麻生太郎首相の近隣外交が活発化している。先にはアジア欧州会議(ASEM)首脳会議に出席のため訪れた北京で、中国の胡錦濤国家主席、温家宝首相、韓国の李明博大統領と就任以来初の会談を行い、信頼関係の構築などを確認し合った。
日中首脳会談で、麻生首相は「両国は永遠の隣人であり、共益の関係にある」とし、「戦略的互恵関係」の必要性を強調した。これに対し、胡主席も「日中関係は既に新たな歴史のスタート地点に立っている」と期待感を示した。日中首脳間のホットライン開設でも合意した。
日韓首脳会談では、双方が未来志向の関係促進で一致するとともに、首脳が相手国を相互訪問する「シャトル外交」が継続されることになった。さらには先送りされてきた日中韓首脳会談を年内に日本で開催することなども決まった。
日本と中国、韓国の関係は、小泉純一郎元首相による靖国神社参拝問題などで冷え込んだ。その後、安倍晋三、福田康夫両首相で改善へと動いたが、ともに短命政権で関係を深めるには至っておらず、今回の会談の行方が注目された。
麻生首相といえば、外相時代には東欧から中央アジア、東南アジアを結ぶ地域の安定と発展に向け、日本が新興国の民主化などを支援する「自由と繁栄の弧」構想を提唱した。これが、中国封じ込め論と受け止められて中国側の警戒感を高めさせた。韓国についても、歴史認識をめぐる発言でぎくしゃくした関係になったことがある。
それだけに懸念されたが、まずは無難な滑り出しといえよう。麻生首相は対中韓強硬派とのイメージを意識し、持論を封印して友好ムードの演出に努めた。次期衆院選を視野に、得意の外交で得点を稼ぎ政権浮揚を図る狙いが見え隠れする。さらには、双方が懸案事項に踏み込んだやりとりを控えたためで、信頼関係はこれからだ。
金融など国際的な秩序が崩れていく中で、各国との連携の重要性は一段と増している。その連携の在り方を、どう外交でつくっていくかが問われる。ASEMでは、新たな金融秩序の構築へ主導権を握りたい欧州勢の積極的な戦略が目立ったが、日本は存在感を十分示せたとはいい難い。
近隣外交で足元を固めることは大切だが、目先の得点稼ぎでなく大きな展望に立ったものでないといけない。麻生首相は持論と中国などとの関係をどう位置付けていくのか。大局からの新たな外交戦略を内外に示す時といえよう。
高齢化がピークを迎える二〇二五年の医療・介護費用は、現在の四十一兆円から九十一兆―九十四兆円と倍以上になる。政府の社会保障国民会議が試算を公表した。
新たな公費負担は十四兆―十五兆円に上り、消費税で賄うと税率を4%引き上げなければならない。しかも、一定の経済成長を前提に税収増や保険料収入増などを見込んでのことだ。さらなる負担増の可能性がある。
重い負担の是非をめぐる議論は重要だが、最も肝心な点は、現状でも医療崩壊や介護難民が指摘されているだけに、将来的に安心できるサービスが受けられるかどうかだ。国民会議は、試算の前提として「国民が求めるサービスの必要額をはじき出す」との立場から、サービスを充実させ、国民ニーズに応えるための医療・介護改革シナリオを描いている。
改革シナリオは、救急や手術など集中的な治療が必要な急性期医療に医師や看護師らを手厚く配置する。また、ヘルパーら介護職員を現在の約百十七万人から二百五十万―二百五十五万人に増やすことなどを提示した。目指しているのは、欧米に比べて長い医療機関への入院日数を大幅に短縮し、治療の必要度が低い高齢者は介護にシフトしてもらうということだろう。
退院可能なのに長期入院する「社会的入院」などの解消は理解できる。だが、労働環境の悪化で介護職員の確保が困難といわれている現状がある。今後、今より二倍強も職員を増やせるのか。介護施設の充実や二十四時間対応の訪問介護体制の整備も進むのかといった課題が山積する。国民会議の試算を契機に、議論が負担増をめぐって特化するのではなく、医療・介護のあるべき姿に深化させることが大切であろう。
(2008年10月28日掲載)