2008-04-28 漢字検定2級です
初めて会った人などに「あの漢字どう書くんでしたっけ?」などと申し訳なさそうに訊かれると、わたしはネタのつもりで「まかせてください。わたし漢字検定2級ですから」と答える。
そして、取ったのが随分前なため、わたしが漢字を書いて渡したメモは「……それは違うと思います」とさらに申し訳なさそうに返されることが多い。
「漢字検定2級」がどれだけ生きていく上で無意味なものか、たいていの人は知らないから、誰も「漢字検定2級」について突っ込んでくれない。
「2級なのに書けないんですか!?」と突っ込んでほしいんじゃなく「2級なんて取って、なに時間を無駄に使ってるんですか!?」と突っ込んでほしいのに。
テレビは観ないと昨日書きつつ、そういえば先週テレビで『テレビチャンピオン』観た!
漢字検定準1級という、わたしよりも上級者の小学生が漢字の書き順を間違えて泣いていた。
たしか「卍」の書き順だっただろうか?
泣くだけじゃなく、鼻水が垂れて口に入りそうで入らないのをテレビカメラは長いあいだ捉えていた。
天才とふたりで、「うわー! この男の子、明日学校でいじめられるだろうなぁ」
「いや、わたしはいじめられないと思うよ。わたし知ってるもん。世の中には、いじめづらい子というのが存在するんだよ。いくら奇行を繰り返しても、関わりたくないから誰もいじめないんだよ。……まぁ、わたしがそんなだったんだけどね」
食卓が一気に暗くなった。
「『卍』って、2画で書けばよくない?」
天才のひと言で、わたしたちの間の空気は、ちょっとだけ明るさを取り戻した。
2008-04-27 岩、かわいい
テレビはほとんど観ない。
天才が観ないからという理由で、わたしもついでに観なくなったら、なんとなくそのまま4年くらいが経った。
観ないことに慣れ始めて、でもまだちょっと慣れてない頃は変だった。
「わたしはこれから、ちょっとばかしテレビを観るよ」
どうしても観たい番組があるとき、そうして不自然に、高らかに宣言してからブラウン管テレビの電源を入れた。
ところが最近では、わたしのほうがテレビが苦手になっている。
天才は、ここ1年くらいだろうか……夕飯を食べながらテレビを付け、チャンネルをものすごい早さで変えるということをよくやるようになった。
チャンネルが3周くらいしたところで、「観たい番組がないなら付けなきゃいいじゃーん」とわたしが言い、天才はテレビの電源を切る。
だけど、『鉄腕ダッシュ』だけはわけが違う。
「ねぇ、今日、日曜だよ」
「ほんとだ! 鉄腕ダッシュだ」
ふたりとも曜日の感覚がなくてよく忘れるけど、観らるときには必ず『鉄腕ダッシュ』を観る。
これも1年くらい前からの習慣だけど、10回くらいしか観られたことがない。
わたしの大好きな動物、オオサンショウウオが見つかるか見つからないかというときには、ハラハラドキドキした。
「なかなか、いないもんだなぁ。……わッ、いた! かわいいー!!」
ついつい、目の前にいる天才というより、テレビに向かって声を発してしまった。
そういうとき、テレビを見慣れてなくて、テレビに話しかけ慣れてないわたしはものすごく恥ずかしい。
「あはは。つい話しかけちゃったよ、テレビにね。でもオオサンショウウオは特別だよね。かわいいからね。声出ちゃうよ、どうしてもね」
無駄にペラペラと言い訳をした。
「でも君がかわいいと言ったの、岩だよ……」
天才が言った。
「……」
川の岩陰に潜んでいるという天然のオオサンショウウオは、まだ見つかっていなかった。
わたしはオオサンショウウオの、あの岩みたいな背中とかが好きなのだけど、わたしがかわいいと言ったのは、岩そのものだった。
オオサンショウウオはやっと見つかった。
水中カメラによってオオサンショウウオの動いている姿が、あいかわらずブラウン管のまま買い替えてないうちのテレビ画面に映し出される。
わたしは、声を出さずにむしろ息を潜めて待った。
カメラがオオサンショウウオに寄っていって、あの、左右非対称であまりにもてきとうな目とか、一直線に長い口とかが映し出されるのをじっと待った。
オオサンショウウオの顔は、チラッと映されただけだった。
すぐに場面は変わって、今度は次の天然記念物、なんて種類かは忘れたけど亀を探すTOKIOの別のメンバーが薮の中を掻き分けていた。
わたしにとって亀は、オオサンショウウオと並んで1番好きな動物だけど、亀の顔もあまり映してはくれなかった。
「顔を……顔を……なんで映してくれないのかねぇ。残念だなぁ。もっと観たかったなぁ」
今度はテレビじゃなく天才に向かって言った。
「君ほど、亀やオオサンショウウオの顔を長い時間観ていたい人がいないからじゃないかな」
その話をしている頃には、TOKIOはイリオモテヤマネコの足跡を見つけ、ガイドの人に「いま現れてもおかしくないってことですか」「そうですね。可能性としてはありうるでしょう」なんて話をしていた。
たかだか4,5年前はテレビばかり観ていたというのに、好きな番組の『鉄腕ダッシュ』さえ、展開の早さに付いていけないときがある。
イリオモテヤマネコは夜まで見つからず、固定カメラにかろうじてお尻としっぽだけが映っていた。
2008-04-24 寝つけなかった朝
作詞:みんなのうた参照
作曲:みんなのうた参照
編曲:森にえ
歌:森にえ
イラスト原案:天才
イラスト:森にえ
制作:森にえ
ニコニコ動画にも同じものを載せました。
実は、前のほうの日記で載せた…『ノルウェイの森』ー緑の「何もない」ー …って動画もひっそりとニコニコに載せていました。
誰にも言わず、どこでも告知せず載せて、「誰だ? 神だ!?」みたいなコメントが付くのを待っていました。
そこまでいかないにしても「わたしだけにはわかる」みたいな真の仲間が50人くらい見つかるんじゃないかなぁ、とわくわくしていました。
ところが数日後、見てみたらコメントが「登録者コメント」……つまりわたしが付けた「ムササビ」しか付いていません。
それだけならまだしも、「登録タグ」……あれは見た人が自由に変えられるんですね。
わたしが真の仲間を見つけようとして付けたタグ、「社会不適合者」と「ニート」は消され、代わりに「ひどすぎる」と「何がしたいのかわからない動画」というタグが付けられていました。
「ひどすぎる」のタグが付けられていたのは、わたしを含めたった8人。
「何がしたいのかわからない動画」にいたっては4人ですよ!
真の仲間は、見つかったみたいです。
2008-04-23 声高らかに
わたしメンヘルなんですよ!!!
忘れちゃいませんか?
わたし自身とか、この日記を見る人とか。
わたしメンヘルなんですよ!!!(強調)
カタカナとか使ってよくないですか?
ココロガイタイ
……
だめだ。
上のは、なんか字面がのど飴みたいだ。
じゃあ、これでどうですか?
サミシイ
……
だめだ。
刺し身っぽい。
って、そんなことが言いたいんじゃないんです。
感情にまかせて書いてしまう、みたいなそういうことがしてみたいなぁ、と時々思います。
特定の人相手には、いつだって感情にまかせて書いたり言ったりして、それで後で後悔するくせに。
後悔しているくせに。
後悔しているくせにーーーーー!!!!!
わたしはこの「楽しい日記」という場で、何を守ろうとしてるんだろうかって思います。
嫌になったので、またへんな動画でも作ろうと思います。
2008-04-18 魚喃キリコが続々届く
Amazonで、新刊だったり、極端に安く買えるものは中古でだったり、魚喃キリコさんのマンガをほぼ全コンプリートな勢いで注文したため、ここ数日、毎日、魚喃キリコさんのマンガが届く。
今まではAmazonといえば、天才が注文するばかりで、開けずに「はい、受け取ったよ。相変わらずAmazonさんは箱が大きいね。エコロジーじゃないね」「いいんだよ。この箱自体、再生紙なんだから」というやりとりをしてきたけど、ここ数日は、届いたら即、箱を開ける。
メール便で届いた中古商品も即、開ける。
カードとか領収書の名義とか、そういった細々とした事情で、注文者の名義を天才の名前にしているため、魚喃キリコかと思ったらグルジェフが出てきて驚いたりもする。
驚くと同時に、ものすごくがっかりする。
わたしは今さらながら魚喃キリコ中毒だ。
名前はずっと前から知っていて本屋でいつも見かけていたというのに、今までなんで読んでこなかったか。
答えは自分で知っている。
大判のマンガで、おもに女性が読むような、そういうマンガが嫌いだったからだ。
古本屋でペラペラ見て、「ふ〜ん、恋愛ね。セックスね」ってそんな扱いをしてきた。
でも違う、魚喃キリコさんだけは違うんだ。
なんか違うんだ。
圧倒的に違うんだ。
ナナナンナナナンナナナン……
「そういえばナナナさんがね……。違った、『ン』が抜けた。ナナナンさんがね、こういうこと描いてたんだよ」
天才に対し、口を開けば魚喃キリコさんの話ばかりしている。
そのくせ、さっき「わたし、天才と話してても、もう楽しいと思えないんだ。ドキドキしないんだ。天才もそうじゃない? いつからだろうね。初めからかね」そんなことを言った。
膝を抱えて丸まりながら「虚しいんだ」と呟いた。
膝の上におでこを付けたまま、「こうして世の主婦は昼ドラにはまっていくんだね」と、ついでに今期の昼ドラを毎日欠かさず観ている自分を正当化したりもした。
2008-04-17 『ノルウェイの森』ー緑の「何もない」ー
2008-04-16 渡辺一輝の輪
たいへんだ!
昨日「渡辺一輝」と書いたことにより、アクセス数が急増している。
リンク元を調べると、6人もの人が「渡辺一輝」で検索してきている。
誰なんだ、渡辺一輝!?
わたしも「渡辺一輝」について調べてみた。
ウィキペディアには載っていなかった。
作家でもない。
俳優でもない。
わたしも渡辺一輝を求めて、いろんなブログに痕跡を残す。
こんなふうにして、「渡辺一輝」の輪は広がっていくのだ。
2008-04-15 お仕事ご苦労さんです。
渡辺一輝さんから「お仕事、ご苦労さんです。」という件名のメールが来た。
内容は、男性向けのエロ広告だった。
渡辺一輝さんは、きっと本名じゃない。
だからこうして名前を出しても差し支えないだろうと思って書いてみた。
まゆみさんからもよくメールが来る。
わたしのパソコンには、メールが来ると、デスクトップに表示させてあるグレーのメールマークが赤色になって、1件なら「1」と表示され、「ピコン」となるソフトを入れてある。
でも、渡辺一輝さんからのメールも、まゆみさんからのメールも、勝手に迷惑メールに分類され「ピコン」とはならない。
渡辺一輝さん、お仕事ご苦労さんです。
でもエロ産業で働いてるあなたのことをわたしは嫌いです。
ついでにわたしは仕事をしていないので「ご苦労さんです」と言われてもあたふたしてしまいます。
2008-04-13 クッキー食べた
クッキー食べたってことは、なんだかもう健康なんだと思う。
天才がアイドルイベントに出かけて行って、わたしは家にひとり。
何もする気が起きない。
薬を飲むのが面倒くさい。
薬置き場より遠い、パソコンのある部屋へと、のそのそやってきた。
天才が出かける前「アイドルイベントに行ったって書くね〜」と伝えたら、なんかモゴモゴ言っていた。
あんまり記憶がない。
確か、それは事実だけど、他の事実を隠していやしないか……と、そういうことだったと思う。
そうだそうだ、そうだった。
それに対しわたしは「こっちには、取捨選択する自由があるんだも〜ん」と答えたんだ。
かわいそうだから本当のことを書いておこう。
「友人の友人が素人アイドルで、彼女の出演するイベントに行った!」
それが事実。
なんだ、変わらないじゃん!
わたしが寂しいことにも変わらないじゃんか〜!!
わたしは究極のアイドル、クリィミーマミのDVDをみ……ようとしたけど、やっぱり眠っていようかな。
2008-04-11 昨日の日記の追記
アナウンサーの方へ
歌う歌は、プロフィールのところにある『これから』でよろしくお願いします。
わたしが今よりももっとパソコンが使えなかった頃、ふたりの知人が「曲、付けてあげようか」と言って、その後いっさい『これから』の話題には触れなくなったという、伝説の曲です。
「メトロノームがわたしに合わん!」
と、何度も歌って声を嗄らした果てに、メトロノームを切って録音した曲でした。
数日前、天才がいきなり「ピアノで曲を作ることにした。練習台に君の『これから』を使わせてもらう」と言い出したけど、その後の報告はありません。
2008-04-10 プカプカ
最近は浮き沈みが激しくて困ります。
昨日、急浮上して「やったー!このまま上り調子だー」と思ったら、今日実家から電話がかかってきました。
母に「殺す」と言われました。
身内は、所在がバレてるだけに怖いです。
家に来るんじゃないかとか、ケータイは着信拒否にしたけどファックスが大量に送られてくるんじゃないかとか、ビクビクしています。
昔ワイドショーで、ストーカー殺人事件の被害者が生前ホームページに「怖い。殺されるかもしれない」とか「わたしが殺されたら犯人はあいつだから」とか綴っていたのをアナウンサーが読み上げていたことを思い出しました。
もしそんなことになったら、アナウンサーにはぜひ、わたしの作詞作曲した歌も歌ってほしいものです。
よろしくお願いします。
2008-04-09 桜散る季節、わたしは他人を罵倒した
2010年、桜もほとんど散りかけた季節、わたしはパソコンに取り込んだまま1度も見ていなかった動画を見た。
偶然に。
場所は井の頭公園。
季節は、大半の桜が散っていることから見てとれるように、動画を見たときと同じ頃である。
何年前のものかはわからない。
撮影者は夫で、映っているのはわたしだ。
わたしが橋の上にしゃがみ、手すり越しに水面を見つめている姿からその動画は始まる。
突如わたしはカモを呼び始める。
「カーモカモカモカモカモ。カーモカモカモカモカモ」
「ぽーっぽっぽっぽっぽ」という、鳩の鳴き真似そっくりのイントネーションだ。
「カモいないや。……遠くにいっちゃったのかな?」
と言ってわたしは立ち上がる。
身を乗り出しながら、これでもかというほどカモを呼んでいる。
「カーモカモカモカモカモ。カーモカモカモカモカモ」
そのうち、キツネの影絵をするようなジェスチャーも付けて、カモを呼び始める。
たぶんカモのクチバシを模して、カモに親近感を抱かせようという作戦なのだと思われる。
やっと水面に、二匹のカモが連れ立って現れた。
それをビデオカメラはしっかりと捉えている。
現れたはいいが、すぐに遠ざかっていこうとするカモをファインダー越しのわたしは「カモ〜」と切ない声で呼び止めていた。
そしてカモが遠ざかるのを食い止めようとしたのか、なんの食べ物も持っていないというのに、腕を振り上げ、餌をやる真似をする。
それを繰り返す。
何度何度も腕を振る。
フレームの外にいる女性ふたりの声が入っていた。
「きゃー。やだ」
「手がだってさー」
「餌! あげてる振りだ!!」
しゃぼん玉が飛んできて、カモに餌をやる振りをしているわたしを取り囲む。
カメラはわたしを中心に、大きく景色を捉える。
そこには散り遅れた桜とシャボン玉、いきいきとした表情のわたしが映っている。
「邪魔! カモ撮ってたのに〜」
今度ははっきりと聞き取れる声で、さきほどの女性ふたり組のうちのひとりの声が聞こえた。
わたしの顔がアップで映し出される。
わたしはカメラに歩み寄って行く。
だが、それはすぐに、カメラに歩み寄っているのではなく、ふたり組の女性に歩み寄るわたしを、同じ歩調でカメラが写しているのだとわかる。
彼女たちに歩み寄りながら、わたしは叫んでいた。
「なんだよー
ちきしょー
ちきしょー
カモ呼んだっていいじゃんよー
なんだよ
なんだよ
シャボン玉、邪魔くせぇんだよ」
滑舌が悪くて、ゆらゆらと歩き、他人を罵倒しているわたしは酔っ払いみたいに見えた。
でも笑っている。
いきいきと笑っている。
わたしは「きー」と言ったあと、二人組の女性を振り返った。
そこでやっと彼女たちふたりの姿が映る。
写真を撮るための携帯電話と、シャボン玉のストローを手にしたまま、半笑いでわたしを見つめている。
卑屈な笑みだ。
ときおりふたりで顔を見合わせる彼女たちは、明るい色に髪を染め、おしゃれな古着を着てフルメイクをしている。
対照的にわたしは、髪は乱れ、化粧はしてるんだか、してないんだかわからない。
咽の奥まで見えそうなほど大口を開けて笑っている。
笑いながら彼女たちに向かって叫ぶ。
「ぶーす」
わたしはカメラを追いかけてステップを踏むように歩きながら、彼女たちから遠ざかっていく。
そのうち立ち止まり、遠くの水面を眺める。
顔は横髪に隠され、鼻と口だけが見える。
一瞬目を閉じたのか、顎が少し上がると同時に、まつ毛が動く。
「カモ、いなくなったね」
夫の声が初めて聞こえた。
一拍おいて、わたしが振り返る。
「うん。……戦ったよ」
「誰と?」
「シャボン玉吹いてる人と」
わたしはまた、満面の笑みを浮かべていた。
動画を見終わったとき、わたしは思った。
それまでわたしは、交通ルールや公共道徳に関して、老若男女に罵倒されてきた。
後で思い返すと、たいていは双方に非があったり、罵倒した相手にむしろ非があるということが多かった。
わたしは卑屈な半笑いを浮かべるか、咄嗟に言葉が出なくてポカンとするかで、見知らぬ他人に言い返すという経験がなかった。
だけど動画に映っていたあの日、大半の桜が散ってしまった季節、わたしはほんの少しの変化を遂げた。
実際どちらに非があるかよりも、傷付いたり卑屈になったほうが疲れるのだと知った。
それ以来、笑えなくなるたび、見知らぬ他人を楽しそうに罵倒している自分が映る動画を見るようになった。
見るたび「もう笑い方は覚えたから、ファインダー越しでなくても笑える」と思う。
2028年4月9日記す
2008-04-07 電車に乗って1時間ちょっと……だけど8ヶ月親の顔見てない
(『くだらない唄』と『続・くだらない唄』が一緒に入っているけど、後半の『続・くだらない唄』が好き)
昨日、中野駅前桜まつりなんていう庶民的イベントを堪能した。
ステージで歌う60前後の演歌歌手の歌を聴いて涙ぐんだ。
わたしもいろいろあるけど、60年も生きてれば彼女にもいろいろあったのだろう。
愛とか恋とか孤独とか、「死んじゃおうかなぁ」とか、そりゃあ、当たり前のようにいろいろあったのだろう。
枝垂れ桜の後ろには卒塔婆が立て掛けてある、という穴場スポットで夫とふたり、ネギ焼きを食べた。
「わたし胃炎だけど、ネギ食べても平気かな?」
「むしろネギは胃にいいんじゃないか」
数日ぶりに、おかゆと梅干し以外のものを口にした。
『桜も今日で見納めか……。まだ咲いてるけど、もうわざわざ見に来たりはしないな。今年はよく桜を見たなぁ』
そんなことを考えながら、夫の背中を見ながら自転車をこいで家に帰った。
途中、ちらほら桜の木を見かけた。
わざわざ出かけて行って見る桜も好きだけど、思いがけず目に飛び込んでくる桜も同じくらい好きだ。
もうすぐ家に着くというとき、ケータイが鳴った。
先を行っていた夫に、声とジェスチャーで「ストップ」と伝え、ケーキ屋の前に自転車を寄せ、電話に出た。
母からだった。
「お父さんとお母さんね、創価学会に入ることにしたから」
前々から回らなくなっていた家計がいよいよ駄目になったらしい。
家賃が払えないから今のアパートを出ること、生活保護を受けること……それらと創価学会とがどう繋がるのか、わかるようでよくわからない。
何か優遇されるのだろうか。
とりあえず、鬱病から寝たきりになって内臓もやられてる父が死んだときは、わたしの知らない人たちが大勢参列するのだろうと、その光景を想像した。
そしてわたしがそこへ遅れて到着したとき、嫁入り道具として持たされた家紋付きの喪服を着ていないことを母に問い詰められ、「ごめん……とっくに捨てた」と答えるのだろうというとこまで考えたとき、今ここがケーキ屋の前だということを思い出した。
ガラスの壁越しに、色とりどりのケーキが並んでいた。
「わかった。じゃあ、新しい住所が決まったら連絡してよ」
そう言ったあとに、自分から「連絡して」なんて言ったことを後悔した。
母からの電話は、いつもわたしを消耗させる。
今回は電話に出てそうそう「創価学会に入ることにした」だったけど、前は開口一番「お父さんを燃やすことにした」だった。
よく聞いてみると、生きたまま燃やそうって話ではなく「お父さんはもう死ぬかもしれないけど、葬式を出すお金もないから、役所で燃やしてもらうだけにする」
と、鬱病で動けない父を病院にも連れて行かず、部屋に寝かしたその傍から電話をかけてきていた。
「お父さんを燃やす」という電話を受けてからだと思う。
わたしはBUMP OF CHICKENの『続・くだらない唄』をよく聴くようになった。
たいてい電車のホームとか、歩きながらとか、ひとりになったときに聴く。
聴くたび涙を流す。
電車に乗って2時間ちょっと、都会に出て来た。
小さなそのプライドを見せてやろうとした。
電車に乗って2時間ちょっと、いつでも帰れると、
軽く考えていたのがそもそもの間違いだった。
(略)
湖の見えるタンポポ丘の桜の木下で、
手ごろな紐と手ごろな台を都合よく見つけた。
半分ジョークでセッティングしてそこに立ってみたとき、
マンガみたいな量の涙が溢れてきた。
数年前にこの場所でよくこっそり泣いたっけ、
「あのこに振られた!」だとか、可愛いもんだったけど、
数年前と同じで気持ちで朝日を待ってんだ。
あのやたらとくだらない唄を歌いながら。
2008-04-05 時間の感覚がない〜
昨日の日記で「昨日」と書いたのは「今日」な気がする。
昨日にとっての「今日」。
つまり「昨日」。
あー、わかんない。
書いてて意味わかんない。
と思ったところへ、いま夫が帰ってきた。
「乙女ちゃんが死んだのは昨日?」
「……おととい」
え〜っと。
昨日にとっての昨日はおとといで……
大丈夫。
合ってた。
喪失感は時間差でやってくる。
そのことをわたしは知っているはずなのに、勢いでいろんな物をなくしてきた。
たとえば、ミクシィのマイミクとか。
「えいやッ!」って消すからね、わたしは。
それで後で後悔する。
そっか。
乙女ちゃんが死んだのは、わたしが消したんじゃないんだっけ。
なんだか虚ろだ。
家の中でよく転びそうになる。
2008-04-04 食道炎だけど歌います
少し前から胸が詰まるような感覚があったから、昨日いつもの鍼灸院と、病院に行った。
鍼灸師は肋間神経痛だろうと言い、内科の医師は胃炎と食道炎だろうと言った。
内科で胃カメラを飲ませてくれなかったのは遺憾です。
遺憾の意を表します。
(子どものころ、「遺憾の意」って、「『遺憾』の『遺』」だと思ってた。
これで伝わるだろうか。
「あり」の「あ」みたいな感じ。)
わたしは苦しみながら胃カメラを飲むのを覚悟して行ったのに。
むしろ苦しんで「なんともなかったよ」って言われてすっきりしたかったのに。
夕方家に帰って「うー。胃炎だよー。食道炎でもあるよー。肋間神経痛はちょっと違うような気がするけど、鍼灸院の先生にはお世話になってるからそんなこと言えないよ」と泣きながら、ふとゲージの中を見たら、スナネズミが死んでいることに気付いた。
「うわーん。うわーん。なんで死んじゃうのよ!」
まだ柔らかい、でも冷たい……ネズミを手のひらに乗せて、怒りながら泣いた。
病院に行く前にゲージを見ていれば、死ぬのは止められなくても、死ぬ12時間前とかではなく数時間前の姿を見られた。
「乙女」という名前のスナネズミを、桜の木の下に植えた。
桜の下に「乙女」。
とても乙女チックだと思う。
うちに来る人は必ずと言っていいほど、2匹いたスナネズミのうち「こっちが乙女だよ」と言うと、「もう1匹のほうが、乙女って名前が似合う」と言った。
それを見越して、おもしろいから付けた名前だった。
わたしの生命力が弱ると飼っている動物が死ぬ。
そんなのは気のせいだろうか。
いつもどおり世話をしているつもりでも、何か抜けているのか。
実家で飼ってたカメが、たて続けに2匹死んだ数日前、わたしは自殺未遂をしている。
(プロフィールのところにあるこの曲、実話ですhttp://www.sepia.dti.ne.jp/tmth/korekara2.mp3)
もう1匹いるスナネズミの未来(ミク)ちゃんが死なないように、わたしは元気に歌う。
今度は歌だけじゃなく、iMovieを使って動画を作るから、今日中には出来上がらない。
まずはAmazonで買ったiMovieの使い方の本を読まないと。
待ってて未来ちゃん!!
だけどゴメン! わたしが歌おうとしてるのはまたイカロスなんだよ。
「勇気ひとつを友にして」……飛び立って死んじゃうんだーーーーー。