ここから本文です

ビジネス 2008年10月号

偉人サラリーマンがゆく! 其の一 聖徳太子 安月給に毎日残業、上司にしかられデートもドタキャン。やっぱり辛いぜサラリーマン……なんて、愚痴ってる暇があったら偉人たちの爪の垢でも煎じて飲もうではないか。今度は君が偉人サラリーマンになる番だ!
一頁

イエス! イエース! 
社長の言う通り!

僕の憧れの聖徳先輩。4B商事の凄腕営業マンとして若手から尊敬されている
僕の憧れの聖徳先輩。4B商事の凄腕営業マンとして若手から尊敬されている

僕の名前は矢風太郎。4B商事に入社して3年目の営業マンだ。月曜日が憂鬱なのはいつものことだけど、火曜日もやっぱり憂鬱だ。

「やってらんないよなあ。今日の企画会議、また福沢諭吉社長が考えた無茶なプランの検討だもんなあ。学習塾に参入するなんて無理に決まってるじゃん」。出社するや否や、ついグチがもれてしまう。

そんな浮かない気持ちで会議室に行くと、意外な人が座っていた。先輩の聖徳太子さんだ。僕はうれしくなって、思わず声をかけた。

「聖徳先輩! ご無沙汰しております。相変わらずほっぺが赤いですね!」

「やあ、久しぶりだね。キミも相変わらず毎日グチってるかい」

本社勤務の聖徳太子先輩には今ではなかなか会う機会はないけど、新人研修の頃には何度も飲みに連れて行ってくれた。ひげなんか生やしている割には酒が弱くて、すぐに赤い顔しては「和をもって貴しとなす……」とつぶやくのが口癖だ。僕はそんなクールで聞き上手な聖徳先輩らしいこの言葉が好きだった。

大好きな先輩に会えて気分が一瞬和んだが、会議は案の定、退屈極まりなかった。諭吉社長は同席していないものの、みんな社長の案にどれだけすり寄るか、ムダな議論ばかりをし始めた。

「イエス! イエース! 社長の言う通り、これから少子化が進んで、一人ひとりにかける教育費が高まりますから、有望な事業だと思います。イエー!」

「イエース! 教育に参入するメリットは大きいですよね。課題は敷地と人員をどうするかですかね。イエー!」

みんな社長のイエスマンばかりだ。聖徳先輩はどう思っているだろう、と見てみると、じっと目を閉じて飛び交う意見に静かに耳を傾けていた。同時に何人もの人の話を聞けるのが先輩の特技だが、内心あきれて聞いているに違いない、と僕は思った。

聖徳先輩は頭脳明晰なのはもちろん、道徳的規範にも厳しい
聖徳先輩は頭脳明晰なのはもちろん、道徳的規範にも厳しい

だって塾なんて飽和状態だし、なによりも他産業に手を出す余裕など、今のうちの会社にはたしてあるのだろうか。利益も下がっているわけだし、本業に専念したほうがいいに決まっている。みんなだって本当はそう思っているくせに……と、僕が内心毒づいていると、議長からふいに意見を求められた。

「キミはどう思う?」

» 次のページ
あくびに一撃! の反対意見に一同崩呆然

123次へ