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「救急受け入れ問題FAQ」再掲2008.10.27 Monday
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■患者の受け入れが不能である理由、および今の医療の現状。
削除されたエントリの中で取り上げられた「救急受け入れ問題FAQ」を読みたい…という要望がありましたので、現在製作されている分までをここに掲載します。
●なんで急患の受け入れを断るの?
・(人員・設備が足りない…などの)物理的問題で、(受け入れると犯罪になってしまうケースがある…などの)法的問題で、断らざるを得ない状態にあり、これは「受け入れ拒否」ではなく「受け入れ不能」なんです。
●なんで「専門外だから」が断る理由になるの?
・「専門外の患者を受け入れるのは犯罪」という司法の判例(奈良心タンポナーデ事件)があるからなんです。
●ベッドが無いなら、廊下で治療すればいいんじゃないの?
・「設備不十分な状態で患者を受け入れるのは犯罪」という司法の判例(加古川心筋梗塞事件)があるんです。
・そもそも、「ベッド」「ベッド」って言われてますけど、病院でいうところの「ベッド」は、心電図とか、酸素マスクとか、呼び出し用ボタンとか、それを管理する人員とか、それら全て「込み」ですからね。もはや「ベッド」というより「設備」と言ったほうが適当かも。
●応急処置してから、他の病院に移すのは駄目なの?
・「応急処置の後、他病院に転送するのは犯罪」という司法の判例(上に同じく、加古川心筋梗塞事件)があるんです。
●なんで、一度断った病院が、後になって受け入れるなんて事があるの?
・救命中であった患者が「落ち着く」か「亡くなる」かのどちらかで、病院側に「空き」が出来たからです。
●有名人や金持ちだったら嬉々として受け入れるんじゃないの?
・西村真悟議員の息子の飛び降り自殺…アレも、重度のうつ状態で入院の必要があるとされながらも、「ベッドが無い」という理由で入院できませんでしたよね。もはや、コネやカネではどうにも出来ない程に、患者の受け入れが困難な状況なんです。
●ぶっちゃけ、人の命より金儲けのほうが大事なんでしょ?
・金儲けのほうが大事だったら、そもそも、不採算部門である救急なんて、最初からやりません。
●医師が足りないなら、海外から医師を呼んだらいいんじゃない?
・本国より遥かに待遇の悪い日本に来る理由が見当たりません。…というのも、実は、日本の医師の待遇は、諸外国のソレよりも遥かに悪いんです。
●ドクターヘリを導入したら?空からなら直通でしょ?
・ヘリを導入するにも、周囲の建物が邪魔で安全に飛べなかったり(ビルに激突、民家に墜落…の危険性あり)、ヘリポートのある(作れる)病院が少なかったり、騒音問題で導入を反対する住民がいたり…など、色々と問題が山積みなんです…。
・あと、ドクターヘリを必要とするほどの重症患者を扱う「3次救急」自体の数が減っていることも問題の一つとなっています。
●リアルタイムでベッドの空き情報の分かるネットワーク、システムを作ったらいいんじゃない?
・いくら良いシステム、良いネットワークを作っても、医師の手術スピードが上がる訳でもなく、患者を診るための設備が増える訳ではないため、根本的な解決とはなり得ません。
・また、それに近いシステムが既にあるのですが、現在、病院側にそのシステムを操作するマンパワーが足りないために、空き情報をリアルタイムに更新出来ない…という問題が発生しています。
●救急病院が急患を受け入れられないなら、救急病院を辞めちゃえば?
・現実に次々と辞め…ていうか、潰れていってるんです…。過去5年で430件以上…。
・特に、重症患者を扱う「2次救急」、救急最後の砦である「3次救急」が減っていることが深刻な問題となっています。
・また、一つの病院が救急を撤退してしまうと、その病院が受け入れていた患者が他の病院に流れ込み、その病院のキャパシティをオーバーして受け入れ不能…という、「受け入れ不能のドミノ状態」に陥ってしまう…という危険性があります。
●1次・2次・3次って何?どれも救急病院じゃないの?
・救急病院は、患者の緊急度の度合いによって、「1次救急」「2次救急」「3次救急」…と種別されています。
・「1次救急」は、入院や手術の必要が無い患者が対象で、「2次救急」は、入院や手術が必要な患者が対象、「3次救急」は、1次・2次では対応できないレベルの重症患者が対象となっています。
・ここ数年、救急医療が不要なレベルの「軽症患者」が、夜間救急…特に「2次救急」「3次救急」に駆け込み、夜間救急がパンク状態になっている事が、深刻な問題となっています。
●2〜30件も断わられる事なんてあるの?
・大多数の救急が、マンパワー不足・キャパシティ不足のために、常にパンク寸前(or 本当にパンク)の状態に陥っており、2〜30件、いや、それ以上断られる可能性は、大いにありえます。
・また、過重労働で医師が倒れる、燃え尽きて退職…などで、救急を辞める病院も出ており、今後は「受け入れ不能」状態が加速、最悪、「たらい回せる病院」すら無くなり立ち往生…という事態もあり得ます。
なお、上記のFAQは、『「救急受け入れ問題FAQ」を作りませんか?』というエントリにて、自分で調べた範囲での知識に加え、医療事情に詳しい方の意見を聞きながら製作しています(現在進行形)。
救急受け入れ問題に関する新しい質問、およびその回答などがありましたら、上のエントリのコメント欄にてコメントお願いします。
■補足:「救急崩壊」の現実を記した動画。
出来れば、下の動画もご覧下さい。
救急医療の現場での過酷な実態が記されています。
NEWS ZERO「救急崩壊」1日目。
患者を断らざるを得ない「受け入れ不能」の実態。
NEWS ZERO「救急崩壊」2日目。
経営難により「2次救急」を撤退する病院が相次ぎ、
本来「2次救急」で扱う患者が「3次救急」に流れる現実…。
NEWS ZERO「救急崩壊」3日目(1/2)。
夜間救急に多数の患者が押し寄せ、病院がパンク、
その患者の8割以上が、救急医療が不要なレベルの「軽症患者」…。
NEWS ZERO「救急崩壊」3日目(2/2)。
「私達の病院を守ろう」「コンビニ受診を控えよう」と
立ち上がった市民、その取り組みとは…。
…。
……。
………。
この問題は「医師の怠慢」によるものでは、決してありません。
「個人の努力ではどうにもならないほど、医療が崩壊している」のです。
それを分からずに…というか、一切調べようともせずに、脊髄反射で「医者の怠慢だ」とか「殺人病院だ」とか「医は仁術だろ」とかいう香ばしいブログは、正直、無くなっちゃったほうがいいと思う。その考えは変わらない。そういう香ばしいブログを晒し上げにしたのは、良くなかったと反省はしているけれども…。
…マスコミも、そのへんの医療事情をちゃんと報道してくれないかなぁ…。
■再掲:「加古川心筋梗塞事件」と「奈良心タンポナーデ事件」
『「たらい回し」ではなく「受け入れ不能」。』より再掲。
「加古川心筋梗塞事件」「奈良心タンポナーデ事件」は、救急受け入れ問題を語る上で非常に重要な事件といえるので、覚えておいて損はないと思います。
この「救急受け入れ問題」を扱ったブログを色々と読んでいて、
「ベッドが無いなら、ソファーでも…」
「応急処置を施してから、他の病院に転送すれば…」
などという声が多く見られたのですが…。
その事なんだが、過去に、心筋梗塞で亡くなった男性の遺族が起こした裁判があってね…。
その時に、
「設備不十分で患者を受け入れるのは無責任」
「応急処置して他病院に転送するぐらいなら、最初から設備のある病院に回せ」
という判決を、大阪高裁が出してしまっているんだ…。
※詳細は「加古川 心筋梗塞」で検索プリーズ。
その司法の判例に従うと、
「ベッドが無かったのでソファーで診療する」
「十分な設備が無かったので、応急処置の後に、設備のある他病院に転送する」
などといった行為は「違法」…という事になってしまうんですね。
マンパワー・キャパシティの問題だけでなく、「司法の判決によって、医療従事者が行える選択肢を摘まれてしまっている」という事も、「救急受け入れ問題」の大きな要因になってるんだよな…。
「専門外の患者を受け入れられない」という事についてですが…。
その事についてなんだけどね…。
「2次救急」では、各診療科の医師が、日替わりで当直…という形態を取っている(マンパワー不足でそうせざるを得ない)。
だから、「外科医しかいない」「内科しかいない」「泌尿器科しかいない」という事態が、どうしても起こってしまうんだよね。
で、「訴訟リスク」と言われる物についてですが…。
やっぱり、その事に関しての「司法の判例」があったりするんですか?
うん、ある。
交通事故で死亡した男性の遺族が、救急を担当していた脳外科医を訴えた事件があってね…。
その裁判で、大阪高裁が
「医師は、専門外の分野であろうと、専門医並の医療行為が出来なければいけない」
という判決を出したんだ…。
※ちなみに、この裁判の場合の「専門医」とは「心臓・循環器系の医師」のこと。
※裁判の詳細は「奈良 心タンポナーデ」で検索プリーズ。
でも、専門化が進んでる現代医療で、全ての分野の症状を、パーフェクトに対応出来る医師なんて、この日本に…。
いないね。
仮にいたとしても、漫画やドラマの中のスーパードクター位だ。
だから、この裁判の判決は、実質「専門外の患者を受け入れる事は、違法行為である」という宣告…って事になる。
それで、「専門外の患者を受け入れる」という事が出来なくなった…という訳なんですね…。
これも、司法の判決によって、医師が取れる選択肢を摘まれた結果なんだわ…。
上記のやり取りは、事件の大まかな部分についてを記したもので、詳細については、Googleなどの検索エンジンで検索される事をお勧めします。
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