米ロスアンゼルスで開催されているPDC 2008において、Windows 7が正式に発表され、その概要が紹介された。前バージョンのVistaは2006年末にRTM、2007年1月にコンシューマー向けの出荷が始まったので、たった2年で次のWindowsというわけだ。XPからVistaまで5年もの間隔があったことを考えると、これから出荷に向けて要する期間を考えても、倍近いスピード感がある。 ●6.0から6.1へ すでに紹介されているように、Windows 7の内部バージョンは、Windows 6.1で、Vistaの6.0に対するマイナーアップデートとなっている。マイクロソフト的にはWindows 1.0から始まり、2.0、3.0と続き、Windows 95が4.0、Windows 2000が5.0、XPが6.0なので、6.1を7として出すのは、ちょっとイレギュラーなブランディングであり、かつてのWindows Meのようなマーケティングバージョンととらえられても仕方がないだろう。 だが、手元で動いているWindows 7を見る限り、今までさわってきたWindowsの中で、もっとも期待できそうな感触を持った。古くからPCとかかわってきた方はご存知だろうが、この感覚はWindows 3.0が3.1になったときと似ている。 ただし、PDCで配布されたWindows 7は、PDC Buildと呼ばれるバージョンで、基調講演で紹介された華やかな機能の多くは実装されていない。見かけはVistaとほとんど変わらないため、言われなければ気がつかないくらいだ。 だからというわけではないが、安定度は今のところ抜群で、そのまま使い続けてもいいくらいに感じる。 実際、この原稿は、英語版のWindows 7 PDC Buildに、日本語版の秀丸エディタをインストールし、デフォルトでインストールイメージに入っていて、設定するだけで使える日本語MS-IMEを使って書いているが、不安定さは微塵もない。もっとも日本語のレンダリングに多少の問題はあるようで、メニュー等の表示がうまくいっていないようだが、この段階のビルドであることを考えれば、とんでもなく完成度が高いといえる。 それは、逆に考えると、Vistaからあまり変わっていないともいえるわけだ。 ●フルチューニングされたVista Windows 7の目玉は3つの要素によって構成される。 1つは、Enhanced Windows TaskbarやWindows Aero Desktop Enhancementsなどによって実現される次世代のシェルGUIの実装だ。 そしてもう1つは、Internet Explorer 8であり、最後の1つは各種のWindows Liveサービスとの連携によるSoftware Plus Service的な味付けだ。 ご存知の通り、後者の2つは、すでにベータが一般公開されていて、誰もがすぐにでも体験することができる。そして、派手で目を惹くシェル拡張は、今回のPDC Buildには実装されていない。これはPDCに間に合わなかったのではなく、あえて実装しなかったととらえることはできないだろうか。 Microsoftの多くの失敗は、土台や屋台骨ががしっかりしていないのに、新たな機能を継ぎ足し継ぎ足しで体裁を整えてしまうことで起こっていた。Windows Meなどは、その典型だっただろうし、過去のMS-DOSの時代を考えても、行き当たりばったりのその場しのぎで増築改築を繰り返していた。鳴り物入りでリリースされる新バージョンは、本当の意味での新築ではなかったということだ。 でも、今回のWindows 7は違う。これはフルチューニングされたVistaであるといってもいいと思う。そして、Vistaの構造を大きく変えることなくカリカリにチューニングすることで、OSとしての安定度、堅牢性、レスポンスを向上させたのではないか。つまり、Vistaはもともと、きわめて素性のよいOSであることを訴えたかったように思う。だからこそ、PDCというこの重要なタイミングで、あえて、目を惹く機能を省略したビルドを配布したのだ。シェル拡張のために新たなAPIなども用意され、このビルドにも実装されているには違いないが、それを使う事例を実装しないことで、Vista本来の持ち味をアピールしたかったのだろう。 PDCなどのカンファレンスで最初に配布されるベータにも達していないビルドなど、目新しいというだけで、日常的に使うには無理があるのが従来の常識であり、インストールして新機能の実装を一通り体験したら、さっさとアンインストールしてしまうのがこれまでだったわけだが、今回は、ちょっと違うように感じる。今までのMicorosoftであれば、間違いなく、新たな機能をフル実装し、不安定ながらも新しさを感じるビルドを配布していたに違いない。それをしなかったところにMicrosoftのVistaに対する自信と、OSのあり方に対する考え方の変化が見てとれる。 ●アップグレードの期待 このことは、Windows 7待ちに意味がないという考え方も生む。仮にWindows 7が正式に出荷されるのに、あと1年程度かかったとして、2009年末前後にRTMすると仮定しよう。それまで、XPを使い続けてVistaに移行するよりも、さっさとVistaに移行しておいて、Windows Vistaがリリースされたときに、まるで、サービスパックを導入するようなイメージでWindows 7に移行する方が、不具合に遭遇する可能性はずっと低く抑えられそうだ。 たぶん、Windows 7は、すでに世の中に数多く出回っているコンシューマー向けのVista PCに対してのアップグレードパッケージがものすごく売れることになるだろう。XPからVistaのときには、プレインストールのOSなどコンシューマーがアップグレードするようなものではないという論調を多く見かけたが、今回は、その傾向が少し異なることになりそうだ。 妄想に近いといわれるかもしれないが、もう1つ考えられるのは、MicrosoftがWindowsに対して複数のシェルを提供するという展開だ。つまり、Vistaと何も変わらないWindows 7と、新たなシェルを実装したVista改7である。 今回の新シェルは、デモンストレーションを見る限り、GPUの機能をフルに使い、デスクトップとタスクバーまわりの使い勝手に大きく手が入れられている。たとえば、デスクトップは多くのウィンドウを開いたときにも、操作したいウィンドウを特定しやすくなっているし、限られた広さのデスクトップで、複数のウィンドウ間でデータをやりとりしやすい工夫が加えられている。ウィンドウをドラッグしてデスクトップの左右両端にドラッグすれば、端部分にウィンドウがスナップしてサイズが最適化されたり、開いているウィンドウが透明枠で表示し、任意のウィンドウをアクティブにできるといった未来的なGUIが用意されている。 また、タスクバーは、開いているウィンドウをタスクボタンとして表示する役割を拡張し、単にアイコンのみが並ぶようになり、バーの横幅を有効に使える。マウスポインタをホバーすれば、そのウィンドウのサムネールがポップアップし、その気になれば、そのサムネールでウィンドウ操作までできるようだ。 さらに、タスクバーには、実行中のタスクのみならず、実行前のプログラムやドキュメントをドラッグ操作で配置することができる。Mac OSを知るユーザーには、ドックのようなイメージだといえばわかりやすいかもしれない。 これらのことからわかるのは、ユーザーにとって、開いているプログラムやドキュメントの名前はどうでもいいこと、そして、それらのオブジェクトがすでに開かれているのか、まだ開かれていないのかも、あまり重要なことではないということだ。土台がしっかりとしているために、新実装されたFault Tolerant Heapなどによって、閉じるのがたいへんなくらいに大量のウィンドウを開いてもビクともせず、その結果、ユーザーはますます多くのウィンドウを開くようになるだろう。従来のタスクバーでは、収集がつかなくなりそうなデスクトップ状況でも、きっと簡単に自分のやりたいことを続けることができるはずだ。 付属のアプリケーションでは、電卓がインテリジェントなものになっていたり、Windows Media Playerでは、MPEG-2ファイル、iTunesのAACファイルや、AVC/H.264 がサポートされるようになり、WordpadやPaintではOffice 2007で導入されたリボンのGUIを採用、ライブプレビューなどもサポートされ、適用前のフォントサイズやフォントがダイナミックに反映され、編集結果がわかりやすくなっている。だが、これらの要素はWindows 7にとっては枝葉末節にすぎない。 それに対して、Windows Vistaをベータ期間を含め、3年近く使ってきた立場でないと気がつかないくらいの細かいところに手が入り、その使い勝手が高まっている点は、高く評価したい。 当たり前の話だが、Windows 7は完全にXPを凌駕したものになるだろう。こんな段階のビルドを少しさわっただけで、こんなに期待してしまうのは初めてだ。VistaのSP1が出たときにも同じことを思ったが、このビルドが最初のVistaとして出ていたら、世の中はそれを絶賛し、業界の動きは多少違っていたかもしれない。 □関連記事
(2008年10月29日)
[Reported by 山田祥平]
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