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「反乱」にあこがれと違和感が交錯

2008年10月22日11時11分

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写真当事者世代と、運動を知らない研究者3人が語り合ったシンポジウム「1968+40」=東京・池袋の立教大学

写真1968年9月、東大で行われた全共闘のデモ。現在の平和なキャンパスでは、こういう光景がかつてあったことを想像するのも難しい

 フランスの五月革命など、若者の異議申し立てが世界的に広がった1968年から40年。海外ではその意味を再考する催しが相次いだが、動きが少ない日本でも、最近は若手論客らが68年に言及するようになってきた。怒らないゼロ年代の日本人へのいら立ち、生活保守主義への共感と疑問。かつての「反乱」に寄せる思いには、あこがれと違和感が交錯するようだ。

■時代の気分「似てきた」

 9月下旬、東京・池袋の立教大学で開かれた「1968+40 全共闘もシラケも知らない若者たちへ」と題したシンポジウム(同大、シノドス共催)。パネリストで北大准教授(経済思想)の橋本努さん(40)は、赤木智弘さん(33)がフリーターをしながら雑誌に発表した「『丸山眞男』をひっぱたきたい――希望は、戦争。」が話題を集めたことにふれ、こう続けた。「限りなく戦争に近い、今からみると非常に面白いゲーム=学生紛争で、権威の象徴だった丸山を実際に殴った学生がいたんですよ」

 20、30代が8割以上を占めた約400人の聴衆に向けて、橋本さんは全共闘の学生たちが口にした「自己否定」の動機に、親にほめられるため勉強してきた「いい子ぶりっこ」の自分を否定する願望があったと指摘した。公害など資本主義のひずみが噴き出した高度成長期に受けた「あしたのジョー」のように、展望もないまま「青春を燃やし尽くす」、それが彼らの考える自由だったという。今、時代の気分は「40年前と似てきている」と橋本さん。

 パネリストはほかに、『1968年』(ちくま新書)を書いた全共闘世代の文芸評論家・すが秀実さん(59、すがは、糸へんに圭)と、国際大学GLOCOM研究員の鈴木謙介さん(32)、大阪府立大准教授の酒井隆史さん(43)の社会学者2人。内ゲバや連合赤軍事件へと至る挫折として語られてきた68年の経験が、実は少数派の権利擁護やフェミニズム、環境問題の起点であり現代史の転換点だとする、すがさんの主張をふまえた討論だった。

 しかし、いわゆるロスジェネ世代にあたる鈴木さんは、国家から自立した個人という68年の理念が、逆に新自由主義にのみ込まれ体制を維持している難しさを指摘した。不安定で自助努力を強いられるフリーターの「自由」より、国に雇用を促進してもらい、安定した正社員生活が求められる。「ここに、今の左派のジレンマがある」

 A・ネグリらの『〈帝国〉』(以文社)の翻訳を手がけた酒井さんは、シアトルで99年に起きた反WTOの抗議行動以降、「排除された人たちによる、全く予測しえなかった出来事」が68年と連なる形で海外では続いていると強調。市民を巻き込めなかった日本の68年と今後の展望については、自律した労働運動の必要性を繰り返すにとどめた。

 会場からは「(68年的な)ロマン主義的なアナーキズムは、すでに地位や所得のある人たちの遊戯では」との声が出て、今日的な「反乱」の難しさが浮き彫りになった。

■「雰囲気だけ」「検証を」

 とはいえ、20、30代の研究者による60〜70年代論が出版されたり、68年研究も出始めたりしている。

 『未完のレーニン』(講談社選書メチエ)が話題になった日本学術振興会特別研究員の白井聡さん(31)は、68年世代にとって象徴的だった雑誌「情況」の鼎談(てい・だん)などに登場する。かつての運動家の「自己否定の論理の幼稚さ」を感じつつも、護憲に安住してきた戦後民主主義者に違和感を抱くという。「文明が閉塞し不況が深刻化する今、階級の視点を徹底させるラジカリズム(急進主義)が必要」

 若松孝二監督ら60〜70年代のアンダーグラウンド映画に注目する映画史研究者の平沢剛さん(33)は、4月にパリで開かれた「68年特集」の上映会に招かれ、熱気を肌で感じた。

 「欧米では、暴力事件など負の遺産はあっても、既存のシステムの否定を肯定的にとらえている。緑の党のような政権参加の形もあるし、一方で現在の反グローバリゼーション運動ともつながって、若い世代の可能性を支援する」

 こうした動きを、68年の当事者はどうみるか。神戸女学院大教授(フランス現代思想)の内田樹さん(58)は、全共闘運動はただ時代のうねりの中に流されただけ、といまも批判的だ。「若い世代が関心を寄せている背景にはグローバリゼーションを含む『反米気運』の高まりを感じるが、それは雰囲気にすぎない」と突き放す。

 全共闘世代のすぐ下で、運動に懐疑的だったという東大教授(日本政治史)の御厨貴さん(57)は、あまりにも語られぬまま忘れ去られていることに疑問を感じ、60年代論を執筆中だ。「反抗のようなものが大学から消え去っていいのか、と最近の学生たちを見ていて思う。国家と個人の関係はどうあるべきか。大きな問いに向き合った闘争を検証し、下の世代に伝える必要はある」(藤生京子)

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