2008-05-06 もう綱に登り直す必要がない
サーカスが来ると
二人ドキドキして
「まだぼくは君を」なんて
「きっとうまくいくわ」なんて
綱渡りみたいに
今日はゴールデンウィーク最終日。
晴れ。
一昨日は天才とふたりで新宿御苑に行ったけれど、今日はどこへも行かなかった。
晴れていたけど行かなかった。
「どこかへ行こう」と誘われたけど行かなかった。
天才は下の本に書いてあることに習い、モーニングページという起きたばかりの朦朧とした頭で、毎朝30分思いついたことを書き続けることにより、わたしのことを「好きじゃなかった」「いてもいいけどいなくてもいい」「今までわたしを撮った数千枚の写真にも思い入れはない」という自分の本心に気付いたと言った。
それはいっときの気分ではなく、本当の「本心」らしい。
創作意欲が高まるだけの本かと思ったら、人の人生まで変えてしまうなんて恐ろしい。
「ジュリアさんなんて!!」と泣いてみたけどどうしようもない。
ノートを見返せばいつでも自分の本心を思い出せる天才と違って、モーニングページをやっていないわたしにできることと言えば、ゴールデンウィークにふたりで「としまえん」あたりに行って、「きっとうまくいくわ」なんて勘違いしないことくらいだ。
今からでも間に合う大人のための才能開花術 (ヴィレッジブックス)
- 作者: ジュリアキャメロン, Julia Cameron, 鈴木彩織
- 出版社/メーカー: ソニーマガジンズ
- 発売日: 2005/07
- メディア: 文庫
2008-05-05 わたしだけに残る思い出
2008-05-01 空の巣症候群
今日すること
……ない。
したいこと
……ない。
仕事ができなくて家にばかりいた夫が、仕事場を借りて巣立って行った。
一緒にいたからといって、夫は寝てるしわたしは寝てるしで、寝てる人間がひとり減っただけだ。
午前11時半頃、ピンポンって玄関のチャイムが鳴ったからパジャマにジャケットを羽織って出た。
エホバの人だった。
わたしの好きなマンガ『NHKにようこそ!』をそのまま実写化したような人だった。
といっても、岬ちゃんじゃなく岬ちゃんのお母さんにそっくりなのだ。
化粧をきちんとしてツーピースを着て、顔と体がちょっと横に大きめで、日傘を差していた。
ふたり組で来るって本当らしい。
もうひとり、後ろに立っているのは申し訳なさ気な「教頭先生」といった雰囲気の男性だった。
「お休みのところすいません」
岬ちゃんのお母さんが言った。
「昨日、ご主人に聖書をお渡ししたのですが」
『あぁ。あれか……」
と思った。
昨日、お昼近くまで寝ているわたしの枕元に夫がスッと置いた聖書だ。
「起こしてもいいけど、聖書で起こさないでよ」と怒った。
「ごめん。俺もエホバからもらった聖書で君を起こしたのは悪いと思っている」
『しかもエホバか!?』
昨日聖書を渡したというエホバの人に、パジャマにジャケットを羽織っただけで、顔さえ洗ってないというのに「すいません。今から出かけるところなんで」と言ってドアを閉めた。
また寝よう。
楽しげで、天気のいいゴールデンウィークが過ぎ去るのを寝て待とう。
ついでに夫が仕事場から帰ってくるのも寝て待とう。
2008-04-28 漢字検定2級です
初めて会った人などに「あの漢字どう書くんでしたっけ?」などと申し訳なさそうに訊かれると、わたしはネタのつもりで「まかせてください。わたし漢字検定2級ですから」と答える。
そして、取ったのが随分前なため、わたしが漢字を書いて渡したメモは「……それは違うと思います」とさらに申し訳なさそうに返されることが多い。
「漢字検定2級」がどれだけ生きていく上で無意味なものか、たいていの人は知らないから、誰も「漢字検定2級」について突っ込んでくれない。
「2級なのに書けないんですか!?」と突っ込んでほしいんじゃなく「2級なんて取って、なに時間を無駄に使ってるんですか!?」と突っ込んでほしいのに。
テレビは観ないと昨日書きつつ、そういえば先週テレビで『テレビチャンピオン』観た!
漢字検定準1級という、わたしよりも上級者の小学生が漢字の書き順を間違えて泣いていた。
たしか「卍」の書き順だっただろうか?
泣くだけじゃなく、鼻水が垂れて口に入りそうで入らないのをテレビカメラは長いあいだ捉えていた。
天才とふたりで、「うわー! この男の子、明日学校でいじめられるだろうなぁ」
「いや、わたしはいじめられないと思うよ。わたし知ってるもん。世の中には、いじめづらい子というのが存在するんだよ。いくら奇行を繰り返しても、関わりたくないから誰もいじめないんだよ。……まぁ、わたしがそんなだったんだけどね」
食卓が一気に暗くなった。
「『卍』って、2画で書けばよくない?」
天才のひと言で、わたしたちの間の空気は、ちょっとだけ明るさを取り戻した。
2008-04-27 岩、かわいい
テレビはほとんど観ない。
天才が観ないからという理由で、わたしもついでに観なくなったら、なんとなくそのまま4年くらいが経った。
観ないことに慣れ始めて、でもまだちょっと慣れてない頃は変だった。
「わたしはこれから、ちょっとばかしテレビを観るよ」
どうしても観たい番組があるとき、そうして不自然に、高らかに宣言してからブラウン管テレビの電源を入れた。
ところが最近では、わたしのほうがテレビが苦手になっている。
天才は、ここ1年くらいだろうか……夕飯を食べながらテレビを付け、チャンネルをものすごい早さで変えるということをよくやるようになった。
チャンネルが3周くらいしたところで、「観たい番組がないなら付けなきゃいいじゃーん」とわたしが言い、天才はテレビの電源を切る。
だけど、『鉄腕ダッシュ』だけはわけが違う。
「ねぇ、今日、日曜だよ」
「ほんとだ! 鉄腕ダッシュだ」
ふたりとも曜日の感覚がなくてよく忘れるけど、観らるときには必ず『鉄腕ダッシュ』を観る。
これも1年くらい前からの習慣だけど、10回くらいしか観られたことがない。
わたしの大好きな動物、オオサンショウウオが見つかるか見つからないかというときには、ハラハラドキドキした。
「なかなか、いないもんだなぁ。……わッ、いた! かわいいー!!」
ついつい、目の前にいる天才というより、テレビに向かって声を発してしまった。
そういうとき、テレビを見慣れてなくて、テレビに話しかけ慣れてないわたしはものすごく恥ずかしい。
「あはは。つい話しかけちゃったよ、テレビにね。でもオオサンショウウオは特別だよね。かわいいからね。声出ちゃうよ、どうしてもね」
無駄にペラペラと言い訳をした。
「でも君がかわいいと言ったの、岩だよ……」
天才が言った。
「……」
川の岩陰に潜んでいるという天然のオオサンショウウオは、まだ見つかっていなかった。
わたしはオオサンショウウオの、あの岩みたいな背中とかが好きなのだけど、わたしがかわいいと言ったのは、岩そのものだった。
オオサンショウウオはやっと見つかった。
水中カメラによってオオサンショウウオの動いている姿が、あいかわらずブラウン管のまま買い替えてないうちのテレビ画面に映し出される。
わたしは、声を出さずにむしろ息を潜めて待った。
カメラがオオサンショウウオに寄っていって、あの、左右非対称であまりにもてきとうな目とか、一直線に長い口とかが映し出されるのをじっと待った。
オオサンショウウオの顔は、チラッと映されただけだった。
すぐに場面は変わって、今度は次の天然記念物、なんて種類かは忘れたけど亀を探すTOKIOの別のメンバーが薮の中を掻き分けていた。
わたしにとって亀は、オオサンショウウオと並んで1番好きな動物だけど、亀の顔もあまり映してはくれなかった。
「顔を……顔を……なんで映してくれないのかねぇ。残念だなぁ。もっと観たかったなぁ」
今度はテレビじゃなく天才に向かって言った。
「君ほど、亀やオオサンショウウオの顔を長い時間観ていたい人がいないからじゃないかな」
その話をしている頃には、TOKIOはイリオモテヤマネコの足跡を見つけ、ガイドの人に「いま現れてもおかしくないってことですか」「そうですね。可能性としてはありうるでしょう」なんて話をしていた。
たかだか4,5年前はテレビばかり観ていたというのに、好きな番組の『鉄腕ダッシュ』さえ、展開の早さに付いていけないときがある。
イリオモテヤマネコは夜まで見つからず、固定カメラにかろうじてお尻としっぽだけが映っていた。