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2008年10月29日

◎解散先送りへ 景気対策優先が望ましい

 次期衆院選が年明け以降に先送りされる見通しが強まった。サブプライムローン問題に 端を発した金融危機の激震はいまだ収まらず、欧米はもとより、比較的健全といわれた国内金融機関の経営をも揺さぶっている。世界恐慌の入り口に立つ危うさを思えば、政治空白はできるだけつくらぬ方がよい。

 特に株式市場の暴落と金融機関のバランスシートの急激な悪化は、極めて危険な火種で ある。政府が検討している追加的な経済対策や市場安定化対策の多くはまだ骨子案が示されただけであり、早急に細部を詰める必要がある。

 リーマン・ショック以後の株安・円高は、あらゆる投資の指標をもってしても説明でき ない異常な値動きをしている。政府は常軌を逸した市場に対し、空売り規制を前倒しで実施したほか、閣僚が市場介入や利下げについて発言するなど異例の「口先介入」を行った。極端な株安・円高が実体経済に及ぼす悪影響を最小限に抑え込むために必死になっている様子がうかがえる。今やれる政策を総動員して市場の動揺を抑え、国民の不安を取り除かねばならない。

 解散の先送りには、民主党などが強く反発している。小沢一郎民主党代表は、米国で大 統領選が行われている例を引き合いにして「政治空白になるというのは本筋の議論ではない」と批判したが、選挙日程を動かせない米大統領選と、解散時期を調整できる衆院選を同列に論じるのは無理がある。国民の多くは「今は選挙どころではない」という思いが強いのではないか。少なくとも追加経済対策や市場安定化対策は早急に成立させねば効果が半減しかねない。

 麻生太郎首相が解散先送りの意向を固めた理由には、選挙情勢が厳しく、政権を失うか もしれないという恐れがあるのは事実だろう。だが、景気対策で打つべき手を打ち、円高や株安がある程度落ち着けば、解散圧力はいやでも高まる。そのときになって、政権の延命を図ろうとしても世論は許すまい。民主党はまず目の前にある国難を乗り切るために、政府・与党に歩み寄り、ともに知恵を出し、汗を流してほしい。

◎仏との自治体交流 歴史都市づくりの刺激に

 フランス・ナンシー市で金沢市などが参加して開かれた初の日仏自治体交流会議は、第 二回が金沢で二〇一〇年春に開催されることが決まった。交流拡大が見込まれるフランス各都市は、藩政期以来の歴史や文化の厚みを生かした都市づくりを進める金沢にとっても学ぶべき点が多々あろう。姉妹都市提携から三十五年となるナンシーとの関係を軸に、「ラ・フォル・ジュルネ金沢音楽祭」で縁を深めた発祥地のナント、さらにはパリなど他都市にネットワークを広げ、今後の都市づくりの刺激にしたい。

 金沢市は来月四日に施行される「歴史まちづくり法」で第一号の認定が有力視されてい る。城下町の遺産が色濃く残り、いわゆる「歴史都市」として全国でも注目される存在となってきたが、世界に目を向ければ、欧州、とりわけ文化大国を自負するフランス各市はより大胆で徹底した都市政策が進められている。無電柱化に象徴される景観対策、公共交通の活用、音楽やアートで街を活性化させる手法なども大いに参考になる。

 フランスは遠く離れた国ではあるが、近年ではミシュランの日本版ガイドを通じて日本 への関心が急速に高まっている。自治体交流の裾野の広がりは観光誘客や伝統工芸の販路拡大など、さまざまな分野で果実が期待できるだろう。

 第一回の日仏自治体交流会議は日本側から県、市町合わせて十二自治体、フランス側か ら二十二自治体が参加し、金沢、ナンシー両市が日仏双方の代表となって二日間の日程で開催された。今年は日仏交流百五十周年に当たり、両国でさまざまなイベントが展開されたが、都市間交流は国同士の関係を強める太い幹となる。姉妹都市交流も同じ自治体同士の固定化した付き合いにこだわるだけでなく、横にも連携を広げれば新鮮な関係が築かれるだろう。

 こうした国際的な都市ネットワークに参加することは、金沢という都市の個性を世界的 な視野で見つめる機会になる。奈良や京都、鎌倉などとは異なる「近世城下町」という歴史都市の顔を際立たせる場にもしていきたい。


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