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’08記者リポート:富山 エンゼルメーク 遺族に残る思い出 /石川

 ◇亡き人の最期の顔に装い

 人生の最期を迎えた大切な人を、その人らしい外見で送ってあげたい--。医療機関で今、遺族の心のケアの一環として、亡くなった患者の遺体を清潔にする「エンゼルケア」や、その一つで、遺体の顔や傷に化粧を施すなどの「エンゼルメーク」、入院生活の質を高める女性の入院患者へのスキンケアなどの取り組みが注目を集めている。北陸での取り組みや医療機関の現状を報告する。【青山郁子】

 ◇遺族の気持ち

 エンゼルメークや、入院生活の質を高めるための肌の手入れ法を学ぼうと、富山の看護師や臓器移植コーディネーターらが昨年12月、北陸で初めて「富山臨床にいかすメイク・スキンケア勉強会」を発足させた。今月、富山市で開いたエンゼルメークの第一人者、小林光恵さんの講演会には、北陸3県から約160人が参加した。

 病院で患者が亡くなった際、遺体をふき、口や鼻に綿の詰め物をして合掌させるのが一般的。元看護師で「エンゼルメイク研究会」(東京都渋谷区)代表の小林さんは「綿詰めの理由は『悪霊が出る』との迷信。『急に死者らしくなった』と傷つく遺族も多い。出血がある場合など以外は不要」と訴えた。

 勉強会発足メンバーの1人で、代表を務める入江真理さん(46)=富山市=は、富山県アイバンクのコーディネーター。献眼の際、まれに遺体の目の周囲が内出血することがある。その場合、内出血個所をカバーする目的で化粧をしていた。

 「きれいな顔での帰宅でなければ遺族に納得してもらえない」。遺族感情を考慮してのことだが、遺族との間にトラブルが起きることを防ぐため、との意味合いが強かった。

 ◇回避からケアへ

 約2年前に脳出血で亡くなった女性とその家族との出会いが、意識を変えた。女性は手術で頭髪をそられていた。女性の娘は「身だしなみのきれいな母親だったから他人に見られたくないはず」と、かつらを着用させた。

 献眼後、入江さんは2人の娘とともに女性愛用の道具で化粧し、お気に入りの和服を着せた。悲しみに満ちた病室に温かな気持ちが広がった。「メークが遺族の心のケアにつながる」。入江さんは、出血の跡や傷を隠したり、水分を失い、白っぽくなった顔を生前の容ぼうに近づけたりする特殊なメーク技術について独学を始めた。

 ◇男性も入院患者も

 がん告知が進んだこともあり、生前から死に装束を用意する人もいる。洋服の販売員だった20歳代の女性患者は、トータルコーディネートした帽子、服の上下、下着、サンダルまでをあらかじめ病室に備えていた。

 化粧は女性に限らない。元気だったころはゴルフで顔が真っ黒だった父親のため、死後に家族全員で日焼けした顔色にメークした家族もいた。長く化粧していない長期入院患者が、スキンケアやマッサージを受けることで気分が落ち着くなど、入院生活の質が向上することも分かった。

 ◇広がる取り組み

 エンゼルメークなどを巡っては、勉強会が現在、関西や四国など各地で活動している。中心は看護師や移植コーディネーターら。富山県では、砺波市立砺波総合病院が、遺体のシャワー浴やシャンプーなどを取り入れた。

 入江さんは一昨年12月から、北陸各地の医療機関でエンゼルメークのデモンストレーションなどを開始。「自分の家族ならどうしてあげたいかを考えることが大切」と訴えている。病院側の反応は概してよく、遺族の心のケアの一つとの理解は確実に広がっている。

 人手不足が叫ばれる現在の医療現場で、人手と時間が必要な取り組みを新たに始めることは容易ではない。だが、入江さんは「少しずつでも私たちの考え方を社会に広げたい」と話している。

毎日新聞 2008年10月27日 地方版

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