米国から提供された秘密情報「特別防衛秘密」(特防秘)であるイージス艦情報を海上自衛隊内で漏えいしたとして「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」違反に問われた3等海佐に対し、横浜地裁が有罪判決を言い渡した。
防衛省が安全保障にかかわる秘密情報の管理を充実させるのは当然である。しかし同時に、「秘密」指定にあたって過度に範囲を広げることがないよう注文したい。
事件は昨年1月に発覚した。海自2曹の中国人妻が入管難民法違反容疑で神奈川県警に逮捕され、2曹の自宅でイージス艦情報の入ったファイルが押収された。県警と海自警務隊の捜査で3等海佐が「流出源」とわかり、11カ月後に逮捕、起訴されたものだ。
防衛省の内部調査で、流出したファイルは海自内で38人が無許可コピーしていたことが判明しており、今年3月に上司を含めた58人が処分を受けている。
調査ではこの事件とは別に、広島県江田島市の海自第1術科学校で作成された教材に特防秘の内容が含まれていたことも明らかになっている。
防衛省改革会議の報告書は、こうした特防秘の流出を「尋常でない拡散」と指摘した。同省は情報流出対策会議を設置し、管理責任の明確化や私有パソコンの持ち込み禁止などの対策を講じたが、規律を欠いたずさん管理を一掃し、厳格なルールを策定、実施すべきであるのは論をまたない。
一方、今回の事件は、日米の外交問題にも発展するという特異な経過をたどった。昨年4月の日米防衛首脳会議で日本側は情報流出を陳謝し、両政府は8月に「日米軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)に調印した。協定はミサイル防衛(MD)など秘密情報の共有進展に対応したものだが、米側が事件で、日本の情報保全体制に対し不信感を募らせた結果であることは間違いないだろう。
今回の事案は、自衛隊外への情報流出に至っていないうえ、「情報の外部流出のチェック体制も十分とは言い難い状況にあった」(判決)など防衛省側にも問題があった。にもかかわらず刑事責任が問われたのは、米国への配慮からではないかとの指摘がある。米国からの軍事技術や先端兵器の受け入れに支障を来す事態に厳しい姿勢を示す必要があるとの判断が反映していたのかもしれない。
防衛上の秘密情報は、特防秘のほか、自衛隊法の「防衛秘密」と「省秘」がある。その指定は防衛相が行う。秘密保護対象が必要以上に拡大すれば、行き過ぎた秘密主義、隠ぺい体質の助長に結びつき、防衛・安保政策への国民の不信を招くことになる。防衛省には、国の安全を脅かす秘密情報の保護と国民への積極的な情報提供の間で、バランスの取れた判断を求めたい。
毎日新聞 2008年10月29日 東京朝刊