東京都立墨東病院(墨田区)など8病院に受け入れを断られた後に脳出血で死亡した妊婦(36)の夫(36)が27日、厚生労働省内で会見し「母親と子供が互いの顔を見ることができなかったことが一番悲しい」と、時折声を詰まらせながら語った。病院や行政に対しては「誰かを責めるつもりはない。妻が死をもって浮き彫りにした問題を、力を合わせて改善してほしい」と訴えた。
夫によると、妻が急に激しい頭痛を訴えたのは、自宅で夫婦でDVDを見ていた4日夕。寝かせても一向に症状が治まらないため、救急車でかかりつけの産科医院に運んだ。電話口で搬送を次々と断られる産科医を見て「医療が発達している東京で、なぜ受け入れてくれる病院がないのか、やり切れない思いだった」と振り返る。
墨東病院に運ばれた時は、既に呼び掛けなければ目を開けない状態で、緊急手術の末、男児は助かったが、妻は脳死状態だった。3日後に亡くなる数時間前、病院は目を覚まさない妻の腕に抱かれるように、子供を置いてくれたという。
8年前に結婚した妻は、芯が強く優しい人柄で、初めての出産を前に胎教のCDを買い込み、おなかの子供に前もって決めていた名前で毎日話し掛けた。「将来、同じことが繰り返されないように医療が変わったら『変えたのはお前の母親だ』と言いたい」と語す。
墨東病院は22日の会見で「かかりつけ医から脳出血を疑われる症状は伝わらなかった」と説明したが、夫は「(医師は)私の目の前で『尋常じゃない』と、ちゃんと伝えていた」と強調。それでも「墨東病院の当直医が傷ついて病院を辞め、産科医が減るのは意味がない。今後も産科医としての人生を責任もってまっとうしてほしい」と力を込めた。【清水健二、奥山智己】
毎日新聞 2008年10月27日 21時42分(最終更新 10月27日 23時33分)