ただいまです、○○さん」
 ふいにドアを開けて、俺の恋人が帰ってきた。
「おかえり、文」
 俺の笑みに、彼女も応えて微笑んでくれる。
「準備は出来ていますか?」
「ああ、文が帰ってくるのを待っていた所だよ」
「そうですか」
 この笑顔だけは失わせはしない。
 罪を負った以上、それを背負う俺達には幾多の困難が待っているのだろう。
 だがそれも二人でならば越えて行けるはずだ。
 俺如きが折れてしまった彼女の翼の代わりになれるかは分からない。
 それでもこの身体が朽ちるまで、俺は精一杯彼女の翼を支えよう。
「では行きましょうか」
「ああ、そうだね」
 今日は二人が付き合い始めてから2年目の記念日。
 同時に俺達が罪を負った日だった。

 突き抜けるような青色の空にはちぎれ雲が所々に浮かび、白い太陽が燦々と照りつけている。
 優しい風が肌に心地良い。
 私達は村外れにある小さな墓地に立っていました。
 数ある墓の中の一つ。
 比較的こじんまりしたその墓の前で、私達は手を合わせていました。
 この墓は私の罪の証。
 私が殺めてしまった女性の墓。
「お久しぶり・・・ですね」
 彼女の葬儀に私は参加しませんでした。
 元々人間の葬儀に妖怪が参列する事自体が忌避される上、私は彼女を殺した張本人なのですから当然の事とも言えます。
 なお、その葬儀は非常に手早く済んだそうです。
 ・・・当然ですよね。
 何せ現場に残ったのは骨と皮と毛髪ぐらいだったのですから。
 こうしてここに来るだけでも、途方も無い自責の念で胸が一杯なります。
「ごめんなさい、で済むとは思っていません」
 赦される罪なんて数える程しかありません。
 如何に誰かが赦そうとも、罪を犯した過去は消えないのですから。
「でも死んで償うつもりもありません」
 それは逃避だ。
 そう彼がそう教えてくれました。
 「死」と言う状態に至る事は第三者から見れば贖罪に見えるかも知れない。
 しかしそんな事で死者は蘇えりませんし、何よりも死者は何も語りません。
 要は私がしようとした事はただの自己満足でしかなかったのです。
「だから、生きます。 貴女の命を奪ったと言う罪を背負って、この身体が朽ち果てるまで生き続けます」
 ふいに彼の腕が私の肩に置かれました。
 ああ、いけないいけない。
「・・・訂正です。 貴女の命を奪ったと言う罪を“彼と共に”背負って生きて続けます」
 言い切ってから、彼の方を見やると満足そうな微笑みが返ってきました。
 そう、これがきっと正しい償い方なのです。
 もっとも、罪人が“幸せ”を味わって良いのかは一種の命題なのですが。
 それでもきっと私達は互いの顔を見る度に“彼女”の事を思い出し続けるでしょう。
 私達は一生涯、幸せの中に罪を見つめながら生きていくのです。
「だから、ごめんなさい・・・ 本当に・・・ごめんなざい・・・・・・」
 やっぱり駄目ですね、私は。
 赦されないと分かっていても、言葉と涙が抑え切れません。
 私は思わず土下座をしていました。
 そうでもしないと気が狂ってしまいそうだったのです。
「よせ、文」
 耳に入った彼の声。
 次いで感じる浮遊感。
 彼が私の腕を掴んで立ち上がらせていました。
「・・・約束しただろう」
「っく・・・うぅ・・・ぐすっ・・・・・・」
 そうだ、ここに来る時に二人で決めたのだった。
 例えどんなに辛くても決して涙は流さない、と。
 私は急いで涙を拭い去り、乱れた心を落ち着けました。
「・・・怨んでくれても構いません」
 小さな墓場に彼の声が凛と響きました。
「まだ未来のある貴女の命を奪ったのは俺達の罪です。 その罪は償えないのは分かっています」
 真っ直ぐに、もうここにはいない“彼女”に告げる彼の横顔は男の顔でした。
「だから、俺達は貴女の分まで幸せになります。 例えそれが自己満足と言われようとも」
 私の肩をしっかりと抱いて。
 彼ははっきりと宣言しました。
「俺は文と生きます。 彼女と共に幸せになります」
「○○さん・・・ それって・・・・・・」
 もしかして、いやもしかしなくても・・・
「本当はもっと雰囲気の良い場所で言いたかったんだけどね」
 申し訳無さそうな彼の顔。
 懐から取り出された小さな箱。
「罪の象徴の前でのプロポーズ。 “彼女”にも申し訳無いけど・・・」
 バツが悪そうな笑顔。
 何て人だ。
 こんな状況で、こんな場所でぷ、プロポーズしてくるなんて!!
 本当ならば怒りますよ?
 幾ら恋人だからって、こんな所で言ってくるなんて許しませんよ?
 でも・・・
「その・・・ 受けてくれるか?」
 そんな真剣な眼差しで言われたら、
「はい、喜んで・・・」
 断れる訳無いじゃないですか・・・・・・



 斯くて片翼は双翼へとなりにけり。





A ト書き
 ヤンデレは本来の範疇ではありません。
そーいう訳で今回この様な作品を書いた次第です。
墓場で告白とか前代未聞ですね。
馬鹿ですね自分。
馬鹿ですか、そうですか、スイマセンorz
色々と文章も乱雑かもしれません。
本当にスイマセンorz
後、みなさん某星屑ネタを知り過ぎていて笑いました。
実際書いていた時に聴いていたのがあれだったんです。
影響されやすいね、自分。
では今回はこの辺で失礼致します。
あと下にはちょっとしたおまけがあります。
グレイゾーンなので嫌いな人はご注意を。
















































~おまけ~

 とは言っても式は即日で挙げられるものではありません。
 何よりも、まだ私達が犯してしまった真新しい罪を前にして挙式は躊躇われます。
 そういう訳で、今しばらくは「現状維持」と言うのが私達共通の見解でした。
 なお彼はその時、
「俺は文と一緒にいれれば幸せだから」
 などと恥ずかしげも無く言ってくれました。
 ちなみに今は夕食を終えて、一緒に彼の部屋で寛いでいる所です。
 本当なら私はこの時間帯に新聞作成に着手している時間なのですが、先程の事もあって身が入らなかったので今日は断念する事にしました。
 彼は相変わらず読書(外界の物だそうです)を楽しんでいます。
「何を読んでいるんですか?」
 何となく興味が湧いた私はそう言って彼の元へ歩み寄りました。
「ん? ああ、ちょっとした小説だよ」
「へぇ、見せて下さいよ」
 彼の椅子の後ろから覗き込むと、何やら小難しい文章が書かれていました。
 比較的幻想郷でも使われている文字が多いのですが、時折意味不明な単語が出てくる辺りはやはり外界の書物だなと思えます。
「そう言えば○○さんて、こんな本ばっかり読んでますよね。 他の本は読まないんですか?」
「ジャンルの事? いや、大体こんなのばっかりだと思うけど」
「え」
 そう言えば彼の家で雑誌を見かけた事は殆ど無い。
 おまけに読んでいる本はこんな堅い内容の物ばっかり。
 だとしたら、もしかして彼って。
「あ、貴方本当に健康な青年なんですか・・・?」
「え、どう見ても健康だけど?」
「だって・・・その、年頃の男性と言えば・・・・・・」
「・・・と言えば?」
 繰り返して首を傾げてくる。
 ああ、何で普段はこんなに鈍いんですかね!
 女の子にこんな言葉言わせないでもらいたいものです!!
 で、でも言わないと理解してくれないでしょうし・・・
「そ、その・・・ 春画・・・・・・とか・・・見るでしょう?」
 あうう、言ってしまった。
 我ながら恥ずかしい。
 きっと今、私顔面真っ赤になっていますよ。
「春画って・・・」
 復唱してから初めて言葉の意味を理解したのか、彼の顔が真っ赤になりました。
「そ、そそそ、そんなもの見るわけないだろっ!!」
 よほど動揺しているのか呂律が偉い事になっています。
「だだ、だ、第一幻想郷にはそんなもの売っていないだろ!」
 普段の大人びた感じが一転、まるで子供の様に慌てだす彼。
 そのギャップが新鮮で何だが可愛らしいです。
「・・・○○さん顔真っ赤です」
「ううう、うるさいなっ!」
 ちょっと指摘してみると、相変わらずの調子で返してくる。
 本当可愛いですね。
 そんな彼がとても愛おしく思えて、私はそっと彼の事を抱きしめました。
「あ、文!?」
「ねぇ、○○さん・・・・・・」
 一瞬、ビクッと彼の身体が硬直しましたが構わずに彼の頭に頬を寄せます。
「本ばっかり構うなんて酷いですよ」
 誘うように唇を寄せる。
 いきなりの事に驚いたようですが、やがて彼も応じてくれました。
 程無くして互いに息が上がり、頬が紅潮してきた頃に私は言いました。

「もっと、私を見て下さい」

 見せるからには全てを。
 包み隠す事無く、ありのままで。
 翼を小さく羽ばたかせて、愛しい貴方を抱く。

「よく見えるよ」

「本当ですか?」

 秘める様に囁きあう。
 触れ合った肌の温もりが心地良い。

「・・・ならば確認して下さい」

「ん、分かった」

 絆と共に、現在(イマ)を確かめ合う。

「んっ・・・・・・ もう、離しませんよ」

「それはこっちの台詞だ」

 明日へ向かって羽ばたく為に。


9スレ目>>148

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気温がそれ程高くない午前中は趣味に時間を費やすには最適な時間帯だと言える。
まあ趣味であるなら何時だってできる、というのも事実なのだけど。
「実にいい天気だ」
やってきたのは近くの森。木々によって丁度いい具合に日陰が生み出されている。
眩しくもなく暗すぎるわけでもない、昼寝をするには最適の場所だ。明るいうちは妖怪もいないしな。
だが今日は寝るために来たのではない。ちゃんと別の目的がある。
一本の木の根元に座り、傍らの本を静かに開いた。


読み始めてから十分。何処からか鳥の羽音が聞こえ、同時に足に何か重さを感じた。
視線を向けると非常に見覚えのある鴉が足に乗っていた。こいつがここにいるということは――
「何を読んでいるんですか?」
「本だな」
「いやそうではなくてですね」
声がした方に視線を移せば、こちらを覗きこんでいる天狗の姿。
「ご自宅にいらっしゃらないから探しましたよ。……で、何を読んでいるんですか?」
「森近さんから借りた小説だ。昨日から読み始めてな」
あの人が薦めてくる本だからどんな哲学書かと思ったが、これが中々面白い。
物語中には哲学的な部分があるが、読んでいるうちに段々と惹きこまれていくような文体になっている。
問題は保存状況が悪かったのか少し汚れて字が読みにくいことぐらいか。
「成程、確かにここは読書するにはいい場所ですね」
「それもあるが……やたらと落ち着きの無い妖怪が押しかけてくるんで家だと静かに読める保障が無くてな」
「はぁ、世の中には迷惑な妖怪も居たもんですね」
「お前のことなんだが」
その本気で判ってない顔はやめてほしい。なんか心がシクシクするから。

「それでは私も少し……」
そう呟いて文は俺の隣にちょこんと座る。
何をするのかと思えば、懐から文花帖を取り出し何やら書き込み始めた。
「こんな所でネタの整理か? 自分の家でやった方が効率がいいだろうに」
「そのために○○さんの家に寄ったんですけど……こちらでも特に問題ありませんので。
 ある程度ネタが揃いまして、そろそろ次の新聞が発行できますから楽しみにしててくださいね」
「まあ期待ぐらいはしとくさ」
そう軽く言っただけだが、それでも文は嬉しそうに笑った。
この程度の台詞で喜んでくれるのなら、もう少し言ってやってもいいかなと、そう思った。


主人公がメイド好きの片鱗を見せ始めたあたりまで読んだところで、隣に視線を向ける。
文は文花帖を開いたまま目をウトウトさせていた。体も不規則に揺れている。
「暖かいですねぇ……何だか寝ちゃいそうです」
「眠たければ寝ればいいじゃないか。ここは昼寝をするにも最適だぞ」
「いえいえそういうわけには……また○○さんに寝顔見られるのも癪ですし……」
その台詞に何か言おうとして、やめた。
俺の隣に文がいるのは最早日常のようなものだし、今更何か言うのも面倒だ。
それに今は何か言うべき相手が他にいる。

「そろそろ降りてくれないか? いい加減暑いんだが……」
何故か俺の頭に乗っている文の鴉に呼び掛けるも、全く聞く耳を持とうとしない。
それどころか、早く次のページを、とばかりに額を突いてくる。
文学好きな鴉とは妙な奴も居たもんだ。文の使い魔をやっている時点で物好き確定みたいなものだが。
「何だか失礼なことを考えられた気がします……」
「完全に気のせいだな。あくまで間接的に――だから突くなって!」
当然のことだが突かれると痛い。大体そんなことせずとも俺だって続きは気になる。
眠気と戦っている文のことは気にせず次のページを開いた。


暫く本を読み進め、気付けば隣から寝息が聞こえ始めていた。
「……結局寝てるんじゃねぇか」
気持ちよさそうな寝息をたてている文に思わず苦笑してしまう。
寝顔を見せたくないと言いながらこれでは、いったい何がしたいのやら。
「まあそんなことはどうでもいいか」
本を閉じて傍らに置く。今は文の幸せそうな寝顔を見ていたほうが暇が潰せそうだ。
頭上の鴉が何か騒いだ気がするが、無視無視。

本当に安らかに寝ている。まるでこちらにまで眠気が移ってきそうな程に。
妖怪なのだから俺より年上だろうけど、こうして見ている限りは見た目も行動も普通の少女にしか見えない。
……いや普通ではないか。
とにかく、こう無防備に寝られると何かしたくなってくるというか。勿論性的じゃない意味で。
「…………」
前は髪を撫でてみたので、今回は頬にしておこう。
――むにゅ
「柔らかいな……」
「むにゃ……むぅ」
おっと危ない、せめて起こさないようにしないとな。
ここで起きられたらまた騒ぐだろうし、安眠妨害など俺の良心が痛む。
「よっと……痛!」
更に手を伸ばしたところで鴉に手を突かれた。そういえば居たんだったな、少し忘れてた。
流石に主人に悪戯されるのは嫌なようだな。使い魔だから当然か。
「悪い悪い。もうやめておくよ」
そう謝りを述べると、鴉は傍らの本のカバーを指差すかのように突いた。
どうやら文のことではなく本の続きが気になるだけのようだった。なんて鴉だ。
「まっ、しょうがないか」
少し名残惜しいが鴉もうるさいし、文の寝顔はまたの機会にしておくか。
最後に文の頭を一撫でしてから読書を再開した。


昼近くともなると流石に気温が高くなってくる。そろそろ戻るのが一番だな。
「文、起きろ」
放っておくのもアレなので、顔を覗き込みつつ肩を揺する。と、
「ふぁぁ…………ふぁっ!!?」
――ゴッ!!
突如飛び起きた文の頭突きが見事に顎にヒットした。
……言っておくがかなり痛い。文も頭を押さえてるし。
「こんの石頭が……いきなり起きるんじゃねぇ……!」
「そ、そう言われましても、というか何で○○さんが私の上に……
 はっ、まさか私が寝ている間に何か変なことを……!」
「馬鹿言え、誰がお前の無い胸に手を出すか」
「失礼な! これでも霊夢さんや魔理沙さんよりはあるんですよ!?」
お前のほうがよっぽど失礼だ。確かにあの二人に胸は無いが、あの年でそんなにあっても怖いだろうに。

立ち上がってからも文は何処か苦そうな表情を浮かべてばかりだ。
「それにまたもや寝顔を見られてしまうなんて……」
「だったら見られないような努力をしろ。隣で寝るなんてもっての外だ。
 そもそも違う場所に移ってから寝ればよかったろうに、何で移動しなかったんだ?」
「え? そ、それは○○さんがいるからなんですけど……」
何で顔を背けながら言うんだ。というかその理由おかしくないか?
「相変わらず理由から矛盾してるな。とりあえずその破綻理論を――何怒ってるんだ?」
「知りません! もういいです!」
急に怒り出されても理由が判らないのだからこちらは疑問符を浮かべるしかない。
まあ文が変なのはいつものことだし、話を続けよう。
「それでだ、まずお前は早寝から始めるべきだと思うぞ。
 夜中までネタを探すのもいいが、睡眠はちゃんと取っておかなきゃな」
「何を言いますか。睡眠時間を惜しんでいてはスクープは手に入らないのですよ」
「その記者根性は素晴らしいと思うが……肌荒れるぞ」
「それは嫌ですね……」
本当に嫌そうな顔を浮かべる文。傍若無人な天狗もやはり少女ということか。
横を歩く文の頭を撫でるように叩き、

「折角綺麗な肌してるんだ。少しは大事にしろよ」
「え……」
「なに立ち止まってるんだ。置いてくぞ」

足を止めた文を無視して家路を進む。と、後ろから文が慌てて追ってきた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 何でいつもさり気ない風にしか褒めてくれないんですか!」
「俺は正面から褒めるのは苦手なんだ」
「……つまり本音だと思っていいんですか? お世辞ではなく?」
「お前の好きなように取ればいい」
俺の答えが曖昧で適当に聞こえたか、文は怒りの目をして頬を膨らました。
そういうところが可愛いんだって、勿論口には出してやらない。
「大体普段の○○さんは私に冷たすぎます。もっと優しく配慮してくれてもいいと思うんですけど!」
「ほぼ毎日飯を奢ってやってるんだから十分気にかけてると思うんだが。
 お前の方こそ積極的に過ぎるぞ。少しは迷惑とか考えて自重してくれ」
「だって○○さん、それぐらいしないと反応も返してくれないじゃないですか!
 前に胸当てたときも焦ってすらくれなかったし!」
「そんなこと期待してたのか……。さっきも言ったがお前の無い胸に――」
「また無い胸って言った! これでも――」
こんな調子で家に着くまで文との口論は続いた。
つっかかってくる文が面白くてからかってたなんて、とてもじゃないが言えないよなぁ。

うpろだ385

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「こんにちは~、またご飯を頂きに……あれ、これからお出掛けですか?」
「おお文、丁度いいところに来た。ちょっと一緒に出掛けないか?」
「ほ、ほんとですか!? ええ勿論、○○さんのお誘いなら何処へでも!」
「そうかそうか、それじゃ行くか――――山に」
「……はい?」










妖怪の山へと通じる道は、紅い絨毯を敷き詰めたかのごとく紅葉が降り積もっていた。
地面を踏みしめる度に足の裏に柔らかい感覚が伝わってくる。幻想郷はすっかり秋模様となっていた。

「あ~あ、遂に○○さんから誘ってもらえたと思ったら行くところがここだとは……」
そんな季節感を楽しみながら、のんびり歩き続けること幾十分。
漸く山の入り口にまで来たところで、文は残念そうに愚痴を漏らした。
「こっちから誘ったことに違いは無いだろう、文句言うな」
「言いますよ! しかも用事があって来たんじゃないですか、慧音さんの!」
「ああ……まぁそうだな」
流石に事実を言われるとばつが悪い。傍らに提げている手桶も重く感じるというものだ。

昨日里に出掛けたときのことだ。
いつも通り食料の買出しをしていたところ、丁度通りかかった慧音さんに呼び止められたのだ。
そこで、妖怪の山にある池から水を汲んできてほしい、と頼まれたのだ。
普段から受けている恩を少しでも返すにはいい機会だ、ということで勿論引き受けた。
慧音さんは『頼んでおいて何だが、妖怪には注意するようにな。無理はしないように』と心配していたが、
文を連れて行くから問題なし、と言ったら安心したような様子だった。
ただ何処となく微笑ましそうな笑顔だったのが気になるが、まぁ単なる気のせいだろう。

「あの人も色々と忙しくて手が回らないみたいだからな。引き受けたら喜んでたよ。
 実際里の人間より妖怪慣れしてるし、お前という当ても居るしな」
「うーん、それでも慧音さんが人間に危険なことを頼むっていうのが信じがたいのですが……
 この際○○さんを指名した理由は気にしないでおきます。それより目的の方ですよ。
 大蝦蟇さんの池の水ってことは、神事でもするんでしょうか?」
「慧音さんが言うには……収穫祭だったな、確か」
人里はその準備のためにいつもより活気に満ちていて、余り里に出掛けない俺には新鮮に感じられた。
慧音さんもその手伝いで八方を飛び回ってるらしい。誰かに頼られる立場というのも大変だ。

「まあ何に使うのかはどうでもいいんだ。頼まれたことを達成するということには変わりないんだし。
 そんなことよりもだ……文、いい加減離れてくれないか?」
左手に居る――間違えた、俺の左手に右手を組ませている文に問いかける。
反対の手に持っている手桶と相まって、歩きづらいことこの上ない。ここまで来るまで何も言わなかったのはなんとなくだ。
「嫌です。期待したのに肩透かしだったんですからこれぐらい我慢してください」
「はいはい……」
それ以上何か言うことを早々に諦めて溜息をついた。
事前了承を得ていなかった俺が悪いわけで、今日ばかりは仕方が無いが、文の好きにさせるしかない。
唯一の救いは文がどこか嬉しそうにしているところか。怒っているよりもよっぽどマシだ。
そんなこんなで歩くうちに、件の池が見え始めた。



池の周囲は茂った樹木によって薄暗い。木の間から差す光だけが、この周辺を微かに照らしている。
この辺りは余り秋の様子を感じられない。とはいえ、遠くから運ばれてくる木の葉はほんのりと紅い。
木漏れ日の中に微かに舞い散る紅葉は、辺り一面の紅葉、とは一味違った風情が感じられた。

「こういう雰囲気も悪くないな。とりあえず……社はどこだ?」
「それならあそこにありますよ」
文が指差した先に見える社に向かう。物事には順序があるように、場所によってはそこでの作法というものもある。
「確かお供えをするのが慣例だったよな。供え物が消えるということはちゃんと神様が祀られてるんだろうし」
「この前椛さん達がこっそり取っていくのを見ましたけどね」
「それは見なかった振りをしてやれ」
その椛というのが誰かは知らないが、天狗で山の入り口近くにまで来るということは白狼天狗だろう。
警備担当の天狗であるから一番注意すべきなのだが、それも文が居れば襲われる心配はない。ありがたい話だ。
「社と大蝦蟇さんへのお供えは別ですよ」
「判ってるさ」
答えつつ懐から、香霖堂で予め買っておいた紅白饅頭を取り出して供える。
一応手を合わせて拝んでいると、横目に文も一緒に手を合わせているのが見えた。
俺への礼節は全くわきまえないが、流石に神への礼節はわきまえているらしい。
いや、実際に神が存在しているこの幻想郷では当然のことなのかもしれない。妖怪のほうが人間より信仰心があるとまで言われてるし。
とにかく神が祀られている場所では参拝する。それだけで良く、堅苦しく考える必要は無いのだ。
博麗神社の神? 敬う以前に居るのか神様……

「さてと、後は水汲んで帰るだけ……む?」
隣から服を引っ張られる感覚に視線を移すと、文がこちらを上目遣いで見つめていた。
「……なんだ」
「折角来たんですから少し休んでいきません? ○○さんも疲れてるみたいですし」
「了解した……てかもう座ってんな」
見れば文は既に池の岸近くにまで移動していた。返事を聞く前に座ってしまっていれば世話が無い。
だが正直足が疲れていたので内心では感謝を、表情には苦笑を浮かべつつその隣に座った。
こういう気遣いが出来るところだけを見れば普通に良い女だと思う。他の点はまるでアレだが。



普段と違う場所だからといって何か特別なことを話すわけではない。俺たちには似合わないからな。
文が喋って俺が聞く。その基本姿勢を崩すことなく話すのは、ごく最近起こったばかりのことだ。
特別といえば特別だが、この幻想郷ではある意味起こるのが当然かもしれない話。

「……というわけで、霊夢さんにコテンパンにされたわけですよ。手加減はしたんですけどね。
 まぁ本気で戦ったとして、あの方に勝てたかどうかは判りませんけど」
「あの巫女が相手なら仕方ないだろ。しかし山の上に神社か……」
つい先日、幻想郷で言うところの所謂『異変』というやつがあったらしい。
掻い摘んで説明すると、外から引っ越してきた神様が巫女とドンパチやりました。以上、説明終了。
それにしても神社と湖ごと引越しとは。流石は神様、やる事為す事スケールが違う。
「それでまぁ山はその神様と仲良くすることにしまして、連日のように宴会を行ってますよ。
 神奈子さんにしても諏訪子さんにしてもいい呑みっぷりでしてねぇ。早苗さんは余り呑んではいませんけど。
 萃香さん程ではありませんが、呑んでて楽しい方達ですね。○○さんも今度来てみます?」
「心の底から遠慮する。想像しただけで酒臭くてたまらん」
「それじゃあ博麗神社の方ならどうでしょう」
「行かねえって。俺が下戸だってことぐらい知ってるだろ」
幻想郷の実力者が集まる宴会とくれば、その場の酒臭さは想像するに難くない。
つまり下戸にとっては居るだけでも辛いのだ。文に誘われても宴会に出ない理由の一つはこれだ。
「○○さんはもう少し交友関係を広げたほうがいいと思いますよ?
 折角楽しい方々が沢山集まってくるんですから、来ないのは損ですよ」
「俺みたいなただの人間が居ても他の奴らは面白く無いだろ。芸の一つも、取り柄も無いしな」
「やっぱり駄目ですか……」
その文の言葉に何か違和感を感じた。声のトーンが少し落ちたような……気のせいか。
「…………あの」
「どうした?」

「私の頼みだからでは、駄目なんでしょうか?」
「…………」
「一緒に呑めなくてもいいんです。隣に居てくれるだけでも嬉しいのですが……」
「……悪い」

真摯な問いかけに対して非常に答えづらかったが、それでも否定の言葉を告げた。
肯定したら強引に連れて行かれるかも、とかそんな心配じゃない。単純に俺の気持ちの問題だ。
文はこう言ってくれているが、本当に嬉しいこととは酒を酌み交わすことなのだ。
酒一杯でダウンする俺を気遣って妥協しているのだろうが、だからこそ俺は自分自身に腹が立つ。
共に酒を呑む、それすら出来ずに彼女を喜ばせることが出来ない。そんな自分が許せない。
こんな心境で一緒に宴会に行っても文は楽しくないだろうし、下手したら逆効果さえありえる。
自分なりの深謀遠慮の結果なのだ。我ながら不甲斐ないと自嘲する他無いが。
「ああ、そんなに気にしなくていいんですよ。訊いてみただけですから」
文はまるで訊く前から判っていた、というような表情だった。……申し訳ないな。



場の空気が重くなったことを直に感じる。周囲の薄暗さのせいで余計にそう感じるのかもしれない。
文は先程からずっと池の水面を眺めている。心此処に在らず、といった面持ちだ。
勿論俺だってこのままでいいとは思っていない。積極的になるのは自分らしくないが、そんなことを気にしている場合でもない。
意を決して横になっていた体を起こし、
「文」
「…………え……きゃっ!」
文の体を抱き寄せ、体の前で包み込むように抱いてやる。
文を背中から抱いている体勢だからその顔を窺うことは出来ない。だが体の硬直具合から相当驚いていることが判る。
こういう時にはお互い顔が見えないぐらいが丁度いいのだ。見てしまったら何を言うべきか判らなくなるから。
「いいか、一度しか言わないから良く聞け」
「…………」
まだ驚きっぱなしか。だがずっとこの体勢でいるのは俺が恥ずかしい。
だから、ひと思いに言ってしまおう。

「俺はお前が居てくれれば、それで十分だ」

「……あ……えっと…………」
「お前はさっき言ったよな。俺が隣に居るだけでいいって。
 ……俺も同じだ。お前が居てくれればそれでいい」
別に他の誰かと関わりたくないというわけではない。ただ、文が居る生活で満ち足りているだけだ。
我唯足るを知るではないが、満足してしまっているのだから別のことを望もうとは思わない。
望むことは、文が笑顔でいるかどうかだ。
「俺はお前と一緒に居れればいいし、お前も同じように感じてくれていたことが判って嬉しい。
 だからこそ、例外的に楽しくなくなるだろうその場所だけは行きたくないんだ」
我ながら酷い言い草だ。再び自嘲気味になりそうなのを抑え、話を続ける。
「だからさ、宴会だけは勘弁してくれ。それ以外の場所なら、いくらでも一緒に居てやるから」
これが俺の精一杯だ。これ以上言うことは何も無い。
文は黙ったままだったが、暫く経って、
「……判りました。だけど本当にずっと隣に居てもらいますよ?」
「構わんさ。男に二言は無い」
「そうですか……それでは私からも言いましょう。
 私も○○さんの隣にずっと居てあげます。女にだって二言は無いんですよ」
「……ありがとうな」
それだけ言い終えてから、声を出さずに笑った。
顔こそ見えないけれども、文も同じように笑っている。そんな気がした。



さっきまでの重い空気が消え去り、元の神秘的な雰囲気が戻ってきた。
だけど俺たちの周囲には少し違った空気が流れているような気がする。別に桃色ってわけでもないのだが。
そろそろ体を離そうとしたところで、文がこちらに寄りかかるように動いてきた。
「おいおい体重をかけてくるな。バランス崩すだろうが」
その言葉を気にすることなく、文は嬉しそうに笑う。
「えへへ、○○さんに告白されちゃいました~」
「俺は告白したつもりは無いぞ? するにしてもさっきまでは雰囲気が悪かっただろうが」
「ある意味雰囲気が出てた気もしますけどね。でもずっと一緒に居るっていうのは告白みたいなものだと思うんですけど」
「まあそうかもな。それよりもまずは離れ……っておい」
離れようとすると、逆に文は体を寄せてくる。何のつもりだこいつは?
「ずっと隣に居てくれるって言ったじゃないですか。離れちゃ駄目です」
「くっつき過ぎもどうかと思うぞ」
「宴会には行かないって言ったんですから、少しは私のしたいことを聞いてくれたっていいじゃないですか。男に二言は無いんでしょう?」
「命令権まで認めたつもりはないんだが……まあいいや。で、何をしてほしいんだ?」
「そうですね、ではまずは……もう少しの間この体勢で居させてください」
「了解した」
寄りかかってくる文を支え、同時に顔を覗き込む。安らかな笑顔がそこにはあった。
一頻り見つめあってから視線を外す。と、何処からか法螺貝の音が聞こえてきた。人里からか、それとも天狗の招集か。
そういえば慧音さんの頼まれごとで来たんだっけ。すっかり忘れかけていた。
だがまあ急ぎの用じゃないわけで、少し遅れたとしても問題なし。それよりも目の前の女が大事だ。
これから文と共に過ごしていく時間に思いを馳せながら、澄み渡る池の水面を眺め続けていた。

うpろだ443

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○○「遅いなぁ……文のやつ」
文「―――!」
ギューン
文「はぁはぁ……すいません!遅くなって……!」」
○○「構わないよ。それじゃ行こうか」
文「はい!」
○○「おや……今日も何か取材中だったのかな?」
文「あ、こ、このカメラはですね……その……」
○○「なんだい?」
文「あの……貴方と撮ろうかと思って……」
○○「ああ、そういうことか。じゃあ早速……」
文「?」
○○「お、丁度いいところに。おーい魔理沙ー」
文「ええ!?ちょっと○○さん!」
魔理沙「なんだ○○?っと、彼女も一緒だったか」
○○「まぁな。それで、ちょっと写真を撮ってくれないかな?」
文「え、か、彼女って……!」
魔理沙「おやすいご用だぜ。じゃあ早く並びな」
○○「ほら、文」
文「や、あの……その……」
魔理沙「ほらもっとくっつけよ、二人とも」
○○「だってさ」
文「あ、あうう……」
魔理沙「それじゃ撮るぜー。はい、チーズ!」
パシャ

7スレ目895

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