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2008年10月29日

 都内の8つの病院に受け入れを拒否されて死亡した妊婦の夫が、「当直医を責めないでほしい」と訴えた言葉に、胸が詰まる

息を引き取る直前、意識の戻らぬ妻の腕に、病院職員は赤ちゃんを抱かせた。その配慮に夫は感謝した、とも報じられた。痛ましい出来事の中で知った人の心の優しさである。心の優しさを知っただけに、不幸な出来事の悲しみが、なおさら際立つ

医師を責めれば、職を辞すかもしれない。医師不足が進めば、同じ悲劇がまた起きるだろう。失意の中で、事態を冷静に見つめる「医師を責めないでほしい」に、頭が下がる

それなのに、厚労省と都が責任をなすり付け合う一幕があった。妊婦が搬送されたのは今月4日。厚労省に報告が遅れたことを指摘して、舛添大臣は「都には任せられない」と批判した。石原知事は医師不足こそ国の責任であるとやり返し、「国には任せられない」と、互いに相手を責め立てた

たんかを切るのが得意の2人である。が、悲しみの夫が述べた「責めないでほしい」ほど心打つ言葉が、どれだけあるだろう。けんかをしている場合ではない。


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