任期満了に伴う岡山県知事選挙は、二十六日、投開票が行われた。無所属で現職の石井正弘氏が、無所属新人で桃太郎のからくり博物館館長の住宅正人氏を破って四選を果たした。
三期十二年間、財政難への対応に終始してきた石井氏だが、再び今年六月に財政危機宣言を行った。難局に当たって、石井氏の経験に裏打ちされた手堅さに期待した有権者の数が勝った。石井氏は次の四年間で間違いなく県財政を立て直し、県を発展に導かなければならない。責任はこの上なく大きい。
投票率は43・78%と前回選挙(37・99%)を上回った。知事の多選批判や衆院解散・総選挙との絡みで政党が表舞台から姿を消したが、石井県政の評価と財政危機克服が争点となった分かりやすい選挙が有権者の関心を引き、投票率の低下傾向に歯止めがかかったようだ。
まず危機克服
八月に県が公表した財政試算は二〇〇九―一八年度に毎年度三百五十三億―四百五十億円の財源が不足し、一〇年度にも財政再生団体へ転落の恐れがあるとした。
就任直後の危機は過去の積極的な公共投資に伴う借金返済がかさんだもの。今回の危機は地方交付税削減が響き、また借金返済で県の基金が底をついていたため、というのが知事の説明である。
石井氏はここ数年、行革の効果が表れ、最悪の状況は脱したと強調していた。突然の再度の危機宣言は、波紋を広げた。「これまでの努力は何だったのか」という県民の疑念はなお深い。
危機宣言を受けての財政構造改革プラン素案には大幅な人件費抑制や事業縮小、市町村、団体への補助金削減などが盛り込まれた。緊縮財政で公共事業などが大きく落ち込んだ中でのさらなる行革で、県民生活や地域経済に深刻な影響が懸念されている。
石井氏は十一月に構造改革プランの最終方針を示し、行革の総仕上げを行うと訴えてきた。財政難の経緯を説明しつつ痛みを最小限に抑え、危機脱却を果たす困難な仕事がこれから始まる。
発展基盤生かせ
財政難克服と並行し、県の発展も至上命題である。この九月、赤磐市にベアリング大手の新工場建設が決まった。この二十年間でようやく二件目の投資額百億円を超える企業立地だった。
県は〇五年春、大規模立地に最大七十億円を補助する制度を設けたものの、いまだに適用例がない。昨年から今年にかけ、大手家電メーカーの数千億円規模の工場誘致二件を、相次いで逃した。
岡山県には財政難と引き換えに整えた発展基盤がある。本州と四国を結ぶ瀬戸大橋、はしご状の高速交通網、三千メートル滑走路の岡山空港など交通基盤はその最たるものであろう。企業誘致には大きな武器であるはずだが、生かし切れていない。有力集客施設の倉敷チボリ公園も曲折の末に今年限りで閉園になる。
七十億円の企業誘致補助制度は三重県の先行例にならったものだ。県の施策は多くが後手に回っていることは否めない。県内識者からも「先見性やスピード感に欠ける」との指摘が出ている。
リーダーシップを
分権の時代、道州制の議論が進んでいる。石井氏は中四国州を提唱してきた。広島県は広島市を州都に中国州を唱えている。国や大企業の出先が集まる拠点性をアピールし、岡山県への対抗心むき出しにみえる。平和都市・ヒロシマの知名度も強みだ。
岡山市の来年春の政令指定都市移行が決まった。人口規模などは差があるが、格としては広島市と同じになる。岡山県が地域間競争を勝ち抜いて西日本の雄県に飛躍するために知事に求められるのは、新たな拠点戦略を示し、県民のやる気を引き出すリーダーシップであろう。
前提となるのは、知事への信頼だ。選挙に勝ったとはいえ、新人の住宅氏が善戦したことは、それだけ石井県政の継続に対する疑問が根強いことを表している。石井氏は今回の結果を素直に受け止めなければなるまい。
知事と県議会の距離も開いているという。県民との新たな信頼関係を築くことが課題であり、石井氏は今までと変わる必要がある。