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社説:視点 金融危機 市場を制御できる経済を築こう=論説委員・今松英悦

 米国に端を発した世界的金融危機は、経済危機の様相さえ帯びてきた。資金が世界中を流れ回っていることを考えれば、いま元気にみえる国も、安全ではないことは容易に想像できる。

 たった1年半前には、先進7カ国の財務相や中央銀行総裁が、世界経済の状況を数十年来なかったことと自賛していた。

 こうした楽観論を支えてきたのが新自由主義に立脚した経済学だ。財政の肥大化や、政府による経済活動や市場への介入は経済活力をそぐと主張し、小さな政府政策を推進した。公的介入が撤廃されれば、適正な資源配分が実現し、自律的な経済成長にもつながるというのだ。

 英国のサッチャー政権や米国のレーガン政権が先駆けで、規制緩和、民営化などを柱とした「小さい政府論」は90年代以降さらに勢いを増した。

 しかし、米国の住宅バブルが崩壊したいま、制御不可能な市場を人類の成果であるがごとく誇ってきた経済システムの欠陥は明白になった。

 当面は、金融危機や経済危機が世界的な恐慌に深まらないよう、パッチワーク的な対策を講じていかざるを得ない。緊急世界首脳会議もその一環とみることができる。ただ、そうした対策は急場しのぎに過ぎない。その後に、どのような経済の姿を描くのかが大事である。具体的には市場の暴走を制御できる経済システムへの転換である。

 市場が経済活動を円滑に進めていく上で、不可欠の装置であることは間違いない。投資を広く支えていくためには投機も欠かせない。市場での損失を回避するリスクヘッジ機能も認めなければならない。市場が有効に働くためには、透明性が高くなければならない。

 市場原理主義といわれる新自由主義的経済政策の最大の問題点は、政府や財政を市場と対立的にとらえてきたことだ。市場に任せれば、最適の解決策が得られるという錯覚に染まっていたといっていい。政府や規制はその障害という考え方だ。

 しかし、政府のみならず市場もしばしば失敗を犯す。しかも、グローバリゼーションの時代には、その失敗が瞬時に世界に広がる。リスクヘッジのための商品が格好の投機商品ともてはやされ、危機の連鎖はより起こりやすくなっている。

 これは正常な経済とはいえない。新自由主義的経済政策の無政府性は今年のノーベル経済学賞受賞者であるクルーグマン・プリンストン大教授も指摘している。政府や金融監督当局が市場を制御できる経済システムへの組み替えが必要なのだ。

毎日新聞 2008年10月27日 東京朝刊

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