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河瀬直美監督&長谷川京子インタビュー『七夜待』
  河瀬直美監督&長谷川京子インタビュー
「無理をしている女性たちに、頑張り過ぎないでと伝えたい」
 
  『殯(もがり)の森』でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞した河瀬直美監督の待望の新作『七夜待』。何気ない不安やいら立ちを抱く30歳の女性・彩子が、一人旅で訪れたタイで古式マッサージに出合い、それを通して異国の文化や人々と触れ合い、身も心も癒されていく7日間を描いている。ゆったりとしたリズムと幻想的な映像……。観ているだけで心が癒され、滞っているものが流れていくような感覚になれる本作について、河瀬監督と彩子役の長谷川京子に話を聞いた。  
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「古式マッサージと出家僧に惹(ひ)かれて……」

七夜待

―― 本作の舞台はタイですが、河瀬監督はなぜタイという国を選んだのですか?

■河瀬直美(以下、河瀬):タイ古式マッサージと出家僧の姿に惹(ひ)かれたのです。そこに、今の日本人が大切しなければいけないものがあるような気がして。つまり、徳を積むということですね。タイのマッサージをきっかけに、そういったことを学んでいく日本人女性の姿を描きたいと思いました。

―― 河瀬監督が生まれ育った奈良の町とタイは、仏教と共存しているという面で似ていますよね。

■河瀬:タイは大乗仏教、奈良は小乗仏教という違いはありますが、根底に流れるものは一緒だと思います。奈良では仏教が日常に溶け込んでいました。家の隣にお寺があったり、お寺の行事で四季の移り変わりを感じたり。そんな環境で育ったことも、タイに惹か(ひ)れた理由かもしれません。

―― 長谷川さんはタイを訪れたのは初めてですか? また、タイの印象は?

■長谷川京子(以下、長谷川):仕事では何度か訪れてはいましたが、ほとんどがバンコクの滞在でした。バンコクは基本的に観光地なので、そこだけを見て本当のタイの姿はわからないですよね。でも今回の映画では都会からまったく外れた場所でロケをし、タイの方が持つ本来の温かさや陽気さに出会うことができた気がします。

「真実を真実としてとらえる姿勢」

『七夜待』インタビュー

―― 長谷川さんを主演に抜てきした理由をお聞かせください。

■河瀬:長谷川さんはとても自然体な女性で……。しんはしっかりしているのですが、あまり「こうでなければならない」という考えはない方で、フレキシブルにいろいろなことに対応してもらえるんじゃないかという確信を得たのが理由ですね。

―― 逆に長谷川さんは、河瀬監督作品に出演が決まったときはどんな思いでしたか?

■長谷川:もう楽しみで仕方なかったですね。河瀬監督は真実をとことん追究して撮られる方です。観る方のために真実をわかりやすく撮るのではなく、真実を真実としてとらえて、映画作りをなさってきた方です。その姿勢というのはわたし自身もすごく大切なことだと思っていましたから。

「台本の無い芝居」

―― 今回の撮影では、キャストに台本を渡さなかったそうですが、なぜですか?

■河瀬:A地点からB地点に行くのに、いちいち右の人、左の人にあいさつして、セリフもあらかじめ決めていくと、やっぱり何か決まりごとになってしまうんですね。もっと感情の部分を俳優さんたちに委ねるというやり方をしたかったんです。俳優さんというのは、ある台本をその通りに演じるということに慣れていらっしゃいます。感情の起伏を作るよりも、書かれたものを代弁するという感じです。でもわたしは今回、設計図どおりの芝居ではなくて、何が起こるかわからない感情の機微に触れる部分を長谷川さんたちに作り上げてほしいと思いました。そこで、事細かな台本を用意せず、その日やることをメモ程度で毎日手渡すという方法を取り、俳優さんのそのときの感情に任せて素直に演じていただきました。

―― 台本のない演技は難しかったですか?

■長谷川:そうですね。今まで何らかのキャラクターを与えられて表現してきたのに、今回はまったくそのキャラクター設定がないという不安感はありましたね。普段わたしは何をどう話しているんだろう、どんな声のトーンで話しているんだろうと、わからなくなったりしました。自分のやっている行動が正しいか、正しくないかがわからないまま、現場がどんどん進んでいく中で、結果として正しい、正しくないかではなく、こう感じたから、こうたたずむしかないという意味で肝がすわりました。この肝のすわり方は、本作で得た大きな収穫です。また、カメラの前で予定調和なしに、自分自身が何かを感じ、それを表現できるということは素晴らしい経験でしたね。

   
    2/2 「マッサージは心の交流」