イエス! イエース!
社長の言う通り!
僕の名前は矢風太郎。4B商事に入社して3年目の営業マンだ。月曜日が憂鬱なのはいつものことだけど、火曜日もやっぱり憂鬱だ。
「やってらんないよなあ。今日の企画会議、また福沢諭吉社長が考えた無茶なプランの検討だもんなあ。学習塾に参入するなんて無理に決まってるじゃん」。出社するや否や、ついグチがもれてしまう。
そんな浮かない気持ちで会議室に行くと、意外な人が座っていた。先輩の聖徳太子さんだ。僕はうれしくなって、思わず声をかけた。
「聖徳先輩! ご無沙汰しております。相変わらずほっぺが赤いですね!」
「やあ、久しぶりだね。キミも相変わらず毎日グチってるかい」
本社勤務の聖徳太子先輩には今ではなかなか会う機会はないけど、新人研修の頃には何度も飲みに連れて行ってくれた。ひげなんか生やしている割には酒が弱くて、すぐに赤い顔しては「和をもって貴しとなす……」とつぶやくのが口癖だ。僕はそんなクールで聞き上手な聖徳先輩らしいこの言葉が好きだった。
大好きな先輩に会えて気分が一瞬和んだが、会議は案の定、退屈極まりなかった。諭吉社長は同席していないものの、みんな社長の案にどれだけすり寄るか、ムダな議論ばかりをし始めた。
「イエス! イエース! 社長の言う通り、これから少子化が進んで、一人ひとりにかける教育費が高まりますから、有望な事業だと思います。イエー!」
「イエース! 教育に参入するメリットは大きいですよね。課題は敷地と人員をどうするかですかね。イエー!」
みんな社長のイエスマンばかりだ。聖徳先輩はどう思っているだろう、と見てみると、じっと目を閉じて飛び交う意見に静かに耳を傾けていた。同時に何人もの人の話を聞けるのが先輩の特技だが、内心あきれて聞いているに違いない、と僕は思った。