エイズ問題が深刻化するアフリカ・カメルーンで、食糧高騰のあおりを受けた粉ミルクの値上がりにより、エイズウイルス(HIV)母子感染を防ぐ保健活動に暗雲が垂れこめている。粉ミルクが買えず、感染の元になる授乳を行う母親が出てくる可能性があるからだ。市民団体は「対策が値上がりに追いつかない」と困惑している。
「月収の半分が粉ミルク代に消える」。南西部の商都ドゥアラ。ベニヤ板で築かれた簡素な住まいで、団体職員のベーテさん(30)が、6月に出産した長男クリスチャンちゃんをあやしながら、沈うつな表情で話す。
ベーテさんは03年にHIV感染が発覚したが、夫(33)との間に長女ビクトリアちゃん(5)をもうけた。クリスチャンちゃんは2人目で、現在のところ、2人とも母子感染は確認されていない。
市民団体などによるとこの1年で粉ミルクの値段が倍になった。「物価上昇が生活苦に追い打ちをかけている。でも何とか子どもたちを元気に育てたい」と話す。
国連機関によると、同国の15~49歳のHIV感染率は5%を超える。人口1800万人余りの同国で、0~14歳のHIV感染者は4万5000人にも上る。政府や非政府組織(NGO)の母子感染予防対策を受ける妊産婦は04年に11%だったのが06年に22%と倍増した。しかし、まだ広くは行き渡っておらず、母子感染予防は大きな課題だ。
日本の政府開発援助「HIV/エイズ信託基金」の支援を受ける非政府組織「カメルーン家族計画協会」のンガペ事務局長は「粉ミルクは感染者の母親にとって不可欠だ。しかし、値上げに対策が追いつかない」と嘆く。政府も世界的な食糧高騰になすすべもない状態なのが実情だ。
さらに、燃料費もこの1年で4倍になっており「交通費の上昇がHIV感染者の治療や支援へのアクセスを妨げている」(同事務局長)状態で、事態は深刻度を増している。【カメルーン南西部ドゥアラで高尾具成】
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■ことば
エイズウイルス(HIV)感染者である母親の妊娠・出産で、胎児や新生児、乳児がHIVに感染すること。胎盤、産道、母乳を通じた三つの感染経路がある。新生児の感染率は予防しなければ20~30%だが、複数の抗ウイルス薬の投与や帝王切開、母親からの授乳禁止を組み合わせることで1%以下に抑えられるという。
毎日新聞 2008年10月28日 東京朝刊